第3話 揺らぐ優越感
真吾くんと、気の合う友達数人と組んだ私たちのグループは、現代社会のグループワークを順調に進めていた。
テーマ決めもスムーズに終わり、情報収集も手分けして効率よくこなしていく。
真吾くんはリーダーシップを発揮してくれて、私もみんなをまとめるのが得意だから、私たちのグループはいつも和気あいあいとした雰囲気だった。
きっと、最高の発表ができるはずだ。
私たちは、自分たちの発表がクラスで「一番」になることを信じて疑わなかった。
クラスのみんなが私たちの発表を賞賛してくれる。
そんな想像をしながら準備を進めていた。
そして、いよいよ現代社会の発表の日が来た。
クラス中がざわめき、発表の順番を待っている。
先生は、各グループの準備状況を確認し、教壇に立った。
私たちのグループは、中盤の発表だった。練習通り、完璧なプレゼンテーションを披露できたと思う。真吾くんが堂々と発表し、私も自信を持って補足説明を加える。
クラスメイトたちも、真剣に聞いてくれているのが分かった。発表が終わると、大きな拍手が沸き起こった。
先生も満足そうに頷いてくれた。
「佐伯たちのグループは、いつも安定して素晴らしいな。よくまとまっている」
先生の言葉に、私は心の中でガッツポーズをした。
他のグループの発表とは全然ちがう。やっぱり、私たちのグループが一番だ。
いくつかのグループの発表が終わり、次に呼ばれたのは、優斗くんと橘さんのグループだった。二人が教卓の前に立つ。優斗くんは少し緊張しているようだった。
橘さんは相変わらず無表情で、メガネの奥の瞳は何も語らない。
「それでは、秋原と橘のグループ発表を始めます。テーマは『AI技術の社会インフラ化について』です」
秋原くんの声が、教室に響き渡る。
「AI技術の社会インフラ化……? なんか、難しそうなテーマだね」
真吾くんが、隣でぼそっと言った。
私も同じように感じていた。引っ込み思案な彼ら二人に、そんな難しいテーマが扱えるのだろうか。正直、あまり期待していなかった。どうせ、ありきたりな内容で、平凡な発表になるだろう。
しかし、彼らの発表が始まると、私の予想は大きく裏切られた。
橘さんの声は、普段の大人しさからは想像できないほど、はっきりと、そして説得力に満ちていた。
彼女が説明するAIの歴史や、社会での活用事例は、どれも深く掘り下げられていて、私たちが見たことのないような専門的な内容まで含まれている。
優斗くんも、スライドを操作しながら、技術的な部分を的確に補足していく。
クラスメイトたちのざわめきが、次第に感嘆の声へと変わっていくのが分かった。
先生も、普段は厳しい表情なのに、彼らの発表には食い入るように見入り、何度も頷いている。
彼らのレポートは、私たちが作ったものよりも、はるかに専門的で、内容も深く、そして何よりも、彼ら自身の言葉で語られているのが伝わってきた。
発表が終わると、教室には大きな拍手が響き渡った。
「素晴らしい! 高校生とは思えないほど、深く掘り下げられた内容だ! 特に、専門家へのインタビューまで行ったとは、そのリサーチ力と探求心には脱帽だ。君たちの発表は、他のグループとは一線を画していた。本当に感銘を受けたよ!」
先生の絶賛の言葉に、私は信じられない思いで、優斗くんと橘さんを見つめた。
まさか、あの二人が、こんなにも素晴らしい発表をするなんて。
私の心には、驚きと、そして、初めての焦りが混じり始めていた。
発表後、クラスの空気は少しずつ変わっていった。
休み時間になると、普段は優斗くんや橘さんと話さないようなクラスメイトが、彼らに質問しに行ったり、感想を伝えたりする姿を目にするようになった。
橘さんは、相変わらず大人しいけれど、以前よりも少しだけ、表情が柔らかくなったように見えた。
優斗くんも、以前とはどこか違う。中学の時は、いつも下を向いていて、自信なさげだった彼が、今は背筋を伸ばして、クラスメイトの質問に堂々と答えている。彼の髪型も、いつの間にか垢抜けていて、その変化は、私にもはっきりと見て取れた。
私の心の中で、私たちが「一番」だと信じていた優越感が、少しずつ揺らぎ始めているのを感じた。
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