第29話:「主役(Player)」
真っ白な空間。
地下五層に降り立ったトーカの前に、レイヤが立っていた。
「ようやく来たね、トーカちゃん」
彼女は退屈そうに指先で髪を弄びながら、笑った。
「……何のつもり」
トーカは拳を握り締める。
「そんな怖い顔しないでよ。君のこと結構気に入っちゃった。
……だからさ、ボクの仲間にならない?」
白い背景にスクリーンのようにレイヤの表情がアップになる。
顔の近くに【LAYER】の文字。
モニターは屈託のない笑顔を写した。
「何を言ってるの?」
トーカは突然の提案に混乱する。
「ドミナちゃんとも本当は仲良くなりたかったんだけどね。なんか怒らせちゃったみたい(笑) あの子けっこうプライドが高そうというか、気難しい子みたいだったし、最初っからうまくいかない気はしてたんだけどね♡」
「スキズムは結構ボクのお気に入りだったんだけどなー、ビーム撃ってワープ出来て強いし。でもあのキモいハゲおやじのせいで台無しだよ。
クソッ!思い出しただけでムカついてきた…」
レイヤは、聞かれもしないことをしゃべり始める。
「……あなたのやり方についていけるわけがない」
モニターは今度はトーカの表情を写し、【TOKA】の識別コードに切り替わる。
眉を寄せ、瞳には静かな怒りが燃えている。
「そう」
レイヤは肩をすくめ、残念そうに笑う。
「がっかりだよ。……ほんとうに」
二人のコード。二人の顔が交互にズームで映し出される。
「……じゃあ教えてあげる。この物語の本当の主人公が誰かってことを。」
引き延ばされたレイヤの笑みは、これまで以上に狂気じみていた。
モニターの識別コード【LAYER】がノイズを走らせ、崩れ落ちていく。
……LΛ¥ΞR%%%……L__ER&&&……
LIΔЯ##LIAR……ERR0R%%%……
…L__R&&EЯЯ0Я……
……≒IoL_I=R≒^≠Σπ…
…PLΔΨΞЯ……
最終的に、文字列は収束し――
――【PLAYER】
彼女が指を鳴らす。
空間が暗転し、再び明るさを取り戻したとき――レイヤは忽然と姿を消した。
マップの端から光の粒子が置き換わっていくように足元が、空が、空間が色と形を変えていく
――そこは広大な渓谷に変わっていた。
《地下5層は散布されたナノマシンとプロジェクションマッピングにより設計可能な実験空間です。……しかし操作権限は階層Ⅱ以上のGRADEに限られます》
「権限はあるよ。だってボクはプレイヤーだから」
渓谷全体にスピーカーのように声が響き渡る。
地平線の彼方から影が迫る。
――空中要塞、RAIN MAKER。
「ボクは全部読んできたんだよ。君たちの物語を。"画面の向こう側の存在"ってやつさ。
キミたちとは住んでる
「トーカ、キミは知らないだろう?今から戦うのは僕が観測してきた中で最強の英雄達だ。」
RAIN MAKERのカタパルトが開き、二つの影が空を裂いて射出された。
DARK KNIGHT。
そして、ARBITER。
「ついて来てるかい
レイヤちゃんへの応援コメントも待ってるからね♡」
「さあ、ゲームを始めよう。」
かつてない戦いの気配に、トーカは戦慄した。
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