第一章 8 戦いの後処理

「それで、怪我人はいらっしゃる?」


 クリーム色のタートルネックと黒のパンツに白衣を身にまとっていて。赤色の大きめなバッグに白の十字マークの救急バッグを手に持ち運び。ボサボサな黒のウルフカット黒フィルムの眼鏡をかけている。女医の目つきは、気だるそうながらも真剣な眼差しで二人を見つめていた。


「まぁ、今のところは。けれど、SABTの人達は、怪我人どころか……六名亡くなったわ。」

 月宮遥は淡々と、荒井京子あらい きょうこに状況報告を行った。怪我人けがにんは、多いが。なにより、大きく心の傷をおおった人もおる


「そう…、二人共怪我は無いのね?あったら治すよ?」


「いいえ、私は、問題ないわ」


「わたしも、ないわ〜。まぁ、強いて言うなら……返り血が着いたことかしらね〜」


 カナタは、頬や右手にベトッと付着していた為。不快さに思わず「や〜ん…もう、最悪〜」


 顔を顰めながら、手を振る仕草で返り血を今にも拭きたそうにしてた。荒井も思わず、ため息をつき。救急カバンから。除菌用のウェットティッシュを取り出し、カナタに渡す。


「ほら、これ渡すから。そんな、女々しい声やめて」


「あら、ごめんなさいね。荒井先生」


「カナタさん、強いのに。所々、女子よね〜。」


「だって〜、メイクで綺麗にしてたのに。返り血で台無しよ〜 」


 カナタは、え〜んと泣き言垂れながら。ウェットティッシュで手や顔に付着した返り血を拭う。

 荒井は、鶴谷修也と中野碧が無事なのか気になったので。月宮遥に、聞き出す。


「碧くんは、無事よ」


「""が気になるな。鶴谷団長は、何があったの?」


「あっそうそう!わたしも気になったのよ。修也くん何があったの?大怪我しちゃったの?大丈夫?」


「いや、何度も言いますけど。大丈夫……だと思うかも…… 」



 カナタと荒井は、遥の含みのある台詞に思わず焦ってしまう。遥は、知ってるから良いが。あまりにも言いづらいってのもあるから。少し、含みを入れてしまった。


(うわぁ、なんて言えばいいんだろ……。メンタル面って言えばいいんだろうけども)


 ただ、言えるとしたら。外傷という外傷は見当たらない。ただーー


「イリーナさんと隼人はやとくんが助けに来たのよ。イリーナさんが搭乗してたパワードスーツでね。」


「あぁ、隼人くんが作ってたアレね〜。それが、どうしたの?」


 目を泳がせながらも、決して自分がやったわけでもないのに。なぜか、バツが悪そうになってしまいながらも。二人に説明する


「えぇ、武器も搭載されてなかったから。鶴谷のハチロク……敵に向けて投げたのよ。」

 と苦笑するしか無かった、というより。それしか、出来なかった。なんせ、一応上司の車を投げ飛ばしてるんだから

 ーー二人は、思わず


「え?」


 カナタと荒井の声が、同時に重なった。思わず、まぶたがパチパチと閉じてしまった。カナタは、それをやったのは?と言い出しそうになったが、何となく犯人がわかっていたので、言うのを辞めた。


(うわぁ、修也くん。相当落ち込んでるんだろうなぁ……可哀想に……)


(はぁ、なにやってんのよ……イリーナさん。)


 カナタは、同情心からか顔をしかめめ渋そうな顔をし。荒井さんは、思わずため息をつき。額に手を当て、首を振った。


「んで、カウンセリングいるかしら?」


「入りますね。あれは、」


「でしょうね。」


 荒井は、月宮遥に鶴谷修也の場所を案内してもらう事にした。



 ーーそして、一方の鶴谷修也はと言うと。


「……」


 ずっと、虚無な目線で愛車である。GR八六を見つめて、両足を曲げて座り込んでいた。言葉も何も出ないくらいに、無惨にも横転し。ルーフが大きく凹み、フロントガラスだけでなく両サイドのミラーが割れて跡形もなかった……ことに、やるせなさでため息をついた。


「なんだよ……まるで、戦友でも亡くなったような面だな。」


「サビットの隊長さん……」


 膝を崩して座っている、鶴谷の横に来たのは。黒の戦闘服に身を包んだSABTの隊長が、戦いをひとまず終えたからか、咥えタバコを蒸しながら。隣にいた


「隊長も大変だったじゃないですか……仲間が六人もやられて」


「慣れてるよ……慣れたくないものになれた」


 咥えタバコを指で外し、ゆっくりと煙を吐いた。白い煙が、空へと上がって消えていく。隊長は、吐いた煙を見つめるのをやめた。


高松陽一たかまつ よういちだ……」


「……え?」

 鶴谷は、急な自己紹介も交わされたからか。間の抜けた声で返事してしまった。高松と名乗る、隊長の方も苦笑と同時に困り表示に頭を搔く。


「まぁ、そんな反応にもなるか……」


「すいません。」


「いいんだよ。実際、襲撃でてんやわんやなんだ。悠長に自己紹介してる暇もないわな。」



 高松は、ハハハって思わず笑ってしまう。鶴谷も、思わず。フッと笑いが込み上げてきた。


「んで、あんた名前は?」


「鶴谷 修也です。」


「鶴谷さんかぁ…もう、いくつくらいなんだ?」


「二十八ですよ。」


 高松は意外そうな表情をうかべる。


「そのくらいかぁ、まだ若いな」


「若いって……高松さんいくつなんよ」


「もう、三十六だよ……。もう、これ以上の無茶は出来ないよ。」


「見えねぇ……」


 鶴谷は、思った。口髭や顎髭を伸ばしているっていうのもあるからか。少し、いやだいぶ自分より年上なのかな?って思ってはいたのだ。

 しかし、三十六にしては、老け方が違うから。髪も結構短く、苦労があったからか。髭や髪の毛に白髪が混じっていたから。四十後半くらいかと思いきや、意外にも三十後半くらいだった。


 高松は、タバコを尻ポケットに入ってた携帯灰皿でタバコの火を消し。鶴谷が、「えぇ……」っていう意外そうな顔をされた事に一瞬ムッと来たが。それは、置いといて


「なんで、あんたが戦闘へ?もう、結婚も考えないといけないだろ?」


「逆にあんたは?」


 それを、聞かれた時に地味に効いたことを言われたから。言いわれたので。というより、余計なお世話だ。と言わんばかりに言い返され、高松は腕を組み眉間にしわを寄せて考えてみたら


「ーーこれでしか、飯の食って生き方が分からねぇからだ。」


「なら、同じだよ。」


「ーー悲しいな、悲しくありたくない、悲しくさせない為に俺らが身を粉にして戦ったのに……なんでだろうな」


 高松が神妙な表情で、周りを見渡し。港区芝浦から台場を結ぶ吊り橋で夜景になったら、イルミネーションにもなる交通インフラは、見る影もなかった事に、思わずため息を着いてしまう。


 それは、そうとさっきまで協力してくれた。装甲兵とガンシップの影か無かったことに気づいた。


「あんたの、お仲間は?ガンシップと装甲兵の?」


「咄嗟に帰ったよ。バッテリー切れになるからってさ」


「そうかぁ…… 」


 高松は、思わず。苦笑いで、居た堪れない感覚になり。思わず、鶴谷の顔を見れない。


(いや、輩かな?人の車や上司の車を投げ飛ばして、帰るの大丈夫かな?)


 高松は、大丈夫なのか?この部隊はと心配が出た。一方、鶴谷くんはと言うと?


(あの二人絶対ゆるさん、絶対請求してやる)


 案の定、怒り心頭であった。当たり前だ、人の大事な車を投げ飛ばされた挙句、装甲兵のバッテリー切れになるからという理由で、ガンシップのハッチが開いたので。貨物室までジャンプしトンズラされたのだから。




 △▼△▼△▼△




 鶴谷が、赤羽隼人とイリーナ・ペドロヴィッチに車を壊されたことに怒り心頭で目くじらを立ててる所。

 橋の周りを安全確認してもどってきた。SABTの隊員五名と、中野碧が現状報告をしに戻ってきた。


「ーー団長、周りは特に以上はありません。」


「ーーそうか……」


「一応、遥 副団長も合流出来ます。」


「わかった。」


 鶴谷は、ゆっくりと腰を上げ。ズボンとかに着いた砂埃を両手でパッパっとはらった。

 中野碧の肩に手を当てる。


「ご苦労さん」


「いいえ、どういたしまして」


 碧は、鶴谷修也のイラついた姿勢に気まずいのか。無言のまま、遥たちと合流を測ろうとするが。このままイラついた状態で合流するのも虫の居所が悪いからか、鶴谷修也を落ち着かせようとする


「あのぉ、イライラするのもわかりますけども。結果でいえば、それで助かったじゃないですか?」


「そうだけども……」


「仮にですが、他の車だったら良かったなんて。言いませんよね?」


 鶴谷修也は、図星を突かれたように黙った。思わず、目線が泳ぎ。下唇を噛み、黙った。「でも」と言い訳をしようと思ったが、冷静になって。確かにと思ってきて言葉を飲み込む。


「あと、赤羽さん。車代を全額出してくれるんでしょ?なら、いいじゃないですか」


「それも、そうだな。不本意だが、水に流すよ」


 碧は、三人の影が見えたからか。手を大きく振り「おーい!」って呼びかける。遥とカナタと医者の荒井京子が、目の前に合流した。


「その様子だと、カウンセリングいらなそうね?」


「車を壊されて、ショックなのは事実だけどね。」


 遥は、今大事なことを思い出した。ここからの帰り方だった。それに気が付き、ハッとした。


「いや、待って。私たち、鶴谷の車に乗ってきたのよね」


 全員が声を揃えて「ーーあっ。」と言い放つ


「やべ、どうやって帰ろう?荒井さんどうやってきた?」


 荒井は、ため息着きながら。右ポケットに車のキーを取り出し。四人に見せる


 四人は、一斉に安堵し胸を撫で下ろす。


「良かったぁ、これで帰れる」


「もう、イリーナちゃん。せめて、他の車とかにして欲しかったなぁ」


 カナタさんの軽はずみな言葉で、鶴谷がいまさっき水に流していた言葉が自分に返っていき。思わず、ウグッと声が出た。


「あら、大丈夫?修くん」


「あぁ、問題ない」


 中野碧は、くすくす笑ってたが。鶴谷は赤面して「笑うな!」って言い返す。


 荒井の視線は、鶴谷修也の顔に止まった。

 頬に細いかすり傷が。乾きかけていた、血が線のように残っていて、カサブタになりかけていた。


「ほら、よく見せな?」


「いや、いいよ。ーーかすり傷だし……」


「かすり傷でも、治すのが私の仕事だからな」


 荒井は、赤い色のバッグを開き。消毒パッドを取り出し。指先に挟んで、鶴谷修也の頬の傷口にそっと触れる。


 アルコールが傷口に刺激して滲みる。

 思わず、鶴谷の眉がピクっと動く仕草が見え。


「動かない」


 子供に注意するような優しい声で伝える。


「いてぇもんは、いてぇ……」


「でも、我慢」


 傷口をアルコールで消毒し、小さなガーゼを貼り。傷口を軽く抑えた。


「ーーありがとう。」


「これが、仕事だから。」


 荒井は「はい、次」と視線を中野碧に向ける。

 中野碧は、肩をすくめ。フフッと思わずわざとらしく笑い。


「俺っすね。先生」


「そうよ、ほら。見せな?」


 中野碧は、袖口を捲り、前腕の切り傷を荒井に見せる。

 フロントガラスか、弾丸の跳弾でついた切り傷ができていた。


 荒井は、何も言わずに消毒パッドを前腕に当てると


「……ッ」

 短い息だけが漏れたが、鶴谷ほど動きはしなかった。

 傷口に触れる刺激は地味にくるため思わず、渋い表情になる。


 荒井は、ため息をつき。


「次から、変に無茶をしなきゃいいのよ。そんな、苦虫を噛み潰したような顔するくらいなら」


 気だるげな回答に、中野碧は思わず笑いそうになり。肩がヒクヒク動き、視線を横に向ける。


「こら、動かない。」


「すいません……ブフッ」


 碧が、笑うのを堪えてる間に、ガーゼを貼られ。治療が終わっていた。

「ーーはい、これでおしまい」


「ありがとうございます。」


「仕事だから、いいの」


 鶴谷は、月宮遥とカナタ・ハリスに視線を向ける。


「2人は、いいのか?」


「あぁ、大丈夫だってさ。」


「なんだよ、女の子とえぇ……お姉様から先にすりゃいいのに 」


 月宮遥は、無言で肩を一度回し

 カナタ・ハリスは、右手を頬に触れ頬杖しながら。笑顔でからかう。

「あらぁ、修くん。紳士」


「はいはい、とりあえず。そのスーツケースの中身は?」


 遥は、カナタが引きずってるスーツケースに指さすと。カナタは、表情が普段の笑顔から深刻な表情に変わる。


「ここでは、出せないから。基地で出すわ」


 カナタは、颯爽に荒井さんに車の手配をお願いする。荒井は、親指で自分の車の場所を指す

「私の車、結構歩くぞ?」


「撤収するなら構わないわ」

 荒井が車の場所まで向かうため、レインボーブリッジの歩道を歩き、荒井のBMWへ向かった。黒い車は静かに待っていた。鍵が開く音が響き、順に乗り込む。

 エンジンが低くかかり、車は基地へと滑り出した。




 △▼△▼△▼△




 ーー撤収が終わり、荒井京子の車で基地へ向かう。

 戦火に巻き込まれ、廃車やアスファルトがボロボロな通路が遠のいていく。


 そこから、通っていく帰り道は静かだった。


 救助のサイレンも、泣き声も、もう遠い。

 誰も言わなかったが、全員が分かっていた。

 巻き込まれた人たちのことをーー。


 荒井京子の車が、LAS基地のガレージの中へ駐車し。



 ガレージで、待ってたのが。


 気まずそうにしてた。赤羽隼人とイリーナ・ペドロヴィッチの二人と、新人の双葉陽子と片倉啓介と犬神健人と稲荷の四人が整列して待っていた。


 鶴谷修也が、降りた瞬間。

 イリーナは、罰が悪そうな顔で鶴谷の方へ向かう。

 謝罪をしようと思って話しかけようとしたが、鶴谷がイリーナが謝罪する前に軽く頭を下げた。


「すまなかった、わざわざ助けてもらったのに。」


「え?あぁ……いや、私こそ……」


 イリーナは、まさかの怒ってなかった事に拍子抜けした。赤羽は、ホッと胸をなでおろし。ニヤァと鶴谷の肩をポンっと叩き


「ーーいやぁ、良かったわ。うん、それで……車代なんだけども?」


「いや、払えよ?」


「ですよね〜」


 赤羽隼人は、トホホと自嘲じちょうし視線が床におちる。


 カナタは、車のトランクからスーツケースを取り出し。スーツケースを横にする


「おほん、レディースエンドジェントルメーン、」


 全員は、カナタの方へ視線を向ける。

 何が、始まるの?と疑問になったのもつかの間。

 カナタは、閉めていた。スーツケースのチャックを開く

「わたしが、誰かを誘いたいって言ったじゃない?その一人をこうやって呼んだのよ」


 全員が、思わず「はぁ?」って声が重なる


 スーツケースの蓋ゆっくりと開く


 中から、猫耳パーカーを着た少女がひょい、

 と起き上がる。


「そう、この子こそが。AGNS《アグネス》を作った人……その名も、アグリちゃーん!!」


 黄色の猫耳パーカーのフードを被った。

 目付きが虚ろで今にでも、眠そうな視線を彼らを見つめる。


 カナタが、説明した。AGNSのサイトを作ったエンジニアこそが。猫耳パーカーを着た、ミステリアスな少女

 アグリ

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