　今川幕府の統治下では、義元の改革が国の隅々にまで浸透し、その成果は誰の目にも明らかとなっていた。かつて戦乱に疲弊していた日本は、飢饉や疫病に怯えることのない、安寧の時代を迎えつつあった。義元が提唱する「筋肉理論」は、もはや一部の武将や家臣の間だけの奇妙な思想ではなく、老若男女、身分を問わず、人々の生活に深く根付いていた。

　清洲城下の一角、かつて荒れ果てていた一画には、今では大きな寺子屋が建ち、子供たちの元気な声が響き渡っていた。授業が終わると、子供たちは親と一緒に畑仕事に励む。だが、その合間には、義元が考案した「筋肉体操」が、子供たちによって楽しそうに行われていた。軽快な歌に合わせて、簡単な筋力トレーニングの動作を繰り返す子供たちの小さな体には、日々の鍛錬で培われた、健康的な筋肉が宿っていた。その笑顔は、かつての時代には見られなかった、希望に満ちたものだった。

　村の茶屋では、老人が笑顔で語り合っていた。彼らの顔には深い皺が刻まれているが、その瞳には、未来への光が宿っている。

「わしらも、殿の仰せの通り、朝晩『膝を曲げて腰を落とす鍛錬』に励んでおる。おかげで、足腰が丈夫になり、畑仕事も楽になったわい」

「まことに！わしらの時代には、病に伏せることが当たり前じゃったが、今ではこうして茶を飲みながら、昔話に花を咲かせられる。殿の仰せられた『筋肉は幸福の源』という言葉は、本当だったのだなあ！今では、孫たちも朝から晩まで元気じゃ。わしらの時代には考えられなんだ」

　義元の改革は、農民の生産性を飛躍的に向上させ、より多くの作物を収穫できるようになっていた。漁師は、荒波に負けない強靭な肉体で、より多くの魚を獲れるようになった。商人たちは、南蛮貿易で得た富を活かし、新たな商品を開発し、より多くの富を生み出すことができた。今川幕府が整備した新たな街道は、まるで太く強靭な血管のように日本を巡り、遠く離れた村々の間にも、活気と笑顔を運んでいた。

　義元は、城の天守閣から、そんな城下の様子を満足げに眺めていた。彼の胸には、「民の笑顔こそが、真の国力である」という確固たる信念が満ちていた。そして、その笑顔を支えているのが、彼がこの時代にもたらした「筋肉の福音」であることに、深い喜びを感じていた。

　その視線の先では、筋肉体操を終えた子供たちが、軽々と米俵を運んでいた。かつては大人でも苦労したはずの光景が、今や日常となっていた。その光景は、義元が目指した「筋肉泰平の世」が、もはや夢物語ではないことを雄弁に物語っていた。

「よいぞ……この国の筋肉は、ついに完成しつつある……！」

　義元は、静かに、しかし確信に満ちた声で呟いた。彼の言葉が、風に乗って遠くまで響き渡る。月明かりの下、真新しい街道が、まるで隆起した大胸筋のように日本列島を貫いていた。