3度目の正直

@mimi_5

プロローグ 彼氏は必要ないから

「私、好きな人いるんだよね。」

河内優花は友人、桜井美月の言葉に一瞬固まった。

「…は?」

「だから、好きな人がいるんだって!隣のクラスの木下君。」

高校2年生。高校生活にも慣れてきて修学旅行もあるからか、周りには少しずつカップルが増えてきたように感じていた。しかし、部活と推し活がすべての優花にとってはどこか他人ごとであった。もちろん修学旅行も友人の美月や理沙と過ごすつもりだった。

「え、こ、告白するの…?」

「まさか!向こうは私のことあんまり知らないもん。まずは友達にならなきゃ。」

美月はそう言って照れくさそうに笑う。

木下君、という人が美月のことを知っている確率は高いだろうに、と笑い返しながら優花は思った。美月は学年一、いや学校一かわいいといっても過言ではないほどの美人だ。本人は自覚がないのか人見知りが激しく、学校ではほとんどの休憩時間を私や理沙と過ごしている。いたって平凡な私とこんなに仲が良いのは幼稚園の頃からの幼馴染だからである。どんなにかっこいい人から告白されても断り続けていた美月は恋愛に興味がないのだと勝手に決めつけていた。

「どうして木下君のことを好きになったの?」

「部活でね、助けてもらったの。」

聞けば、部活中に具合が悪くなった美月に気づいて保健室まで連れて行ってくれたらしい。木下君も美月と同じくバドミントン部らしい。

「へー。いいじゃん。」

「優花は好きな人いないの?この人かっこいいなーとか。」

「いや、私はゆーとにすべてをささげるって決めてるから。」

”ゆーと”というのは私が1年生のころから推しているVチューバーである。主に歌とゲーム実況を配信している。

「それは知ってるけどさ、好きな人できたら学校もっと楽しいよ?」

美月は不服そうに口をとがらせて言った。


それから美月は木下君という人と着々と仲良くなっていった。

「今日はね、木下君に挨拶できたの。」

「木下君と一緒に帰ることになった。」

「木下君がね、映画誘ってくれた…!」

そう話す美月の顔はとてもうれしそうだった。

だから、予想はしていた。


「私、木下君と付き合うことになった。」

「え!おめでと!」

「それでね、修学旅行、ふたりで回ろうって。」

「いいじゃん!楽しみなよ!」

美月から打ち明けられた時には木下君が優しそうで友達も多く、

背の高い好青年であることを知っていた。

美月とはお似合いだったし、何より木下君のことを話す美月は幸せそうだった。

それが何よりうれしかった。


「そういえば、理沙も彼氏できたって言ってたよ?」

「…マジ?」

それは初耳だ。理沙のことだから美月と木下君が付き合って

自分まで彼氏ができてしまえば、修学旅行で私が一人になってしまうのではないか

と思い、言い出せなかったのだろう。

「ほらー優花も彼氏作れば?」

「いや、それは別にいいんだけど、そっか、修学旅行一人か。」

「ごめんね?」

「いや別にいいよ。二人が幸せならそれで充分。」

「優花ー!」

美月が抱き着いてきた。相変わらずかわいい。幸せになってほしい。

頼むぞ木下君、と心の中で話したこともない木下君に願った。


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