~クラスメイトと昼休み~

昼休み。

机を囲んで笑い声が飛び交い、窓際では誰かがカードゲームを広げている。

窓から入り込む風が、ほんのり花の香りを運んでいた。


ざわめく教室の片隅で、ユウキは弁当を広げていた。


「なあ、ユウキ。今度、生物部の見学行くからさ、一緒に来いよ」


向かいの席から身を乗り出してきたのは、町田陽太。


クラスの人気者ってほどじゃないけど、明るくて話しやすいタイプで、いつの間にかよく話すようになっていた。


「え、どうなんだろう。興味はあるけど……」

「ほら出た、“興味あるけど飛び込めない”やつ! だったら俺が背中を押してやるよ」


陽太が歯を見せて笑う。気持ちのいい笑顔に、ユウキもつい苦笑した。


「……うーん、考えとく」


そう言いかけたときだった。


「へえ、ユウキくん。やっぱり今も生き物に興味あるんだ? ペットショップに連れて行ったかいがあったね」


背後から突然かけられた声に、心臓が飛び上がる。

振り返れば――綾瀬沙羅が、いつもの調子で立っていた。


「さ、沙羅ちゃん……」


陽太が怪訝そうにユウキへ視線を送る。


「おいおい、ユウキ。お前、綾瀬さんとどういう関係? ときどき一緒にいるよな」

「え、いや、それは……昔からの知り合いで」

「そうそう。一緒に生物のお世話してた仲なんだよ~」


沙羅が先に口を挟む。


「そ、そうなんだ。楽しそうでいいな」

陽太は少し羨ましげに笑った。


「ユウキくんって、ひとりでいること多いから仲良くしてあげてね!」

にっこり微笑む沙羅。


「お、おう……そ、それはもちろん!」


さすがの陽太も照れたように頬をかいた。

沙羅はくるりとユウキに向き直ると、小さく手招きした。


「ねえ、ちょっと来て。少し話したいことあるの」

「え、あ……うん」


背後で陽太が肘で小突いてくる。


「お前、意外とやるな」

「ち、ちがうって! いつもからかわれてるだけだから……じゃあ、また」


曖昧に笑ってごまかしながら、ユウキは沙羅とともに教室を後にした。



菜の花畑。

春の風がやわらかく吹き抜け、黄色い花の波を揺らしている。


「この前のことだけどね」

沙羅が小さくつぶやく。


「ユキちゃんの話、もう少ししたくて」

振り返った横顔は、春の光に透けて――どこか儚げだった。


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