資料04|インタビュー 自治会館

日時:2025年7月19日 13:00

場所:███県██市 深久良みくら自治会館

対象:加藤かとう雅子まさこはら健一けんいち(周辺住民)


加藤雅子:

 あら! ここに若い人が来るなんて珍しいわねえ。うん? なんて? ああ、私の? 良いわよ、何が聞きたいの?


 ああ、あのほこらね。昔からあるわねえ。私が子供の頃からあるわよ。私? 今年72歳。あら、ありがとう。お菓子食べる? ここによく来る原さんが、昨日持ってきてくれたのよ。どうぞどうぞ。いっぱいあるんだから遠慮なく食べちゃってちょうだい。


 祠ねえ……そうねえ、小さい頃は、あのあたりで遊んでいたらよく怒られたのよ。まあでも、そりゃあそうよね、遊んでいるうちに祠を壊すなんて罰当たりなことしたら良くないもの。祠を壊したら祟られるぞって注意されたものよ。


 うーん、何を祀ってるのかはよく知らないのよ。でも、女性でしょう。だって、祠の横のところに「ふみ」って書いてあったもの。だから、「ふみ」っていう女の人のための祠なんでしょうって、子供のときはみんな言ってたのよ。それに、何だったかしら……ええと、「ふみの意思が宿っている」だか「刻まれてる」だか、そんなこと言ってた気がするわ。


 ああ、原さん! こっちいらっしゃい。あ、ねえ、あの祠って、「ふみ」って人の祠よね?



原健一:

 うん? こちらの方は? ほう、ああ、私は原と申します。だいたいここで麻雀やったり、まあ、暇を潰しとるもんですわ。


 で、なんだって? ああ、祠? そうだねえ、私も大して詳しくはないけれど、「ふみ」って人の祠なのかねえって話は昔したことがあるねえ。ただなんの立て看板も説明もないから、詳しいことは知らんなあ。昔っからあるし、もう日常の景色の一部だから、そんな細かいことを気にしたこともないしな。


 そういえば、前にあのあたりで事件か何かなかったか?



加藤雅子:

 ああ、あったわねえ。可哀想に、確か幼い女の子が亡くなったのよ。この辺は静かな住宅街で、小学校も近いし、事件らしい事件なんて起きたことなかったから、びっくりしちゃったわよ。あんな騒ぎ、後にも先にもあれくらいじゃないかしら。



原健一:

 ああ、そうだったそうだった。10年? いやもっと前か? そう、女の子があの祠の前で亡くなっていて、警察が大勢来て大騒ぎだった。殺されたっていってねえ。孫が近くの幼稚園に通っていたからえらく心配したもんだったよ。



加藤雅子:

 ああそうだったの、それは心配よねえ。そうだったわ、まさかあんなところで子供が殺されるだなんて考えたことなかったもの。犯人が捕まるまで少し時間があったのもあって、皆でおっかないわって話したのよ。



原健一:

 結局犯人は捕まったんだったかな?



加藤雅子:

 捕まったはずよ? さすがに細かいところは覚えてないけど……。


 え? ああ、そうだった、祠の話だったわね。ごめんなさいね。そうよ、その祠の前で女の子が死んでたの。で、祠も壊れてて。だから何かバチがあったのか、それとも怨霊でも解き放ったのかって、変な話もあったわねえ。


 祠の戸が外れかけてて、直してあげましょうって話になってね、費用は意外とそこまで高くなかったから自治会費でまかなえたのよ。そこらへんは会長さん……奥田おくださんって人がわかると思うわ。とりまとめていたのは奥田さんだったから。ただ、直そうにもその事件のせいで、しばらく祠に近寄れなくてね。もし祠にいるのが「ふみ」さんなら、悪いことをしちゃったでしょう。お家の扉を壊されて、しばらく放置されたようなもんでしょ。



原健一:

 あの祠が壊れたなんて話は、後にも先にもそのときくらいだなあ。


 ああ、あと奥田の爺さんに話を聞きたいんだったら、ここに来ても無駄だぞ。最近施設に入ったそうだから。



加藤雅子:

 あら、そうなの?



原健一:

 まああいつももう爺さんだからなあ。どうも体調を崩してから各段に体力が落ちたらしくて。息子の勧めで施設に入ることになったんだと。ほら、だから会長も最近変わったんだよ。回覧板見なかったか?



加藤雅子:

 そうだったの? いやねえ、見逃してたわ。


 ……ああ、私たちばっかりでおしゃべりしちゃってごめんなさいね。こんな話でお力になれたかしら?


 地元はこの辺なの? ここに若い人が来ることは少なくてね、こんなジジババばっかりよ。もしよければまた着てちょうだいね。お茶菓子くらいならあるからね。

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