第26話 立場の違い

久永さんからの影響もあり、このところ、元々野生のタヌキであるポン子をこのまま飼い続けて良いものだろうかと悩んでおりました。判断を自治体に仰ぐのも一計と思いまして、福岡県の野生動物担当課へ連絡を入れてみました。




「あのう一つお聞きします。現在タヌキを家で飼っていますが、元々側溝で見つかって瀕死の状態だったのです。今は元気でケージの中で過ごしております。私にはよく懐いてくれています。このまま飼い続けて良いのでしょうか?」




返事はこんな風でした。




「他の自治体では届け出制を設けて許可しているところもございますが、福岡県は行っておりません。本来、タヌキのような野生動物もしくは害獣は自然に帰さないといけません。ですから、お家で飼って良いとは私の方からは申し上げられません。そちらで飼っておられるタヌキちゃんが自然に帰せるようになったら、どうぞ帰してやってください。念のために、そちらの連絡先をお聞きしておきます」




まことにもっともな回答でした。




SNSで調べてみますと、タヌキの平均寿命は10年と書かれておりました。前にも申し上げました通り、私は今年75歳で後期高齢者の仲間入りです。啓子は68歳。私より7つ年下です。




心の中で、このような気持ちが湧いておりました。




『タヌキの平均寿命が10年? 今私は75歳、10年だったら何とか最後まで面倒看られる気がする。万が一、私が世話できなくなっても、啓子が後を世話してくれるだろう』




ポン子を飼い続けることに、年寄りの矜持を鼓舞したい気持ちにもなりました。とかくしぼみがちな年寄りの未来を、少しでも膨らませたいのかもしれません。




そう言えば今晩のニュースで、アメリカ大統領選のテレビ討論会で78歳のトランプ大統領が極端な話を持ち出しました。




「オハイオ州のスプリングフィールドでは、移民が犬を食べている。猫を食べている。ペットを食べている」




にわかに信じがたい刺激的な発言でした。これに対して、ABCの司会者はスプリングフィールド市の担当者に取材して、そのような事実はないと指摘したのです。




トランプ氏は、これまでも事実に基づかない過激な主張を繰り返し、気に入らない報道はすべてフェイクニュースだと言い募ってまいりました。




このような人が大統領になると、世の中は一体どのようになるのでしょうか? 犬や猫、そこに住んでおられる方々は心外だと思います。嘘八百で世界の秩序が乱れるとしたら、どういたしましょう。くわばらくわばら。




ただ、その一方で、大衆は往々にして偏った先入観が心にすりこまれるきらいがございます。今後のトランプ氏の様子を確かめてまいりましょう。




床についたら、せめて重たい話は抜きにして、安らかに眠りにつきたいと思います。




おやすみなさい。


-続-

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