G06「車が追いかけてくる」R05

はー、生き返ったっす。じゃないや、生き返りました。


昔からなんだけど、お腹が空くと本当にダメ。

昨夜寝付けなくて少し寝坊したから、時間がなくて朝食が少なめだったのが敗因。

ワサビソフトクリームを2つ食べたら、体に力が戻ってきた。

世界が一気にカラフルになった気分。


まよちゃんがケラケラ笑ってる。


「ちとちゃん、"ポンコツ美少女"っす。初めて見たっす!」


む。ポンコツはひどい。千登世、ハラペコがダメなだけだもん。美少女はまよちゃんでしょ!


愛乃先輩はなぜか感心した様子だ。


「千登世ちゃん、普段は理性ですごいコントロールしてるのね〜。可愛いわ〜」


たまにですけど、失敗するんです。すみません……。


「復活しました。もう大丈夫です!」


「ヨシ! じゃあ、リフトに乗って噴火口を見に行くわよ!」


朝早くに到着したから、チケット売り場も乗り場もそれほど混んでなかった。


順番が来るまで、みんなでお喋り。


「まよちゃん、リフトって乗ったことある?」


「無いっすねー、初めてっす。」


「近くにスキー場無いもんね。ほとんど雪降らないし。」


すると、先生が説明してくれる。


「シベリアから吹く風は日本海側で雪を降らせて、山を越えるとカラカラになっちゃうの。特にこのあたりは、南アルプスと富士山が鉄壁だしね。それに黒潮が温かいでしょ?」


「真宵、冬でもギャル余裕っす。」


「寒くないの?」


「あら、可愛いは寒さに勝つのよ?」


え? そうなんですか?


「冬でも暖かいから葉物野菜が年中作れるし、お茶もイチゴも特産よね。」


先生の言葉に愛乃先輩が反応した。


「イチゴ大福が美味しいのよ〜。ベリータルトとどっち?って言われたら、悩むわ〜」


眉根を寄せて本当に悩む表情の先輩を見て、瑞希先輩が聞く。


「フィンランドには無いんじゃないか? そもそも大福が無いだろ?」


「そう! ブルーベリーとかコケモモとか色々あるのに、大福がないのよね〜」


「コケモモも桃のうちっすか?」


「桃に似てるから『コケモモ』じゃなかったかな? フィンランドでも育つはずだよ。」


「はい、お喋りはそこまで。乗るわよー。」


「「「「はーい!」」」」


先生は1人で、先輩たち、私とまよちゃんがペアになってリフトに乗る。


係員さんが親切に誘導してくれて、教えてくれた位置で待つ。

お尻にシートがコンッと当たる。

腰を下ろすと、フワッと体が浮いた。


「きゃっ」


思わず声が漏れる。


「だいじょぶっすか⁉」


まよちゃんが落下防止のバーを下ろしてくれた。


リフトはスムーズに進み、斜面を登り始める。


「うーわっ、キレイっすねー」


鮮やかな黄緑色の絨毯の上を滑っていくリフト。

髪を揺らす風がまだ少し冷たいけれど、心地よい。


「まよちゃん、後ろ見て! 海見えるよ。」


緑の丘陵の向こうの青い海が、視界を徐々に占めていく。

反対に、梨沙子先生の白い車や赤い屋根の建物がどんどん小さくなっていく。


リフトは数分で私たちを山頂まで運んでくれた。


「ありがとうございます。」


係員さんにお礼を言ってリフトを降りた。


途端に私は罠にかかった。


「おだんご屋さんがあるね……。」


「そうっすね。」


「まよちゃんはどれが好き?」


「よもぎのおだんご、好きっす。」


「すいません、みたらしとよもぎください。」


「はい、みたらしとよもぎね。」


「ありがとうございます!」


おだんごは、それぞれ2本ずつセットになっていた。


「はい、まよちゃん、よもぎだよー。」


「わーい! あれ、みたらしは?」


「ん? タレが美味しすぎたよね……。」


「ちとちゃんのお腹に?」


「うん、2本。」


「十分に発達した大食いは、魔法と見分けがつかないっす……。」


「よもぎも絶対美味しいよ。一緒に食べよ?」


「……いただくっす。」

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