G06「車が追いかけてくる」R02

「せ、セレブが乗るやつっす!」


まよちゃんは車を見た瞬間、目をまん丸にして大興奮。


梨沙子先生が「今日はこれ!」と指したのは、大きなワンボックスカーだった。


「え? 普段からこんな大きいんですか?」


思わず聞いてしまった。


「違うわよ、いつもは小さいの。これは実家の。」


すると愛乃先輩が、ふわっとした声で言う。


「梨沙ちゃんちに行ってみたら良いわよ。びっくりするわよ〜」


「もしかしてお金持ちっすか⁉」


「お金持ちとはちょっと違うかな。古い家だから広いことは広いのよ。付き合いで人が集まるから、大きい車が必要なだけよ。」


はぁ……、あるところにはあるんだな。


私はごく普通の家で育ったから、「旧家」とかに少し憧れちゃう。

物語の中だけにある特別な世界のようで、なんだか羨ましい。


「先生にちょっと相談したいこともあるしな。」と言いながら、瑞希先輩は助手席へ。


「酔わないし、寝不足だから後ろで良いわよ〜。2人で豪華なシートを楽しんでね〜」


愛乃先輩は言うが早いか、さっさと後部座席に乗り込んじゃった。


「あ、ありがとうございます。」


私たちは少し緊張しながらも、2列目のシートにワクワクしながら座る。


身体を優しく包み込むような柔らかさ。これはセレブだ!


「スイッチがあるから適当に押してみて。私もあまりよく分からないの。」


梨沙子先生は笑いながら、シートの横を押すような仕草を見せる。


「わあっ、ちとちゃん、セレブっすよ! ふわー」


まよちゃんがポチッとスイッチを押すと、足元から静かにオットマンが出てきた。

小柄だから、オットマンに足がちょこんとしか乗っていないけど、満足そう。


まよちゃんをダメにするシートだ。


「良かったねー」と言いつつ、私もシートに座ってみた。

しとっとした滑らかな本革が肌に触れると、こんなに気持ち良いんだ……。


私をダメにするシートかも。


すると運転席の梨沙子先生が振り返った。


「みんな、シートベルトしたかしら? じゃあ出発するわね。少しかかるから寝てて良いわよ。」


助手席の瑞希先輩が恐縮してる。


「運転していただいて、申し訳ないです。」


「いいのよ、みんなが寝てても楽しく運転できるタイプなの。」


あれ?

そういえばさっきから愛乃先輩が静かだな、と気づいて振り返る。


もう寝てた。


思わずゴクリとつばを飲み込む。


プラチナブロンドに金色の長いまつげ、透き通る白い肌、静かに寝息を立てる桜色の唇……。


控えめに言っても、そこには天使が眠っていた。


何だろう、この湧き上がる感情。

これって、最近まよちゃんに教えてもらった『尊い』ってやつだ!

ちゃんとシェアしないと!


まよちゃんの袖をちょんちょんと引っ張って、目線で後ろを示す。


愛乃先輩を見た途端、まよちゃんも「尊すぎる……」と言ったきり、あっけなく撃沈してしまった。


愛乃先輩。

女子高生をダメにする女子高生だった。

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