第2話 神父

「なぁカイ知ってるか?明日ウチに神父様が来るんだってよ!」


「ああそれ?確か村長のところに手紙が来て、『この村に若き才能が眠ると神託があった。その確認をしたい』って……」


「わ、私たち離れ離れになっちゃうのかな……」


「大丈夫よ!私たち四人は『えーきゅーにふめつ』だわ!カイを除いて、私たちが弱いわけないもの!」


「ああ!?なんだとこの野郎!お前なんて本気を出せば簡単にぶっ倒せるんだよぉ!」


「言ったわね!?じゃあ今から決闘よ!表に出なさい!!」


「あのカイくん、流石に勝ち目がないんじゃ……」


結果、ボロ負けです。知ってました。


何でかは知らないんだけど、今世の俺って謎に負けず嫌いなんだよなぁ。どんだけ打ちのめされてもボロボロにされても心折られて『もうやめたい』って思っても、いざコイツらと関わると『やってやらぁ!』と謎の勇気が湧いてくる。まぁボコされるだけなんだけどね。


俺に才能が無いことはもう分かってる。恐らく、俺が『モブ』であることも。三人が莫大な才能やらなにやらを持っているのにも関わらず、一向に俺の無双パートが来ないのはおかしいと思ってたんだ……。最近じゃ、見栄の為に『英雄になる!』って叫んでるだけで、実際になろうって気が起きないしなぁ……。


俺を置いてどうか大きくなってくれよ少年少女。ただしそれはそれとして俺を煽ってくるのは許せねぇ!


「英雄、か……なれるのかなぁ……」


きっと、三人が居なくなることを村の人たちは嘆き悲しみ、その果てに笑顔で送り出すだろう。それと同時に、一人残された俺を見て『まぁ仕方ないさ』なんて慰めてくるに違いない。


俺の前世が訴えてくる。『俺は英雄じゃない』と。分かってる。なんとなくだけど、最初から分かってたんだ、無双とか最強とかが俺とは釣り合わない言葉だって。


俺は村に残って何をするだろう。親父を継いで農業をやるのは当然として、アイツらに鍛えられたこの身体能力を使って魔物を狩って村を守り、肉を持ってきて村に貢献する……うん、なんかしっくりくる。きっと、そのぐらいが俺の身の丈に合った将来なんだろう。


「なーに不安がってんだよカイ!お前ならきっと大丈夫だよ!なぁお前ら!?」


「ま、まぁ?クソ雑魚のカイにも多少良いところが無いとは言い切れないからね!お、応援……してるわよ……」


「そうだよ!ここまで頑張ってきたんだから、諦めるなんて勿体ないよ!」


「あ、ありがと……」


俺はどこか気恥ずかしくなって、三人と目を合わせることが出来なかった。それに、三人に大丈夫と言われると本当に大丈夫な気がしてきてしまう。


アーク。レイラ。フローラ。この三人は間違いなく英雄の器だ。この世界の常識なんてこれっぽっちも理解してはいないけど、平気で何本も木々を薙ぎ倒すのが一般人だとは思えない。俺なんて全集中して一本切り倒すのがやっとなのに……。


彼らは前世の知識風に言うならば、『主人公』という奴だ。王都へ行って、何かすげーやつと戦って、国とか世界とか救って、皆からちやほやされるに違いない。


ま、それも明日になんないとわかんないけどさ。


「いよっし!明日が別れの日になるかもしれないんだし、皆で全力で盛り上がろう!」


「「「おー!」」」


それから、俺達は全員が寝落ちするまで楽しく今までのことを語り合った。



「どうも遠路はるばるお疲れ様で御座います、神父様。私はここの村長をやらせてもらっているものです」


「これはご丁寧に。私はモーリス、水の女神様より託宣を受けてここへ参りました」


俺達は、例の神父様と村長が会談するのを木陰に隠れて覗き込んでいた。発案者はアーク。『どういう人か気になるよなぁ!?』との一声により満場一致で可決された。珍しく我らが良心のフローラも賛成で少し意外だった。


「モーリス殿、早速『若き才能』とやらを確認いたしますか?」


「いえいえ、念のためにと遠征を多めに見積もっておりましてね?こう見えて何かと神殿勤めは疲れるのでね、これを機に一度羽でも伸ばそうかと……」


「モーリス殿、お戯れはその辺で」


「おっと失礼。ははっ、村長殿も今のは他言無用でお願いいたします」


「勿論で御座います。とは言っても、王都に届きうる口などここにはありませんがな!」


神父様とそれを護衛する神殿騎士、彼らと村長の会談は実に穏やかなものであった。もっとこう高圧的な奴らが来ることを想像していたのだが、胡散臭さもないし普通にいい人そうに見える。


それに、「ことを急いではなんとやらと言いますから」と、『若き才能』を見るのは明日ということになっていた。これには俺も驚きだ。


「そっかー明日かー。ちょっと拍子抜けだなー」


「な!これでも色々覚悟してたのにな!」


「んねー」


「私は、ちょっと安心したかも……」


俺達が一言呟いた、その瞬間だった。






「おや、だったら今から神父様に会いに行くかい?」






「「「「_____ッ!!??」」」」


「おっ、いい反応」


全員が一斉に振り返った。そこには、他の神殿騎士とは違い兜をかぶっていない神殿騎士が一人立っていた。ここで問題なのは、俺は兎も角、他三人がこの神殿騎士の気配を全く知覚できなかったことにある。


これでも俺達は山暮らしで、しかもそこらの獣など容易く屠れてしまうぐらいに強い。それは、周囲の生物の気配を読む能力も含まれる。勿論熊を素手でかつ一瞬で倒せるような化け物どもとは違い俺は武器が無いと熊一頭に渡りあうことも出来ず何分も掛かってしまうので仕方のない面はあるのだが、それにしたって予想外だ。


「ごめんごめん、僕の名前はスケイル。スケイル・ローラント。よろしくね、『若き才能』たち」


そう言って、スケイルは俺達に握手を差し出したのだった。

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