血液の揺らし方を知らない僕たちは

入江弥彦

ロキとトウキ

 トウキが勢いよくカバーを外すと、ずいぶん古そうなマシンが顔を覗かせた。


「これって、二人で乗れるの?」

「そうじゃなきゃあんな提案はしないだろ」


 砂と埃にまみれて色の変わったカバーを丸め、トウキは改めてマシンに向きなおる。時間は経っていそうだが手入れされていて、以前のオーナーがたくさん愛していたであろうことがうかがえる。


「ロキ、乗ったことある? バイク」

「あるわけないだろ」


 乗ったことどころか、見たことだってほとんどない。高速で地上を走る小型のマシンだということは知っているが、動かし方なんて知るはずもない。


「じゃあ俺が前か」

「トウキは乗ったことがあるのか?」

「あるわけないだろ」


 先ほどの僕と同じ返しをしながら、トウキは手際よくマシンをいじっている。手際が良く見えるのは僕がなにも知らないからかもしれないが。

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