第11章「記憶の再構築」

美咲の視点


「遥がやっていたのは“記憶の書き換え”……?」


翔太の言葉が、耳の奥で何度も反響する。


「君の名前は、記録に“被験者M.K”として残っていた。

大学の研究室で、ある実験が行われていたんだ。

“被験者のストレス反応と記憶の再構築の相関”を測るって名目で、

でも……遥は、それを“別の目的”に使ってた」


「別の……?」


翔太は、罪を背負うように目を伏せた。


「それは……“人間を壊すため”だった」



回想:翔太の過去


──大学時代。

心理学ゼミに所属していた翔太と遥。

彼らはある実験プロジェクトに関わっていた。


記憶と感情の関係を追う“精神感応装置”による研究。

しかし遥は、それを密かに改造し、特定の被験者に「虚偽の記憶」を植え付けるテストを始めた。


その最初の対象が──当時、翔太の彼女だった“美咲”だった。


「実験だってわかってて、彼女を差し出したのか?」


教授に責められたあの夜。

翔太は否定も肯定もできなかった。


遥は美咲に、「翔太に浮気され裏切られた」という記憶を少しずつ刷り込んでいた。

結果、美咲は情緒不安定になり、半年後、ゼミを自主退学。


そしてその頃から、美咲の“記憶の欠落”が始まった。



現在:美咲の心


(私が退学した理由……ずっと曖昧だった。記憶が穴だらけで)


(でも、全部──仕組まれてた?)


部屋の中で、録音アプリを止める手が震えた。

翔太を責めるべきか、それとも遥だけを憎むべきか。

感情が渦を巻いて、正しさの輪郭が見えなくなる。


「私が“壊されかけた”のは、ずっと前からだったんだ」


それでも、美咲は崩れなかった。


(今さら、記憶を壊されても。私には“今”がある)



遥の部屋


一方その頃、遥は夜の部屋で、録音ファイルを再生していた。

そこには翔太と美咲の会話が、鮮明に録音されている。


「……やっぱり、あなたも裏切ったのね。翔太」


遥の目は、冷たく静かに細められる。


「でも大丈夫。私はもう“次の段階”に進んでいるから」


彼女の机の上には、ひとつの小さな黒い箱。

中には、美咲が“8年前に書いていた日記の原本”が入っていた。


「記憶は消せる。でも、“心の核”だけは残るの。そこを壊すには──もう一押し」


遥のゲームはまだ終わっていない。

むしろ、これからが本番。

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