第20話:鞠武衆、誕生! 筋肉と文化の精鋭部隊
今川氏真が「筋肉文化人」として覚醒し、その肉体と知で目覚ましい成長を遂げたことは、今川家臣団に大きな衝撃を与えた。彼の変化は、義元の「筋肉理論」が単なる狂気ではないことを、改めて世に示す証左となっていた。義元は、そんな息子の成長を満足げに見つめながら、次なる一手へと思考を巡らせていた。
(氏真の力は、もはや個人に留まらぬ。彼の存在を核とした部隊があれば、戦国の世に、「文化と力が融合した新たな武士像」を提示できる)
義元の胸中では、氏真を象徴とする部隊構想が、熱い血潮のように感情を膨らませていた。それは、単なる強兵の育成ではない。「平和な世でこそ輝く、新しい武士のあり方」という価値観を具現化する「必然的な道」だった。
「氏真よ」
ある日、義元は氏真を呼び出した。氏真は、以前のような臆病な様子もなく、堂々と父の前に立つ。その引き締まった体躯は、精緻な和歌を詠む文化人のそれとはかけ離れていた。
「貴様は、この父の教えをよく学び、見事にその肉体と精神を鍛え上げた。貴様の成長は、この父の、そして今川の誇りだ」
義元の言葉に、氏真の頬が微かに赤らむ。父からの直接の称賛は、何よりも氏真の喜びだった。彼の「父に認められたい」という感情が、さらに大きく膨らんだ。
「ゆえに、貴様には、この今川が誇るべき、特別な部隊を率いてもらいたい。その名は──『鞠武衆(きくたけしゅう)』」
義元の言葉に、氏真の瞳が大きく輝いた。「鞠武衆……!」
「そうだ。貴様の愛する蹴鞠、そして武士としての誇りを融合させた部隊だ。この鞠武衆は、貴様と同じ近代トレーニングを積み、高たんぱくの豆の汁を摂取し、文武両道の極みを目指す。彼らの肉体は、文化を支え、平和を守る、最も強靭な筋肉となるのだ」
義元は、そう言い放つと、自らの隆起した大胸筋をピクリと動かした。その筋肉の躍動は、氏真の心臓に直接語りかけるかのような「身体性」を伴う、力強い「期待」を与えた。
「そして、彼らの出陣の際には、蹴鞠の妙技を披露させよ! 舞のように美しく、しかし力強い蹴鞠で、敵を魅了し、畏怖させるのだ! 彼らは、『筋肉と文化が融合した、新時代の武士の象徴』となる!」
義元の言葉に、氏真の顔に強い衝撃が走った。彼の脳裏には、鍛え上げた肉体で、華麗に蹴鞠を舞い、敵を圧倒する部隊の姿が鮮明に浮かび上がる。それは、氏真の「文化への愛」と「武士としての誇り」という、異なる価値観が、今、父の言葉によって完璧に融合する瞬間だった。
「は……ははっ! 御意にございまする! この氏真、父上の御期待に沿えるよう、身命を賭して、鞠武衆を鍛え上げ、天下にその名を轟かせまする!」
氏真は、胸いっぱいに熱い感情を抱き、深々と頭を下げた。彼の心では、「単なる武力ではない、文化と融合した新たな武士の道」という、自身の「理想」が、「父の筋肉理論」によって現実となる「感情の分裂」が起こっていた。
数日後、清洲城の練兵場には、氏真の号令の下、新たな部隊が集結していた。彼らは、氏真と同じように引き締まった肉体を持ち、軽装の鎧を身につけている。彼らの背中には、まだ何も描かれていない真新しい旗が、風に揺れていた。
「よいか、鞠武衆! 我らは、今川の、いや、この日本の新たな顔となるのだ! 筋肉は裏切らない! そして、文化もまた、筋肉によって支えられるのだ!」
氏真の高らかな声が、練兵場に響き渡った。この日、今川幕府に、「筋肉と文化の精鋭部隊」、『鞠武衆』が誕生した。彼らの存在は、来るべき時代に、新時代の武士のあり方を示す光となるだろう。
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