【完結】ダンジョンに潜れず、配信もできない童貞の俺だが、30才の誕生日で人類唯一の存在、デビルスレイヤーとして覚醒したので地上にはびこる悪魔を刈りまくります
財宝りのか
第1話 ダンジョンに潜れません
この世界では、5歳児が火の玉を撃てる。
80歳の老婆が、強化魔法で階段を駆け上がれる。
そして29歳の俺は——掃除しかできない。
俺の名前は為永 誠。29歳。職業、清掃員。
今の時刻は深夜2時。俺は膝をついて、ダンジョン第7ゲート前の床を磨いていた。
昨日の朝からほとんど休みなく働き続けて、もう20時間以上起きている。今日のダンジョン掃除はこれで10件目だ。意識が朦朧としてきた。それでも手を止めるわけにはいかない。止めたら、クビになる。そうしたら、「あいつ」への借金が返せなくなる。
俺の不幸の始まり——それは15年前に遡る。
ある日突然、地球上のあちこちに巨大な洞窟——『ダンジョン』が出現した。最初は誰もが恐れた。底の見えない暗黒の穴。政府は立ち入り禁止区域に指定し、軍隊を配備した。
だが、好奇心に勝てない人間は必ずいる。
最初に飛び込んだ男が、信じられないものを持ち帰った。見たこともない鉱石、不思議な効果を持つ薬草、そして——ステータスウィンドウ。
ダンジョンに入った瞬間、人はゲームのキャラクターのようになる。レベル、HP、MP、筋力、魔力。全てが数値化され、スキルを覚え、魔法が使えるようになる。
世界は熱狂した。
もちろん、俺だって噂を聞いてからすぐに駆けつけた。
でも、十秒で出てくることになった。
その理由は——
重度の閉所恐怖症。
あの暗い穴を見るだけで、全身が震え、呼吸ができなくなる。冷や汗が止まらず、心臓が破裂しそうになる。一度、無理やり入ろうとしたことがあったが、入り口で失神した。
ダンジョンに入れない人間に、この世界での居場所はない。
まともな仕事はどこも要ダンジョン経験どころか、ダンジョンレベルが50以上なことがほとんどの企業の採用条件。にも関わらず、ダンジョンに入ることすらできない俺は、こうしてダンジョンの入り口を掃除することしかできない。
「おい、ダメオ」
その声を聞いた瞬間、俺の体が硬直した。
黒崎 豪。俺の雇い主にして、中学時代からの同級生。いや、正確には俺をパシリにしている男。俺の為永と言う名前をもじって「ダメオ」と言う不本意なあだ名をつけた張本人。
振り返ると、そこには相変わらずの光景があった。180センチを超える巨体、ブランド物のジャージ、首には金のネックレス。そして、いつもの人を見下したような笑み。
その両脇には、あいつの行きつけのキャバクラの女性たちだろうか。
露出の多い服を着た女が二人。胸元が大きく開き、太ももがほとんど見えている。
俺は思わず見惚れてしまい、喉を鳴らしてしまった。
「きっも!」
「何こいつ、ガン見してんの?」
女たちが俺を見て、あからさまに顔をしかめた。まるでゴキブリでも見るような目だ。
「俺はこれからホテルだからよ、てめぇはちゃんと掃除終わらせとけよ!」
言い終わる前に、肩に衝撃が走った。
「ボケッとしてんじゃねぇよ」
剛のパンチだ。レベル125の筋力強化が乗った一撃。俺の肩は明日には青アザになっているだろう。いや、もう体中がアザだらけだ。俺は剛のサンドバックなのだ。
「あと、明日は朝7時から配信だ。準備しとけよ」
「えっ、でも今3時で...」
「あぁ?」
剛の目が細くなる。『威圧』のスキルだ。レベル125の威圧は、俺のような一般人には抗えない。膝が震え、言葉が出なくなる。
「分かりました...」
それしか言えなかった。
剛はダンジョン配信者として成功していた。チャンネル『剛の突撃ダンジョン』は登録者50万人。月収は俺の年収を軽く超える。
そして俺は、その配信の裏方もさせられている。カメラマン、音声、照明、編集。全てを一人でこなす、名前もクレジットされない存在。
なぜこんなことになったのか。
12年前、高校を卒業した時、剛は言った。
「ダンジョンビジネスやるから、投資しろよ」
両親を事故で亡くしたばかりの俺には、500万の遺産があった。しかしスキルを手にした剛の威圧に逆らえず、全額を預けた。
だが返済は一度もない。それどころか「利息」と称して、今や3000万に膨れ上がっている。法外だが、契約書にはしっかりサインさせられていた。
多分、俺が気を失っている時にでもサインさせられてしまったのだろう……
次の日、朝7時。ドアを蹴破られるような音で目が覚めた。
「ダメオ!準備できてんだろうな!」
慌てて飛び起きる。まだ2時間しか寝ていない。重い体を引きずって、機材を準備する。
スタジオで剛はカメラの前に立った。
「よっしゃ、今日も最高の配信するぜ!」
カメラが回れば、剛は別人になる。爽やかな笑顔、視聴者への気遣い、完璧なエンターテイナー。
だが、録画が止まれば——
「おい、さっさと片付けろよこのクズ!」
何もしてないのにまた背中を蹴られてしまった。
夜7時。長い配信と編集作業を終えて、片付けをしていると——
「誠君」
振り返ると、そこに結衣がいた。本名は佐々木結衣。
白魔導師の装備が夕日に照らされて輝いている。優しい笑顔、心配そうな瞳。中学時代から変わらない、俺の憧れの人。
「今日も遅くまで...大丈夫?」
「うん、平気だよ」
彼女の目に映る俺は、きっと哀れな存在だろう。29歳、童貞、ダンジョンにも入れない、借金まみれの底辺。
「結衣、今度の休み空いてるよな」
そこへ、急に剛が割り込んできた。
「ダンジョンの後、飯でも行こうぜ」
結衣が困ったような顔をする。
「でも、私...」
「ダメオ、お前が店探しとけ。支払いもな」
「俺、金が...」
「あぁ?給料渡してやってるだろうが?」
また威圧。逆らえない。
夜11時。ボロアパートに戻る。電気は先月から止められている。ろうそくの灯りをつけて、スマホを見る。
SNSには同級生たちの投稿が並んでいた。
『レベル100突破!』
『ドラゴン素材で家購入!』
『ダンジョンで出会った彼女と結婚します』
みんな、輝いている。
鏡を見る。そこには死んだ魚のような目をした俺がいた。
「29歳、童貞、借金3000万、閉所恐怖症...」
声に出してみると、より惨めになる。
時計を見る。あと1時間で、30歳の誕生日。
30歳。何も成し遂げていない。何者にもなれなかった。このまま、剛の奴隷として死んでいくのか。
「もう...死んだ方が...」
その時だった。
電源がつかないはずのPCモニターが、突然光を放った。
『おう!お前か!ダンジョンにも行けず30歳で童貞のダメ人間は!』
画面から飛び出してきたのは、手のひらサイズの小さな生き物だった。
ふわふわとした白い毛並み、ウサギのような長い耳、くりくりとした大きな瞳。まるでぬいぐるみのような愛らしい外見をしている。
だが、その表情だけは別物だった。にやけた口元、意地悪そうに細められた目。可愛い外見とは裏腹に、性格の悪さが顔に出ている。
まるで、天使の姿をした小悪魔のような——
つづく
《次回予告》
最低だと思っていた俺の人生についに転機が?
でも、こんな怪しい奴の言うこと信じても…
次回「魔眼覚醒」
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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あと、前作、完結しておりますのでご興味あれば読みに来てください。
【完結】50歳のおっさんだけど、伝説の攻略雑誌『ゲー○イト』を読んで全ての必殺技をマスターした俺は魔法国家に逆襲の即死コンボを叩き込みます
https://kakuyomu.jp/works/16818622174145436053/episodes/16818622174145558208
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