第四部:天下統一への最終段階、外交と知略の極み
第37話:東国平定、謙信の「義」と筋肉の絆
今川義元は、筋肉と知恵で日本の中央を掌握し、揺るぎない基盤を確立した。彼の次なる目標は、東国平定。そして、その行く手を阻む最大の壁が、越後の龍、上杉謙信だった。謙信は、旧来の「武士の義」を何よりも重んじ、義元のような常識外れの行動を軽蔑するであろうと、誰もが考えていた。
しかし、義元は、あえて武力ではなく対話を選ぶ。彼が目指すのは「無益な血を流さない」天下統一。征夷大将軍に就任した将軍足利義昭の綸旨を携え、義元はわずかな供を連れて、自ら越後へと向かった。その道中、義元は敢えて鎧をつけず、軽装の着物で馬を進める。その着物の下から覗く、隆起した大胸筋や上腕二頭筋は、冬の寒さの中でも微かに湯気を立てているかのようだった。
春日山城、上杉謙信の居室。義元は、謙信の前に堂々と座ると、やおらその豪華な着物に手をかけた。謙信は、目の前の男の異様な筋肉の存在感に、微細な苛立ちを覚えていた。彼は、義元の常識外れの行動や、その背後にある「筋肉理論」の噂を耳にしており、それが「武士の道」に反するものだと強く反発していた。謙信の胸には、「この男は、武士の誇りを汚す存在ではないのか」という強い違和感が、大きく膨らんでいた。
「上杉謙信殿。お初にお目にかかる」
義元は、静かに、しかし有無を言わせぬ響きを帯びた声で語りかけた。
「さて、本題だが。貴殿が重んじる『義』とは、一体何であるか?」
義元の問いに、謙信は静かに答える。「義とは、道理。そして、弱きを助け、乱世を鎮める、武士の心でございます」。
「フッ……その通り。そして、その『義』は、何によって守られる?」
義元は、そう言い放つと、スルリと着物を肩から滑り落とした。冬の陽光を浴びた大胸筋が、まばゆいばかりに輝く。その肉体から放たれる圧倒的な「圧」に、謙信の心臓が不規則に脈打つ。それは、彼がこれまで見てきた、どの武士の肉体とも異なる、異形の美しさだった。
「見よ、この肉体を! これこそが、『義』を守る力だ! 貴様の『義』は、この筋肉が支えるのだ!」
義元の言葉は、謙信の「義」という価値観に、全く異なる角度から「強さ」を提示した。謙信の脳裏は、「武士の道」と「未知の強さ」という矛盾した思考で、大きく膨らんでいく。義元の筋肉は、理不尽なまでに、彼の思考を揺さぶるのだ。
「おれにつけば──鍛えてやろう! 筋肉も、心も、そして天下をもだ! 貴様の『義』を、この筋肉が守り続けるのだ!」
義元の口上は、謙信の心に直接響いた。謙信の胸では、「武士の矜持」と「真に天下を平定し、『義』を貫くための手段」という感情が激しくぶつかり合っていた。義元は、謙信が最も惹かれるのは、「強さ」と「義」の二つであると知っていた。そして、この「筋肉」こそが、その二つを結びつける、唯一無二の存在であることを悟った。
やがて、謙信は、深く、深く息を吐き出すと、ゆっくりと、しかし確実に義元の前でひざまずいた。彼の顔には、敗北の悔しさよりも、新たな「義」の道を見出した者の、静かな感動が浮かんでいた。
「……お見事。お供いたしまする、義元公! この謙信、殿の『筋肉の義』に、忠誠を誓いまする!」
謙信の口から出たその言葉は、東国の雄が、武力ではなく、「筋肉と義」によって屈服した瞬間を告げていた。戦国の龍、上杉謙信が、今、「筋肉覇王」今川義元の前に、その頭を垂れたのだ。
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