~陽太の友情~

放課後の教室。

ざわめきと夕方の光が混ざる中、ユウキはノートを閉じて窓の外へ目を向けていた。


春の風はまだ少し冷たい。

「なあユウキ。今日こそ生物部、行くよな?」


陽太が机に肘をついて言ってくる。

「え、うーん……まだ迷ってて」

「またそれ! お前って“永遠に迷い続ける男”だよな〜」


笑われて、思わず肩をすくめた。

「まあ、優柔不断かもね」

「でもな、生物部ってちゃんとしてる部だから推薦が必要なんだぞ?

俺が“こいつなら任せられる”って思うから誘ってるんだよ」

……照れくさいけど、ちょっと嬉しかった。

「じゃあ、行ってみようかな。生物部」

「きた! よし決まり!」


その瞬間――

「なになに〜? ふたりで秘密の相談?」


聞き慣れた甘い声が背中に降ってくる。

「沙羅ちゃん!」


振り返ると、制服の袖をひらひら揺らしながら沙羅が立っていた。

笑顔ひとつで場の空気が変わる。

「怪しいな〜。こそこそ話してさ」

「ち、違うよ! 生物部に行く話してただけで!」

「前も話してたよね〜。本当に行くんだ。それなら……」


沙羅は胸に手を当て、軽く顎を上げた。

「生物部といえば私でしょ!」


たしかに小学生時代一緒に生物部にいたけど、

この“キャラの強い主張”は沙羅ちゃんらしい。

「でも、生物部って推薦いるらしくて……」


そう説明すると――

沙羅の目が、一気に輝きだした。

まるで新しいおもちゃを見つけた子どもみたいに。

「へぇ〜? 推薦ねぇ……」


沙羅はすっと陽太の正面に立つ。

まっすぐな視線に、陽太は固まった。

「ねぇ、陽太くん。私も生物部、見てみたいな〜。案内してくれるよね?」


にっこり微笑んで、一歩近づく。

次の瞬間――

両手を、ぎゅっ。

「さ、沙羅ちゃんの頼みならもちろん!!

俺、全力で推薦する!! まかせろって!!」


陽太は耳まで真っ赤。

「ありがと〜陽太くん! ほんと“できる男”って感じ!」


太陽みたいに無邪気に笑う沙羅。

その場の空気まで温度を上げる。


(……陽太くん、チョロすぎじゃない?)


心の中でそう突っ込みながら、

胸の奥がふっと軽くなる。


彼女が僕のそばにいる――

ただそれだけで、世界が明るく見える。

「じゃ、みんなで見に行こ? 生物部!」


沙羅が軽やかに歩き出す。

今日もペースを乱されっぱなし。

でも――悪くない。

ユウキが憧れていた日常そのものに見えた。

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