「読む者の無いごみ箱に捨てられた手紙」
ぶよっと猫背
「読む者の無いごみ箱に捨てられた手紙」
「読む者の無いごみ箱に捨てられた手紙」
―――、あるいは単に「だからなんだよ」、―――
カデルノは戦闘機のパイロットだ。
カデルノには恋人がいた。
カデルノは三十七歳になる。
カデルノは戦闘機乗りとしてもう年寄りだ。
カデルノは恋人を愛していた。
カデルノは恋人に気持ちを言えなかった。愛についてだ。恥ずかしがっていた。
カデルノはエスコリアと言う国の最強のパイロットだ。
もう老いたのに若いのが育たなかったからだ。
カデルノの恋人は偏屈で臆病だった。でも可愛い人だった。
カデルノ本人は無口で喧嘩早くて直ぐに手が出る人だ。
でも恋人にはとてもやさしかった。その事に誰もが驚いた。
カデルノは恋人に臆病にならなくて良いと伝えたかった。
世界は広くて優しいと伝えたかった。
気が短く怒りぽい癖に辛抱強く繰り返し言葉を使った。
達成出来なかった。
戦争が始まってしまったからだ。
もう十年も前に爆弾を抱えた爆撃機が都市を焼いたからだ。
血も肉片も残らない。何もかも燃えてしまった。恋人は燃えてしまった。
それも昔の話になってしまった。カデルノの日常も別の事で忙しくなった。
空戦だ。
カデルノはミサイルを当てる事が普通に上手だ。
撃てば撃った数だけ敵機を墜とした。
カデルノはそれ以上に機関砲を上手に撃った。
ミサイルより機関砲で敵機を墜とす数が多い日もあった。
これがどんなに異常な事か、カデルノも上司も良く知っていた。
ジェットエンジン中葉の時代でもあり得ない話だ。
でも、カデルノも上司も気にしなかった。
そんな事よりも、空を守る若いパイロットが育つ前に死んでしまう事が問題だった。
カデルノの日常がどんどん悲しみに沈んで行く、、、
味方の防空陣地が放った高射砲弾が自由落下に入り名も知らない子供の頭を砕いてしまった。
スラムの子供だから皆忘れる事にしてしまった。
敵国のパイロットが戦闘機乗りのくせに暇に飽かせて住宅地に機関砲弾を浴びせた。
そのせいでまた子供が死んだ。
カデルノたちは慌てて敵機を探しに向かったが捕まえられなかった。
カデルノの両親がカデルノの恋人の両親と共に反戦活動を始めてしまった
市民は敵国との戦争で家族や友達や恋人の誰かを既に殺されていて反戦活動にもの凄く怒ってとても惨い事をした。
四名は死んでしまった。
カデルノは毎日のように空を飛んで沢山の敵パイロットを殺した。
カデルノにとって、空を守る事は国を守る事で、国を守る事は故郷を守る事に繋がる筈で、故郷を守ると言う事は、まだ生きている筈の大切な誰かを守る事に繋がっているハズだった。
でも違っていた。
どれだけ殺しても、敵国の爆撃機が都市を焼くことを止められない。
殺したらその分だけ相手の国が怒り狂い、もっと酷い事をしてきた。
それを阻止する為にカデルノたちは恐ろしい戦場でもっと恐ろしい戦闘を繰り返した。
いつからか、カデルノの事を敵国は「悪魔」と呼ぶようになった。
「死なない悪魔」「夕陽の悪魔」とも呼んだ。
戦争に関係ない国々は皆知らないふりを決め込んだ。
たまに理不尽な事件が起こると無神経な事をあれこれ言った後すぐ忘れる事にした。
そのうち戦争はあっけなく終わった。
カデルノの国が負けた。
敵国のあからさまな侵略は「正義の戦争」にすり替えられた。
エスコリア国侵略の発端は銃を使わない挑発と経済的な虐待が始まりだった。
これに怒ったエスコリアが大国に戦いを挑んで戦争に成った。
それが負けて終わった。
カデルノは戦争犯罪人として罪状を言い渡された。
非戦闘員への虐殺の罪についてだった。
真実は違う。
敵国と交戦中、敵国は無謀な空輸作戦を実行。
案の定エスコリア空軍に捕捉され多くの将兵を無駄死にさせた。
その失敗を戦争が終わった後に成って持ち出しカデルノに擦り付けただけだった。
戦闘時、カデルノが撃ち落とした多くの大型輸送機の腹に非戦闘員を満載していた機体があった。
その事実を重大な戦争犯罪にすり替えてしまった。
カデルノは処刑される直前に渡されたタバコをへし折って捨てた。
「言い残す事は無いか」と尋ねて来た一神教系の僧侶に唾を吐こうとしたが、警護の兵に殴られ止められた。
カデルノは敵国の僧侶が浮かべた人への侮りの色を目に焼き付けてから死んだ。
死なない悪魔のくせに死んでしまった。
その日は夏で、空が青くて、やっぱり色々な飛行機械飛んでいる。
こうしてエスコリは退屈な日常を取り戻した。
数十年がたった。
それからどうなった?
エスコリはとても貧乏になった。
平均寿命が二十年短くなる程困窮している。
でも平和だ。
他の国々はお金を儲ける為に、知らないふりを続けている。
カデルノは死ぬ前、世界は広くて優しいと恋人に伝えたかった。
でも世界は、人の世界はカデルノが思うほどは優しくも広くも無かった。
今も知らないふりをしつつ戦争からお金を得る人がいる。
搾取を「平和」と呼び儲ける人がいる。
生きる為にやむなくやる人と、搾取するために敢てする奴。
その二者を包む無責任で無関心な沢山の力なき人々。
また、戦争より優れた問題解決の手段も未だない。
戦争に代わるだけの問題解決の手段を生み出せていない。
戦争に至るほどの問題の山積と、それを解決するため戦争努力の結晶を越える平和の努力の結晶が誰の手元にも無い。
平和を唱える者が、その多くが既存構造の肯定と搾取構造の追認しか出来ていない。
苛めらる者の心に怒りの火が灯ったとしても、虐めた者は知らないふりをするか自覚が無いので、万人参加の戦争へ多数派が歩む。
虐めた者は反逆を「不正」と言い圧殺する。
戦争が悪い事であっても、当事者でさえ無ければ戦争が起こるほど問題が山積している前提を無視して口先だけ使って手を動かさないだろう………私のように、違いない。
平和とは腐敗だ。
その証拠に私がここにいる。
神の不在と「死なない悪魔」はこれからも続くだろう。
その上で、私たちの父祖は「それでもなお」と動いて来た。
その結果はどうだ。
ぶち上げた理想に対して何もかも足りていない。
大言壮語小手先男か嘘つき女ばかりだ。
「それでも良い」と言い切るだけの覚悟も強さも無いまま、豚の様に甘やかされて「足りない」とほざく。
私はそういう人間だ。
先進国と発展途上国の罪について人の犯した罪について真面目に考える人に聞きたいが私と言う愚者は中々議論や結論を聞ける立場に居ない。
私は私個人の平和と豊かささえがあれば、母以外、全て不幸に成って良いと真剣に思っている。
だから読む人がたとえ貴方であっても、時が来れば見捨てるだろう。
正義と理想の実在に疑いは無いが、その無力と怠惰を見て侮る気持ちしか湧かない。
昔は怒りがあったが、今は何も感じない。
それよりも罪の実在と悪の不在こそ問題だ。
罪深い救い難い人ばかり溢れていて、その罪深さに見合う文句のない「悪」そのものの不在に驚くばかりだ。
誰が誰を殺しても問題は解決されなかった。
どの戦争も事件も薄っぺらい。
一皮むけば、そこにいるのは正義も悪も遠く、薄っぺらい人間が深い罪を犯すばかりだ。
罪を犯した人が安っぽいと言うのではない。
しょせん私と言う薄っぺらい人間と言うフィルターを通した世間であろう。
きっとこの観察は間違いだ。
言いたい事は違う。
罪を犯す事で生まれる巨大な問題は罪人を裁くだけでは何も解決しないと書き試みている。
人を殺すのは人だ。
人を殺すのは問題解決に成らない。
問題を解決・処理する過程で人が死に、人が人を殺すのは義認されているに留まる。
どこの世界の人類でも知っている。
問題の放置こそより大きな悲しみと混乱をもたらす事を人は経験則で既に知っている。
ならばこそ人は「それでもなお」と動くのだが、その経験則の断絶は起こっている。
混乱と悲しみが強まり続ければ「本当」に人が、その地域から滅ぶからだ。
戦争と虐殺は経験則の断絶を起こす。
勝利者が戦場体験のある勝利者ですら、そこから五十年も減れば肉体の寿命が来て死に絶え消えていく。
「それでもな」と歩んだ者たちが何をしてどんな罪を犯しどれ程人間的に道徳的に薄っぺらかったのか、私の時代、父母の時代を振り返ると良く見えて来る。
ほの見えて来るのは対処療法と詐術ばかりだった。
私は面倒にしか感じなかったので豊かなこの国で金持ちになった。。
父祖カデルノに送る手紙、ダゲレオのリック・バーンより、裏切り者の愚者として貴方に贈る。
追記、、、
誰かを殺す前に私を殺せ。
核もミサイルもレールガンもレーザーも小銃も許さない。
刃を捨て握り拳で私を殴り私の叫びを無視せよ、私の頭を叩き割れ。
あるいは単に鼻で嗤えばよろしかろう。
真に受ける理由は何もないと言って見せろ。
貴方に痛みなく苦しみなく悲しみなく憎しみなく涙の無い神の世界に居ると吠えて居ろ。
少なくても神の教え知っていると言って見せろ。
私の心は狭く憎しみ多く世界の破滅をどれほど望んでいるか、きっとあなたにとっては馬鹿々々しい話であろう。
この文をもって私の宗教と信仰は生まれた。
いわゆる俗人の俗解による偏狭な独覚である。
どうか、価値よ生まれてくれるな、、、
試作2018年、改変無数試行現在2025年。
空想の戦争が良い。現実の戦争は好きになれない、ゲロを吐きそうだ。
だが、史実は面白い。
戦闘機についてはエースコンバット4,5,0より深い影響を受けました。
カデルノ→ポルトガル語「手帳」の意。
エスコリア→ポルトガル語「選択」の意。
感想お待ちしています。
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