後編

「それに、勢雄さんの、セイレンをテルルで見つけたって、なんなんです?」

 ゲーム屋さんは、キョトンとしてる。


「あー、その…夢かなー」

 勢雄さんは挙動不審だ。

「……そんな、二次創作な夢を勢雄さんが見られるとは思いませんでしたよ」

 ゲーム屋さんは何の気なしに言ったんだろうけど、瀬尾さんは泳がしていた目をあたしに向けた。


 …んと…どうしようか?あ。


「志山さん、石。ブルーナくんには貰ったでしょ?川原の石」

「あー、貰ったねぇ…で…指輪貰うんだよね」

「あ、貰っちゃったんだ」

「え?割とすぐくれない?」


 志山さんはホントに知らないようだ。


 あたしは、ゲーム屋さんの顔を見た。

「指輪は貰うと、いくら周回してもアイテールとメルクリオス家の人は攻略できませんよ」


 うんうん。あたしは正しかった、


「なんですって?!」

 志山さん…「しぃー」て、人差し指を立てると、志山さんは、辺りを見回した。だから、

 

 「指輪貰って他の人って、どんな倫理観ですか」

 って、ちょっと意地悪してみる。


「…コレクション?」

 …志山さーん、倫理!


「折角なので、そのデータは職人エンドコレクションしてください」

 意地悪、続けるぞ?


「確かに山賊エンド見た時は、何?これは?とは思ったけど…」


「山賊…?指輪貰って?逆にすごいよ、志山さん。でも…」


 流石に二の句が継げなくなって、ゲーム屋さんの顔を見たら、

「指輪貰ったら、そうですね。他の攻略は出来ない仕様です」

 って、フォローしてくれた。ナイス。


「なんだ?最近のゲームって、そんなめんどくさいことになってるのか?」

 いつの間にか会話に入ってなかった勢雄さんがコーヒーを持ってきてくれた…けど、志山さんから飲んじゃダメですよって速攻、怒られてる。


 志山さんが立ち上がって、小さな紙コップを瀬尾さんに渡す。

 「これにしといてください」

 って、なんか勢雄さんは不満気だけど、

「勢雄さん!ゴチになります」

「あー、飲め飲め。俺は水だけどな」

 しかもこれだけ、って胃潰瘍って可哀想だな。


 あたしはカフェ・オ・レを貰って、クリス様を眺めていた。



「女の子はハーレムより一人のヒトに大事にされたいって…」

 ゲーム屋さんが、ぽつりと話し始める。

 

「選ばれるだけじゃなくて、選びたい。翻弄されるだけじゃなくて、自分で切り開きたいって…」

 ゲーム屋さんは一所懸命、言葉を探してるみたい。


「誰が言ったんだ?」

「…派遣さん、なんです。このゲームのプロジェクトが立ち上がる前に、カスタマーサービスに来てた派遣さん…」


「アイデアだけ横取りしたの?」

 あたしの口からぽろっと飛び出した。

 なんか、素直に出ちゃった。


「違いますよ!彼女の言ったことはもっとふわっとしてて…想像の世界が別世界のトリガーになればとかなんとか…でも…結果的にそうなのかな…」

 肩を落としてるゲーム屋さんに、志山さんが追い討ちをかける。

「で、その方は?」


「契約が切れて…退社しました。あ!社員登用に推薦はしたんですよ!!目の付け所が面白いし、何より真面目だし…でも…年齢が…ちょっと高齢だったんですよ…」


 勢雄さんが、渋い顔してる。ステキ。だけど。


「年…って…仕事じゃなくてか」

 ああ、仕事より年齢で線を引いたことに、苦渋を感じてるのか。


 「ごめんね、若い子の前で言いたくないけど、意外と社会ってそういうもんなんだよ」

 ゲーム屋さんがあたしを見て言った。


「世知辛い世の中ですものねー。で、その人って年齢だけがネックだったんですか?シャカイベンキョウに教えてくださいよ、もちろん個人を特定する気は無いですよ?」

 勢雄さん、なぜ溜め息をつく?


「仕事は早くて、段取りが上手い。目の付け所も斜め上、で面白い人でしたよ。アメリカ人の研修が来たときも、頑なに日本語で話してました」


「外人さんが、日本語出来たの?」

「出来ません。でも通してるんです。私は英語が得意なので、彼らの通訳をしていたんですけど、要らないくらい会話してました。英語はからきしなのに、筆記体が上手くて、そのアメリカ人に代筆を頼まれたりしてたみたいです」


「それで、ゲームでの共通語が筆記体なの?」

と、志山さん。あれ?そうだっけ?


「…公式設定ではないはずなんですけど…そうですよ?よく気付かれましたね」

 志山さんは何だか考え込んでいて、ゲーム屋さんの声は聞こえていないみたいだ。


「そんだけ、非公式とはいえ屋台骨になってるなら出来たゲームを進呈くらいしてやったのか?」

 勢雄さん…派遣さんの“年齢だけで”無碍にしたことを、気に食わないみたい。


「提案はしたんですよ?でも、携帯型ゲーム機は老眼で字が読めないから遠慮するって、さとうさん…」

 志山さんが、はっとする。

 ああ、やっぱりそうか。

 あたしは、勢雄さんと目を合わせて頷く。


「懐かしいな…元気かなあ…」

 ゲーム屋さんがしみじみ言った。



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当世流行りの異世界顛末生~とうせいはやりのいせかいてんまつき~ 砂生 @narlel-00

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