~クラスメイトと昼休み~
昼休み。
机を囲んで笑い声が飛び交い、窓際では誰かがカードゲームを広げている。
窓から入り込む風が、ほんのり花の香りを運んでいた。
ざわめく教室の片隅で、ユウキは弁当を広げていた。
「なあ、ユウキ。今度、生物部の見学行くからさ、一緒に来いよ」
向かいの席から身を乗り出してきたのは、町田陽太。
クラスの人気者ってほどじゃないけど、明るくて話しやすいタイプで、いつの間にかよく話すようになっていた。
「え、どうなんだろう。興味はあるけど……」
「ほら出た、“興味あるけど飛び込めない”やつ! だったら俺が背中を押してやるよ」
陽太が歯を見せて笑う。気持ちのいい笑顔に、ユウキもつい苦笑した。
「……うーん、考えとく」
そう言いかけたときだった。
「へえ、ユウキくん。やっぱり今も生き物に興味あるんだ? ペットショップに連れて行ったかいがあったね」
背後から突然かけられた声に、心臓が飛び上がる。
振り返れば――綾瀬沙羅が、いつもの調子で立っていた。
「さ、沙羅ちゃん……」
陽太が怪訝そうにユウキへ視線を送る。
「おいおい、ユウキ。お前、綾瀬さんとどういう関係? ときどき一緒にいるよな」
「え、いや、それは……昔からの知り合いで」
「そうそう。一緒に生物のお世話してた仲なんだよ~」
沙羅が先に口を挟む。
「そ、そうなんだ。楽しそうでいいな」
陽太は少し羨ましげに笑った。
「ユウキくんって、ひとりでいること多いから仲良くしてあげてね!」
にっこり微笑む沙羅。
「お、おう……そ、それはもちろん!」
さすがの陽太も照れたように頬をかいた。
沙羅はくるりとユウキに向き直ると、小さく手招きした。
「ねえ、ちょっと来て。少し話したいことあるの」
「え、あ……うん」
背後で陽太が肘で小突いてくる。
「お前、意外とやるな」
「ち、ちがうって! いつもからかわれてるだけだから……じゃあ、また」
曖昧に笑ってごまかしながら、ユウキは沙羅とともに教室を後にした。
*
菜の花畑。
春の風がやわらかく吹き抜け、黄色い花の波を揺らしている。
「この前のことだけどね」
沙羅が小さくつぶやく。
「ユキちゃんの話、もう少ししたくて」
振り返った横顔は、春の光に透けて――どこか儚げだった。
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