第12章「核への侵入」
美咲の視点
「“心の核”……それが、遥の狙いなら」
美咲は一人、かつての実家の物置を開けていた。
暗く埃をかぶった箱の中から──懐かしい一冊のノートを見つける。
《200X年・大学1年・心理ゼミ》と書かれた、未提出のレポート。
(この中に、“私の核”がある。遥に見せたくない、私の……)
指先が震えながらも、ページをめくる。
そこには、忘れていた“ある事件の記録”が残っていた。
『翔太が見たあの夜の実験。被験者M.Kがパニックを起こした理由は、
「幼少期に消したはずのトラウマ」が刺激されたからだった。』
美咲の“核”──それは、自身の幼少期にまつわるある事故。
遥は、その記憶に触れようとしている。
⸻
別視点:遥
「そろそろ、彼女も気づいた頃ね。次に必要なのは“再現”よ」
遥は電話口で、静かに誰かに指示を出していた。
「記憶を壊すには、記憶を再現させるのが一番効果的。
彼女が一番恐れている“あの場所”に、連れて行って。翔太も」
電話の向こうで“了解”の声が返る。
遥は窓の外を見つめた。
(美咲。あなたはまだ、自分の核を守れると思ってるの?
でも私が壊したいのは“あなたの優しさ”──)
遥は、自分の唇をゆっくりと噛んだ。
(そしてそれは、かつて私が奪われたもの)
⸻
翔太の視点
その夜、翔太は自宅前で何者かに呼び止められた。
「翔太さんですよね? 美咲さんが事故に遭ったそうです。
今、搬送されたのは──」
「……は?」
何も知らされていなかった翔太の頭が真っ白になる。
「案内します。車へ」
ドアを開けたその瞬間、翔太は後頭部を殴られ、意識を失った。
──連れ去られたのは、“あの廃墟”だった。
大学時代、実験が行われた、記憶の残る場所。
⸻
翌朝:美咲の視点
スマホに、“翔太が倒れている写真”が届いた。
送信者不明。場所の座標付き。
「まさか、翔太が──?」
美咲は、恐怖と怒りを押し殺しながら、バッグにあるものを詰めた。
録音機器、ナイフ、そして──昔のノート。
(これは、私の記憶の墓場。でも、今度は“証拠”にしてみせる)
「遥。あなたのゲーム、終わらせてあげる」
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