第3章「囁き」

美咲はまだ気づいていなかった。

あの優しい隣人、桐谷遥が静かに、自分の生活へ入り込み始めていることを。



ある朝、会社のデスクに置かれていたメモ。

筆跡は美咲とは違う、きれいな字でこう書かれていた。


「あなたのこと、心配している人がいますよ」


誰からかもわからないそのメモは、不安と疑念を美咲の胸に植え付けた。

そして同時に、社内での冷たい視線が増えているのに気づいた。



遥は巧みに同僚たちに近づき、小さな噂話を撒いて回っていた。

「藤咲さん、最近変わりましたよね」

「最近、彼女が上司とトラブルになったらしいよ」


どれも根も葉もない噂。

しかし、美咲の周囲はその“ささやき”に満ちていった。



美咲は孤立を感じ始め、夜には見知らぬ番号からの着信が何度も鳴った。

「誰だろう…?」

電話に出る勇気はなかった。



遥の微笑みは今日も隣の部屋から絶えない。

その裏で、美咲の世界は静かに、だが確実に崩れていく。



このまま、美咲は孤立し、壊されていくのか。

それとも、何かに気づき、反撃の糸口を掴むのか。

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