4話 寵愛
目が覚めるとミリアがいた。
僕に手を握られている事にも気付かないようだ。
イーラが僕が目覚めたのに気付いて、にぃーと笑う。
ミリアがやっと僕に気が付いた。
やっと。
僕はミリアを離さないと心に誓った。
誓ったのにクリストファーに引き摺られて仕事をさせられた。
ミリアが起きた事で火が着いた。
全く困った親父様だと思った。
その日、家に帰り皆で夕飯を摂り人心地付いた後、遊戯室に行くとミリアが酒盛を始めていた。
安心したのと呆れたのが混ざりあったが隣に座れと誘われた。
僕はクリストファーに見張られていて一緒に部屋に入ったら、ミリアに一人用のソファーを勧められて凹んでいた。
ミリアは聞きたいことがある様でそわそわと落ち着きがない。
酒の勢いを借りなければ話せない事なんだろうか?と思うと僕の方もびくびくする。
そんな僕らを見ながらクリストファーがにやにやしている。
ミリアが僕を実の兄と信じていたらしい事に驚いた。
確かに隠してはいなかったが、言ってもなかった。
と云うか、誰も兄扱いしていないにも関わらず、ミリアは僕の事を兄様と言っていた。
それならば、ミリアは兄である僕に接吻したのかと動揺したら口に出していた。
クリストファーに責められた。
血の繋がりが無いことが分かったミリアは、早々に僕を置いて逃げ出した。
ミリアが部屋に戻るのを確認して、クリストファーが話し始めた。
ミリアは、実はクリストファーとも血は繋がっていない。
スーラの恋人は僕がこの家に来る前に亡くなっていた。
ミリアはスーラとその恋人との子供だ。
何でクリストファーが育ててるの?と聞くと、何でだろうと答えた。
ただ、僕もミリアも育てなきゃと思ったらしい。
君たちは大事な子供だからね、と言った。
物語…と思ったが、ミリアは違う。
……だけど、君がミリアを泣かせたりしたら、分かってるね。と、ラウノに見せられたクリストファーの顔で言われた。
一緒に幸せになろう、と言うミリアを腕の中に閉じ込める。
あの者は幸せだったろうか?
ふと、頭を過る。
僕に悪戯を仕掛けて煽ってくるミリアに、賢しく高齢のご婦人のようだね、と言ったら言葉に詰まっていた。
一つ勝てたと思ったがそんなことはなかった。
僕はずっと君に翻弄されるだろうと思う。
だって、僕の存在は君あってのものだから。
いつか、君の世界を垣間見たことを話してあげよう。
僕が君を知っていると言ったら君はどうするだろう。
ねえ、ミリア。
◼️跋文──エピローグ──
「【デイムメイカー】…」
「!看護師さん!知ってらっしゃる!」
何度ともなく見ていたスマホの公式サイトを眺めていたら、初めて見る看護師さんが呟いた。
あまりメジャーとは言い難いゲームなのに、知ってる人がいるとは嬉しい。
「や、知ってると云うか…知ってる」
なんだか歯切れが悪い。
そんなに恥ずかしいゲーム何だろうか?
仲間を見付けた嬉しさが先立ってしまったけど、大人の人はゲームしてるって言いたくないのかな?
なんだか困ってしまっていたら、看護師さんがほたほたと泣いていた。
「え?え?」
「ねえ、私の話、聞いてくれるかな?」
「今でも良いですよ?暇だし」
涙を拭いた看護師さんは
「私は暇じゃない」
と涙を拭った。
確かにお仕事中ですね。
「少しだけ、長くなるし」
そういって悲しげな顔をした。
看護師のお姉さんは休みの日に来てくれた。
制服姿とは違う私服のお姉さん。
「ホントは患者さんと個人的に仲良くしちゃダメなんだけどね」
と、言って、志山風花ですって自己紹介してくれた。
何時もは外科に居ないけど、あの時は応援で来てたらしい。
で、あたしと会ったわけだ。
「杉田弥依です」
「何から話そうかな…」
そういって志山さんは話し始めた。
「夢物語で聞いてもらって構わないんだけどね…」
まさかの異世界転生物語だった。
志山さんとあたしの夢の話を擦り合わせる。
「…もしかしてなんだけど、貴女の夢での名前…いー、ある、さー…スーラ?とかだったりする?」
そう志山さんは不安げに聞いてくる。
「そうです。あれ?あたし、言いましたっけ?」
「言ってない。けど、貴女の彼がラドス。私がラウノ」
「?」
何の事か分からない。
「イー、アル、サー、スーは中国語で一、二、三、四。ウノ、ドスはスペイン語で一、二」
「適当感がモブっぽい…」
「まあ、スペイン語かな?てのはミリアが言ってたんだけどね」
「ミリア?」
「話からすると貴女の子供ね」
「ほお…賢い」
「中の人は五十って言ってた」
「何と!」
「実は聞いて欲しかったのはその話でね」
実際、志山さんが会ったのは三才のミリアという子らしい。
クリス様の娘は産まれて間も無くセイレン様が殺されるから、物語上三才というのはあり得ない。
「…それは、母が
「…」
…志山さん、目を逸らさないで。
ちょっとだけ笑い話にして、志山さんの目は再び真剣モードに入った。
「それだけでもなさそうだけどね」
「ミリア…さんに中の人が入り込むために、予め舞台が整えられた感もしますねぇ」
「だったら、佐東氏は幸せなのかなあ…」
「?」
「ミリアの、多分中の人。セイレン様が迎えに来た」
「何ですと!」
「そりゃあ、もう。ホログラムなセイレン様がふわふわしてたわよ、二日前」
「この病院に?」
「この病院に!」
二日前なら、手術の翌日か、
会え無かったのは少し残念な気がした。
でも、覚えてるのかな?
あちらとこちらで時間の流れが違うのだと思った。
あたしが、お世話した少年はグレること無く、少し拗らせてはいるようだけど、けど優しく成長したと聞いて安心した。
夢なのか、妄想なのか。
現実なのか。
あの後、どうなったのかあたしには知る術 がないし、だからと言って命を掛けてまでは知りたくはない。
「ミリア…さん…ゲーム世界に行ったって事ですよねぇ?……幸せなのかなあ」
「ん~…私もそれは気にはなるのよね。まあ、そもそもゲーム世界が在るのかって事なんだけどさ。だから、誰かに話したかったんだけど、適任者が身近にいて助かったわ。」
「あたしの…子…かあ…って、はっ!まだ処女なのに」
「ま、マリア様とでも思えば」
「処女受胎が別の世界でミリアを救ったと思おう!」
と、志山さんは又泣いた。
そうだね、そうだね、て言った。
あたしが、お乳をあげた子はこの世界を出ていった人って思うと寂しくもある。
辿々しくわたしのお乳を飲んでいた子供の感触。
ねぇ?
あなたは幸せでしたか?
今は幸せですか?
なら、いいけど。
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