第17話:二人の天才、筋肉に染まる

竹中半兵衛を今川家に迎え入れた今川義元は、清洲城の一室で、彼に「筋肉理論」の基礎を叩き込んでいた。


「半兵衛よ、良いか。知略は思考の筋肉だ。だが、その筋肉を動かすには、肉体の筋肉が不可欠なのだ」


義元はそう言って、完璧なフォームで「地面に手をついて身を押し上げる鍛錬」を披露する。半兵衛は、義元の異様なまでの肉体と、それに裏打ちされた「愚直な合理性」を前に、戸惑いつつも黙々と鍛錬に励んでいた。彼の額には、普段の冷静さからは想像できないほどの汗が滲んでいる。


「理屈は理解できませんが、確かに、思考が冴える気がいたします」


半兵衛は、疲労困憊の顔で呟いた。彼の胸には、「殿の狂気じみた行動が、本当に結果を出す」という「違和感」が、「畏敬」へと「感情を分裂」させていくのを感じていた。


義元は、半兵衛の成長に満足げに頷いた。彼の次なる狙いは、もう一人の天才軍師、黒田官兵衛だ。


数日後、義元は半兵衛を伴い、播磨の小寺家を訪れた。官兵衛は、今川の異様なまでの勢いと、義元の「筋肉の奇跡」の噂を耳にしており、その顔には強い警戒心が浮かんでいた。


「黒田官兵衛殿。お初にお目にかかる」


義元は、官兵衛の前に立つと、やおらその豪華な装束に手をかけた。官兵衛の眉が、ピクリと動く。その動作が、何を意味するのか。官兵衛の脳裏に、義元の「筋肉の噂」がよぎる。


スルリと、着物が肩から滑り落ち、陽光を浴びた大胸筋が、まばゆいばかりに輝いた。その肉体から放たれる圧倒的な「圧」に、官兵衛の心臓が不規則に脈打つ。


「さて、本題だが」


義元は、官兵衛の反応を楽しみながら、静かに語り始めた。


「貴様は、この乱世を終わらせたいと願っているな? 民が苦しむ姿を見るのは、貴様の義に反する。違うか?」


義元の言葉は、官兵衛の「乱世を終わらせたい」という根源的な渇望に、直接語りかけていた。官兵衛の顔に、強い衝撃が走る。


「……確かに。この乱世、早く終わらせるべきと存じます」


「フッ、ならば話は早い。貴様の才は、この今川にこそ必要だ。我らは、筋肉と合理で天下を制し、真の泰平をもたらす」


義元は、そう言い放つと、自らの上腕をピクリと動かした。


「筋肉は裏切らぬ。そして、この強靭な肉体が、天下泰平の礎となるのだ。黒田官兵衛よ……おれにつけば、鍛えてやろう! 貴様の才を、この筋肉が支えるのだ!」


義元の言葉と、目の前の「異形の筋肉」に、官兵衛の脳内は激しく混乱した。彼の「論理」という価値観が、「筋肉」という理不尽なまでの説得力によって揺さぶられる。隣に立つ半兵衛が、疲れた顔で小さく頷いているのが見える。


(竹中殿まで、この男の筋肉理論に染まったというのか……!?)


官兵衛の胸では、「天下泰平という理想」と「理解不能な筋肉」という矛盾が激しくぶつかり合う「感情の膨張」が起こっていた。しかし、最終的に官兵衛の「乱世を終わらせる」という価値観が、「義元の筋肉理論こそが、そのための唯一無二の手段である」という「思考」へと導いていく。


官兵衛は、深く、深く息を吐き出すと、義元の前にひざまずいた。


「……お見事。お供いたしまする、義元公!」


その言葉は、官兵衛の「才」が、義元の「筋肉」と結びつく「決断」であり、今後の天下統一を加速させる「線」となった。


「ふははは! 見事だ、官兵衛! これで今川の知恵の筋肉は、さらに強靭となるぞ!」


義元の高らかな笑い声が、小寺の陣幕に響き渡った。


この日、竹中半兵衛と黒田官兵衛、二人の天才軍師が、今川義元の「筋肉理論」に染まった。そして、今川家は、名実ともに「最強知略+筋肉軍団」へと変貌を遂げたのだった。

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