第11話:楽しみにしていたのに
取材翌日、写真部は休みだったものの新聞部で情報整理があり、
「妹より、点滴終わるまで
萌の体調不良の件について、朝陽は新聞部へ報告。
「よかったですね」
「朝陽さん、
「はーい、それではお言葉に甘えて」
☆☆☆
合同取材から1週間後。
「おはようございます!」
朝陽と
「先輩方、そして新聞部の皆様にこの度は大変ご迷惑をおかけいたしました」
深々と頭を下げた萌が差し出したのは。
「母より、先日のお詫びとして持っていきなさいと言われまして」
萌のお母様手作りのマドレーヌだった。新聞部の分もある。
「あ、ありがとう……」
そして康貴、
「確か今日新聞部もいると思うから、一緒に持っていこう」
「はいっ!」
写真部は午前中で部活を終え、朝陽は取材時に撮った写真をまとめたUSBメモリを持ち、萌と2人で新聞部の部室へ向かった。
「どうしたんですか?」
予定外の訪問に変に思っていた伶奈だったが、
「せ、先日は皆様に大変ご迷惑をおかけいたしました。体調はすっかり回復しました! 母よりお詫びで持っていきなさいと言われまして、こちらを……」
「わあ、美味しそうなマドレーヌだぁ! 形もすごくきれいで……」
新聞部の副部長の女子部員が箱の中を興味深々で覗き込む。
「ありがとうございます。お昼休みに部員の皆で美味しくいただきますね!」
「あ、それとこないだの依頼の件終わったので、持ってきました」
危うく忘れるところだった――と焦った朝陽はUSBメモリを伶奈に手渡す。
「助かります、ありがとうございます。何か不備あれば連絡します」
☆☆☆
9月に入り、夏休みが終了。考査の結果が次々と明らかになる中、昼食をとり終えた朝陽は次の講義が行われるパソコン室に早めに着き、何を思ったのか何かを探していた。筆記試験や書類選考へ向かうゼミの仲間がいるものの、朝陽は就活に向けた活動は何もしていなかった。
(そういえば、そろそろ……)
朝陽の目に飛び込んできたのは、今年度のフォトグラフィアコンテスト開催の案内だった。昨年度のコンテストの授賞式で一緒に会場に向かった康貴が、1枚1枚の写真に釘付けになりながら無料鑑賞スペースを回った記憶が新しい。
「……僕がいるうちに、1回でも皆で」
そう呟いていると、次々と人が入ってきた。朝陽は画面を閉じ、講義開始の時を待っていた。その後に行われるゼミから、ゼミとしての本格的な大学祭の準備が始まる。
そして翌日、部活にて。
「部活始める前に、僕から皆に提案がある。昨日、今年度のフォトグラフィアコンテストの案内を見かけた。高校の時から僕個人で参加しているだけだったけど、僕にとって大学生活最後になる年に、部として皆で参加してみないか?」
一晩中考えたが、朝陽のこの決断は揺るがない。
「……俺は賛成です」
静かに挙手をしたのは、康貴である。
「私も賛成します! 私の情熱の原点のそちらのコンテストへの参加……まだまだ未熟者ですが挑戦したいです!」
萌がハキハキと賛成の声を挙げる。黙って聞いていた日陽と万衣は顔を合わせ、仕方ないかと思いつつも頷いたのである。
「……よし。例年通り10月末が締め切りで、年末に結果が郵便で届く。年明けすぐに授賞式が行われるから。大学祭の準備と並行しながらになるけど、個人でどういった写真を撮りたいか考えていこう」
「「はいっ!」」
☆☆☆
新聞部との合同記事の作成が順調に進み、ゼミでは模擬店出店に向け材料調達方法・店番決め等々の打ち合わせも順調に進んでいる。そんな中、前期の考査の結果が全て出揃い成績が確定した。朝陽は変わらず好成績で前期を終え、後は就活をどうにかしないといけない。
――しかし、大学祭まであと半月ほどになってきたが、
「凪咲から何か聞いてる?」
昼休み、食堂で食事を共にした康貴に尋ねる。
「いや、何も聞いてないです。そもそも、LINEの返事も遅くなっていく一方だし……」
(嫌な予感がするなぁ……)
康貴が自分と同じ状況であることを知った朝陽は顔をしかめていた。その日の準備作業が終わり、帰宅してからこうLINEを送る。
〈話を変えて申し訳ないんだけど、来月の大学祭来れそう?〉
未読のままになっているが、待っているばかりにはいかない。これ以上の言葉は打ち込まず、そのまま送った。珍しく当日中に返事が返ってきたのだが……
〈話はしたんだけど……休み取られたら回らないって言われた。ごめん、行けなくなった〉
(……はぁ……)
予感は的中。彼女に会えるから――より良いものを作ろうとゼミでも、部活でも頑張っていたのだが、朝陽は一気に気力を失ってしまった……。
※次回の更新は11月3日月曜日となります。
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