『俺達のグレートなキャンプ77 地球侵略に来た宇宙人に餅つき体験を』

海山純平

第77話 地球侵略に来た宇宙人に餅つき体験を

俺達のグレートなキャンプ77 地球侵略に来た宇宙人に餅つき体験を


夕暮れ時の高原キャンプ場。テントが点在する中、一際賑やかな一角がある。石川のテントサイトだ。

「よーし!今回のグレートキャンプのメインイベントを発表するぞー!」

石川が両手を高々と上げて叫ぶ。焚き火の前に座る千葉が目をキラキラと輝かせる。富山は嫌な予感に眉をひそめている。

「今回は何ですか石川さん!楽しみです!」

千葉が身を乗り出す。

「ふっふっふ...今回は『地球侵略に来た宇宙人に餅つき体験を』だ!」

静寂。

「...は?」

富山の額に青筋が浮かぶ。

「宇宙人?餅つき?」

千葉が首をかしげる。

「そうだ!考えてもみろ、もし宇宙人が地球侵略に来たとして、日本の文化を体験させれば心を開いてくれるかもしれないだろう?その第一歩が餅つきなんだよ!」

石川が興奮気味に説明する。隣のテントサイトの家族連れがこちらを見ている。

「ちょっと待って石川、宇宙人っていったい...」

富山が頭を抱える。

「簡単さ!俺たちが宇宙人になるんだ!」

石川がテントの中からキラキラした銀色の全身タイツを取り出す。

「うわあああああ!」

富山が悲鳴を上げる。

「すげー!本格的ですね!」

千葉が拍手する。

隣のテントの父親が「あそこの人たち、また変なことしてるよ」と家族にささやく。

「まず俺たちが宇宙人に扮装して、他のキャンパーに『地球を侵略しに来た』と宣言する。そして餅つきを体験させてもらうんだ!」

「無理無理無理!絶対迷惑かけるって!」

富山が手をブンブン振る。

「大丈夫だって富山!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!」

千葉が富山の肩を叩く。

「千葉君まで...」

富山がガックリと肩を落とす。

石川がテントの奥から臼と杵、そして餅米を取り出し始める。

「ちゃんと準備してあるぞ!」

「準備って...いつの間に!」

富山が驚愕する。

「キャンプ場に来る途中のホームセンターで調達した!グレートキャンプには万全の準備が必要だからな!」

隣のテントの母親が「お父さん、あの人たち臼まで持ってきてるわよ」と不安そうにつぶやく。

「よーし!まずは俺たちが着替えよう!」

石川が銀色のタイツを振り回す。富山が後ずさりする。

「ちょっと、みんなが見てるから声小さくして!」

キャンプ場内の他のキャンパーたちがチラチラとこちらを見ている。子供たちが「あのお兄さんたち何してるの?」と親に聞いている。

「問題ない!宇宙人は堂々としているものだ!」

石川が胸を張る。富山が顔を手で覆う。

「石川さん、僕も銀色のやつ着ます!」

千葉が手を挙げる。

「よし!その意気だ千葉!」

二人がハイタッチする。富山が「なんで私だけ常識人なの...」とため息をつく。

しばらくして、石川と千葉が銀色の全身タイツに身を包んで現れる。頭には手作りのアンテナまで付けている。

「どうだ!完璧な宇宙人だろう!」

石川がポーズを決める。通りかかったキャンパーの女性が「きゃー!」と小さく悲鳴を上げて駆け去る。

「あ、お客さん逃げちゃった...」

千葉が申し訳なさそうに言う。

「富山も着替えろよ!」

「絶対嫌!私は地球人役で十分です!」

富山が両手でバツマークを作る。

「まあいいや、地球人代表として同行してくれ!」

石川が臼を担ぎ上げる。千葉が杵と餅米の袋を抱える。

「行くぞー!地球侵略と餅つき体験の旅に出発だ!」

「ちょっと待って、どこに行くつもりよ!」

富山が慌てて後を追う。

三人がキャンプ場内を歩き始める。すれ違う人々が振り返って見ている。子供が「宇宙人だ!」と指差して騒ぐ。

「まずはあそこの家族連れに声をかけてみよう!」

石川が近くでバーベキューをしている家族を指差す。

「ダメダメダメ!」

富山が石川の腕を引っ張る。

「大丈夫ですよ富山さん!僕たちは平和な宇宙人ですから!」

千葉がニコニコしながら言う。

家族連れの父親が警戒した顔でこちらを見ている。

「こんにちはー!我々は遠い宇宙から地球侵略に...」

「石川!」

富山が石川の口を手で塞ぐ。

家族連れが固まっている。

「あ、あの...すみません、仮装してキャンプを楽しんでいるだけなので...」

富山が愛想笑いで説明する。

「そ、そうですか...」

父親が苦笑いを浮かべる。

「でも!餅つき体験はいかがですか!」

千葉が杵を振り上げる。

「ちば君まで...」

富山が頭を抱える。

「餅つき?」

家族の子供が興味深そうに近づいてくる。

「そうだ!この臼と杵で本格的な餅つきができるんだぞ!」

石川が熱弁する。

「やりたい!やりたい!」

子供たちが手を叩いて喜ぶ。

「でも...」

母親が困惑している。

「大丈夫です!我々宇宙人は餅つきのプロフェッショナルなのです!」

千葉が胸を張る。

富山が「プロフェッショナル?」と呟く。

「実際、宇宙では餅つきが平和外交の基本なんですよ!」

石川が真顔で説明する。

「そうなんですか?」

父親が半信半疑で聞く。

「もちろんです!宇宙では『餅つきを共にした者は永遠の友』という格言があるくらいですから!」

千葉が適当なことを言う。

「聞いたことないけど...」

富山が小声でツッコむ。

「じゃあ、ちょっとだけ...」

父親が折れる。

「やったー!」

子供たちが歓声を上げる。

石川と千葉が手際よく臼をセットし、富山が仕方なく手伝う。

「まず餅米を蒸すところから始めましょう!」

石川がポータブルコンロに蒸し器をセットする。

「本格的ですね...」

母親が感心する。

蒸し器から湯気が立ち上る中、石川が宇宙人らしく怪しい踊りを始める。

「これは宇宙の餅つき儀式です!」

「儀式?」

子供たちが目を丸くする。

千葉も一緒に踊り始める。富山が「恥ずかしい...」と顔を赤くする。

他のキャンパーたちが次々と集まってくる。

「何やってるんですか?」

「宇宙人?」

「餅つき?」

どんどん人が集まってきて、気づけば二十人ほどの観客ができている。

「皆さん!我々は平和な宇宙人です!地球侵略に来ましたが、餅つきの素晴らしさを知って考えを改めることにしました!」

石川が大声で宣言する。

「そうです!みんなで餅つきを楽しみましょう!」

千葉が杵を振り回す。

「ちょっと危ないから杵振り回さないで!」

富山が注意する。

「餅米が蒸し上がりました!」

石川が蒸し器から熱々の餅米を臼に移す。湯気がもくもくと立ち上る。

「おお〜」

観客から感嘆の声が上がる。

「それでは宇宙式餅つきの始まりです!」

石川が杵を高く振り上げる。

「エイヤー!」

ドスン!

杵が餅米に叩きつけられる。

「すげー!」

子供たちが大興奮。

「私もやりたい!」

「僕も!」

子供たちが次々と手を挙げる。

「もちろんです!宇宙では『餅つきは皆でやるもの』という教えがありますから!」

千葉が嬉しそうに答える。

「またそんな教え作って...」

富山が苦笑い。

子供たちが順番に杵を持って餅つきを体験する。大人たちも「私もやってみたい」と言い出す。

「きゃー!重い!」

女の子が杵を持ち上げようとしてよろける。

「大丈夫!宇宙人がサポートします!」

石川が後ろから支える。

「僕も手伝います!」

千葉が反対側から支える。

餅がだんだん滑らかになってくる。

「おお!本当にお餅になってる!」

父親が驚く。

「当然です!我々は宇宙一の餅つき技術を持っていますから!」

石川が得意気に胸を張る。

「技術って...いつ習得したの?」

富山が呆れる。

「先週ユーチューブで覚えた!」

石川がこっそり富山に耳打ちする。

「先週て...」

富山がズッコける。

つき上がった餅をちぎって、みんなで分け合う。

「あんこときなこ、どちらがお好みですか?」

富山が普通にお茶を入れながら聞く。

「あんこ!」

「きなこ!」

子供たちが元気よく答える。

「我々宇宙人は地球の『あんこ』という食べ物に感動しています!」

千葉が真面目な顔で言う。

「宇宙にはあんこないんですか?」

子供が純粋に聞く。

「ないんです!だから地球侵略をやめて、あんこ工場で働くことにしました!」

石川が即興で答える。

「えー!」

子供たちが笑う。

大人たちも笑顔になっている。

「美味しい!」

「本当に美味しいお餅ですね!」

みんなが餅を頬張りながら感想を言い合う。

「ありがとうございました!とても楽しかったです!」

最初の家族の母親がお礼を言う。

「こちらこそ!地球の皆さんに餅つきを教えてもらって感謝しています!」

石川がお辞儀する。

「教えてもらってって、教えたのあなたたちでしょ...」

富山がツッコむ。

「じゃあ我々はこれで母星に帰ります!」

千葉が手を振る。

「またキャンプ場で会いましょう!」

子供たちが手を振り返す。

観客が拍手しながら散っていく。

三人が片付けを始める。

「いやー、今回も大成功だったな!」

石川が満足そうに臼を洗っている。

「確かに楽しかったですね!みんな喜んでくれて!」

千葉が杵を拭いている。

「まあ...結果的には良かったけど...」

富山がため息をつきながらも、少し笑顔になっている。

「富山も楽しかっただろ?」

石川がニヤリと笑う。

「そ、そんなことないもん!」

富山が顔を赤くして否定する。

「でも最後の方、普通にお茶出しして接客してたじゃん」

千葉が指摘する。

「それは...みんなが困ってたから仕方なく...」

富山がモジモジする。

キャンプ場の管理人がやってくる。

「お疲れ様でした!今日はありがとうございました!」

「え?」

三人が驚く。

「実は見てたんですよ。最初は『また変な人たちが来た』と思ったんですが、最終的にキャンプ場全体が盛り上がって、みんな楽しそうでした」

管理人が笑顔で説明する。

「他のお客さんからも『楽しかった』『また来てほしい』という声をいただいています」

「そうなんですか!」

石川が嬉しそうに言う。

「ぜひまた来てください。今度は何をやるんですか?」

管理人が興味深そうに聞く。

「次回は『タイムトラベラーに炊き込みご飯体験を』を企画中です!」

石川が即答する。

「またそんな...」

富山が頭を抱える。

「面白そうですね!楽しみにしています!」

管理人が笑いながら去っていく。

夜も更けて、焚き火を囲む三人。

「今日は本当に楽しかったなあ」

千葉が空を見上げる。

「ああ、みんなの笑顔が見れて良かった」

石川が満足そうにつぶやく。

「確かに...子供たちも喜んでたし...」

富山も認める。

「やっぱり『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる』ですね!」

千葉が石川と富山を見る。

「そうだな!『奇抜でグレートなキャンプ』万歳!」

石川が拳を上げる。

「まあ...たまにはいいかもね...」

富山が小さく笑う。

焚き火が静かに燃えている。遠くから他のキャンパーたちの笑い声が聞こえてくる。

「そういえば石川さん、次回の『タイムトラベラーに炊き込みご飯体験を』って具体的にはどうするんですか?」

千葉が聞く。

「それはな...」

石川が身を乗り出す。

「聞きたくない!」

富山が耳を塞ぐ。

「俺たちが江戸時代の農民に扮装して...」

「やっぱり聞きたくなかった!」

富山が立ち上がって逃げ出そうとする。

「待てよ富山!話はまだ終わってない!」

石川が富山を追いかける。

「僕も聞きたいです!」

千葉も一緒に追いかける。

キャンプ場に三人の楽しそうな声が響く。明日もまた、どこかで新しいグレートなキャンプが始まることだろう。

星空の下、消えかけた焚き火の横に、洗い終わった臼と杵が静かに置かれている。そして少し離れた場所に、脱ぎ捨てられた銀色の宇宙人スーツが月明かりに照らされて、まるで本物の宇宙人が脱皮したかのように不思議に光っていた。

「俺達のグレートなキャンプ」はまだまだ続く。

【終】

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