第4話



 樹間を追い風と共に抜ける。

 馬というよりは更に身軽な鹿や、兎のように低い体勢のまま駆け抜けて行った。


 敵がどういう意図や、動きをしているかは分からない。


 だが南に蜀、もっと言えば魏の【定軍山ていぐんざん】があり、北にも魏軍や涼州騎馬隊が展開しているならば、彼には敵がどこを通って退避するか予測はついた。


 西。


 泥のぬかるみが無くなったと思ったら、切り立った断崖絶壁の厳しい山岳地帯が広がり、いよいよ馬や商隊も通れない場所になって来る。

 そのため、このあたりは人気も無くなってくる。


 あるところで捉えた。


 一度捉えると、彼はずっとその気配を追い続けていた。


 敵は早い。

 まるで山の動物のようだ。

 足跡が無く、木の上を移動していることに気付いた。

 

 大勢では無い。

 ただ、複数いるようだ。


 ザザザザ……、


 たった一人に狙いを付けて、追撃を続けた。


 あるところで、

 敵の動きが緩んだ。


 理由は分かった。

 この先は森が続かない。

 つまり、追い詰めたのだ。


 

「――――出てこい!」



 ザン! と馬上から地に降り立った。


 背の剣を抜く。


 闇の中、猛禽のように二つの目だけが、輝いてこっちを見ていた。

 蹲っている。

 木から飛び降りて来る姿は、まるで山猫のような身のこなしだった。



「火を放ったのは貴様らだな」



 黄巌こうがんは切っ先を向ける。



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