【完結】失恋から始まる青春再生物語

第18話 ファッション・デート

　数日後、僕たちはショッピングモールで待ち合わせた。

「秋原くん、遅れてごめんなさい！」

　待ち合わせ場所に現れた橘さんは、いつもの制服姿だったけれど、心なしか表情が明るい。

　僕も、瑞希に「お兄ちゃん、これ着て行けば？」と半ば強制的に選ばされた新しいTシャツとチノパンで来た。少しだけ、いつもより胸を張っている自分がいた。

「大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」

　まずは、僕の服から見ることになった。

　メンズフロアに足を踏み入れると、様々なブランドの服が並んでいる。

　僕は普段、あまり服に興味がないので、何を選べばいいか全く分からなかった。

「秋原くんは、背が高いから、こういう縦のラインを強調するシャツとか、似合うと思います」

　橘さんは、僕の隣で真剣な顔をして服を選んでくれる。

　彼女の視点は、瑞希とはまた違って、なんだか新鮮だった。

　瑞希は「これが流行だから！」と有無を言わせない感じだったが、橘さんは僕の雰囲気に合わせて、じっくりと考えてくれているようだった。

「これとか、どうですか？ ちょっと冒険になりますけど、秋原くんの雰囲気に合うと思います」

　橘さんが差し出したのは、普段の僕なら絶対に選ばないような、少し明るめの色のシャツだった。淡いブルーのストライプ柄で、清潔感がありながらも、どこか洗練された印象を受ける。

「え、これ？ 俺に？」

　 半信半疑で試着室に入り、袖を通してみる。鏡に映った自分は、確かにいつもと違う。野暮ったさは消え、少し大人びて見える。

「……どうかな？」

　試着室から出て橘さんに見せると、彼女は目を輝かせた。

「すごくいいです！ 秋原くん、すごく似合ってます！ いつもと全然印象が違いますね！」

　橘さんの言葉に、僕は照れくさくなった。

　でも、なんだか嬉しい。こんな風に、誰かに似合う服を選んでもらうなんて、初めての経験だ。

　次に、橘さんの服を見ることになった。

　レディースフロアは、色とりどりの服で溢れている。

　橘さんは「私なんて……」と遠慮していたけれど、僕が「橘さんの服も見てみたい。きっと似合う服がたくさんあるよ」と言うと、少しだけ嬉しそうに頷いた。

「橘さん、メガネ外した方が絶対可愛いから、もっと色んな服、似合うと思うよ」

　僕がそう言うと、橘さんは顔を赤らめて、小さく笑った。

　彼女が選んだのは、清楚なワンピースや、淡い色のブラウスだった。試着室から出てくるたびに、僕の心臓がドキリと跳ねる。伊達メガネを外した橘さんは、本当に美しかった。

　小柄な体に似合う、柔らかな素材の淡いピンク色のワンピースは、彼女の魅力を最大限に引き出している。特に、胸元のラインが強調されるデザインは、僕の視線を釘付けにした。

「どう、かな……？」

　橘さんが不安そうに僕を見上げる。

「すごく、似合ってる。可愛い」

　僕が素直な感想を言うと、橘さんは照れたように俯いた。その仕草が、また可愛らしい。

　何着か新しい服を買い、僕たちはカフェで休憩することにした。

「私、こんなに服を選んだの、初めてです」

　橘さんは、嬉しそうに紙袋を眺めている。その瞳は、まるで子供のようにキラキラと輝いていた。

「俺もだよ。瑞希と行くのとは、また違うな」

「瑞希さん、ですか？」

「ああ、妹なんだけど、ファッションにはうるさくてさ。いつも俺の服にダメ出しばっかりなんだ」

　僕がそう言うと、橘さんはくすくすと笑った。その笑顔は、本当に楽しそうで、僕の心も軽くなった。

「でも、瑞希さんのおかげで、秋原くんも変われたんですよね」

「そうだな。瑞希には感謝してる。でも、橘さんのおかげで、もっと変われた気がするよ」

　僕がそう言うと、橘さんは少し照れたように、でも嬉しそうに微笑んだ。