EP.25 目的の一部

 あの白い空間……バルトンが拘束されていたあの部屋から出ると俺の物語は急激に加速する。


 ハンソン・ドロイド社の兵舎休憩室でミランダ・ハンと出くわす。バルトンから託された情報端末……誰も開ける事が出来ないはずだが……。

『エイジさん!警戒を!』

 銃を向けると同時に彼女も小さくレトロな銃を向ける。グロック43……この時代においては弾こそ規格は同じだがその本体は古い。

「私はここの整備兵……分かりますね?」

 つまり、ここで彼女が騒いで人が来れば疑われるのは俺だろう……そして彼女がスパイだと言ったところで皆んな認めるだろうか……。

「まずは話をしましょう。私は月政府のスパイです、私の目的は地球政府の軍力低下とアタリを引く事……。」

「アタリ?」

「そう、貴方の乗る機体……AD.E-1は特別なOSを搭載している。それを回収し月まで届ける一助を私はしています。」

「回収してどうする?」

「私は一階の兵士に過ぎない……回収した所でどうなるか私には関係ない。」

「では、何故それを開けられる?」

「質問ばかりしないで、今度は私の番。貴方はバルトンに認められた男、やるべき事がある。」

 すると一つのメモリを渡される。

「これは強化人間のプランデータが入ってる、現代の第一世代から今の第三世代までの内容よ。これに目を通したら返事を頂戴。」

 今度は指を天井の監視カメラに指す。カメラをよく見ると機能していない。

「じゃあね。」

 彼女が部屋から出るとカメラが起動する、今までの行動は全て撮られていない。

『エイジさん……。』

「まずは中を開こう。部屋に戻ってある程度整理させる必要がある。」

 

 自分の部屋に戻りパソコンを起動する、周りに誰もいない事を確認しローラに盗聴されてないか調べてもらう。ヘッドホンをして音漏れをさせない。

 メモリを差し込むとファイルが出てくる、これに何が入っているのだろうか……。

 

 まず目に入ったのはそれぞれの強化人間の特徴についてだ、まず第一世代はガイア・コネクト社が計画したものでガイアコネクト社が基礎を作り主な目的はコンピュターと人の融合である。その為、人の脳に配線を組み込み手動での操作、音声操作をしなくても脳が勝手にコンピューターを制御できるかの実験的な素材として扱われたものでこの時は戦争の道具にはなっていないとのことだ。

 次に第二世代、バルトン・シミラスのように手足を切断し義手義足に変える強化人間である。このコンセプトは最初の第一世代から逸脱しており機体と人間の融合を目指したシステムであり第一世代の内容を流用したものだ。ただこの時人間の神経をコンピュータに接続する手術が進歩してなく試験段階であったため32人中5人しか成功しなかった。

 そして第三世代、ここからは体に対してどのように負荷に耐えるかが吟味された世代になる。第二世代と同じくうなじに差し込み口を作るが第二世代と比べ成功率は上がったものの適応しにくくなった事が問題視される。体は義手や義足に頼らず『シンクロ・リンク・システム』が発動してる際自動的に体の筋肉が活性化され強い衝撃に耐えらるようになるが、超負荷がかかるとブラックアウトを起こすため良くも悪くも器用貧乏な一面が見られる。また筋肉痛も酷くパイロットを苦しめる。

 

 ここまで見てきてがどれも知っている情報だ、とはいえ第一世代の内容は初耳だ。ガイア・コネクト社の技術をA.D.E.Bが流用した内容になっている。全てはガイア・コネクト社が発端という事を強調している文だ。

「ローラはガイア・コネクト社をどう思う?」

『私の生みの親としか言いようがありません。』

「そうか……。」

 もしかしたら、ローラはこれらの強化人間の実験の延長線上に存在しているのかもしれない。だからといって彼女を見る目は変わらない。

 

 次に動画が存在する、これはなんだ……。

 それをクリックするとまず最初に最初の五人が出てくる、後ろには5機の黒いADでルナティック・ブラックナイツの部隊なのが分かる。その中に一人既視感のある顔があった。

 それはバルトン本人であり若かった。

 動画から音声が流れてくる。

『こちらはAD開発イプシロン支部、通称A.D.E.Bがお送りします。我々が開発しましたナイトシリーズの最初の作品である第二世代型強化人間は政府に多大な貢献をしています。地球政府の艦隊を退き、AD部隊を壊滅させました。月政府の一般兵士と比べ強化人間は俊敏に動き従来のガイア・システムの常識を覆しました。現在新たに強化人間開発のプランに従事していき第三世代を作った暁には地球政府は確実な敗北を味わう事でしょう。どうか、我々に多大な寄付をお願い申し上げます。続いてはネスト3進攻になります、国民の皆様は吉報をお待ちください。』

 話の内容を察するにS.E146の広告、二年前か……。


 動画がいくつか存在する、ほとんどがA.D.E.Bの広告だ。

 そんな中月政府が放送した動画を発見した。

『我々月の人間は地球政府にぞんざいな扱いを多々受けてきた!だが、決起の時だ!ネスト3を掌握しA.D.E.Bが新たに第三世代型強化人間の開発に成功した。この成功率の高い手術を兵士に普及させ圧倒的武力で地球政府を打倒する!全てはネスト3から排出された宇宙ゴミからこの戦いは始まった!そのゴミを我々の税を使い処理させる!挙句、ムーン・ガイア・コネクト・システムのメンテナンスは全て我々持ちであるに関わらずガイア・システム自体の使用料に入る税も高い!今現在ガイア・コネクト社の製品サービスの一切は富裕層しか扱えない、65%の税率をこの発展途上の星の国民に貸すというのだ!火星以外の国民にガイア・コネクト社のサービス付与を義務付けらているのは我々月住民から金を吸い上げるという目的が明らかなのだ!今ここに武力を持って解決し今現在ムーンシティイータに集中している貧困民を助ける!世界は平等であるべきだ!』

 この演説の後国民が躍起していた。プロパガンダというやつか、これが……。

 確かネスト3進攻後はガイア・コネクト社の株価は急激に下落したに思われたが税率を下げただけなのでガイア・コネクト社には自社のサービスをより良く使ってもらう良い機会だ、なので株価は少しだけ上がった。ネストという居住区を一つ失っても国民はガイア・システムのサービスを頼る他ない。

 

 動画やら資料はあらかた見た、これらを見てミランダと組む必要はないはずだ、彼女の正体も分からない。このままノア艦長に報告するのが吉か。

『エイジさん、そのファイルは?』

「ん?こんなのあったか?」

 ただ単に気づかなかっただけか、とりあえず開いてみるとまた資料と動画やらだ。

 左から順に見ていくとバルトン・シミラスが映っている。

『この動画は私の……いや、私達の目的を後者へ伝えるための動画だ。ネスト3の侵攻は無事に成功したが、仲間のライアンが敵に捕まり情報を露呈した。我々の存在が明るみになるだろう。何より私たち第二世代強化人間は短命である。適性が低い人間は突然として死ぬ。私も例外ではない。現在生きているのは私と『カイラ・マウ』そしてフレイクスへ移動した『サム・リード』の3名だ。カイラも体調が悪くなってきている。サムは健在だが戻って来る気はないだろう。現在第二世代型強化人間で戦うのは私とサムだけだ。ルナティック・ブラックナイツは強化人間の廃止を求め戦う組織だが……』

 映像はここまでで止まっている。

 バルトンに託されたのは強化人間の廃止……だが話には続きがある。詳しい事はミランダに聞く他ないか。

 ミランダに会う約束をメールで送る、この話の続きを俺は聞きたい。



 ——一方、フレイクスの本拠地『リサイクル・マーセナリーズ』では、そのボスと主力である専属傭兵の姿があった。

 ボスの名は『ギムナー・ハルフェ』気の強い女性であり利益のためなら手段は選ばない。

「おい!シモンはどこだ!」

「それが……機体をオーバーホールするとか……」

 整備兵は困った顔で話をする。

「バカか!ここは月とネスト3の中間とはいえ、ネスト2からの攻撃もくるかもしれないだよ!今は月と契約してるんだ、応援要請には直ぐに答えるんだよ!」

「良いじゃねーか、別に俺は土木用の機体でも一蹴できる。だから、俺の『タクティカルラッド』のアセンブルを邪魔するな!」

 シモンは顔を出して抗議し始める。

「くそ……いい気になりやがって……。」

 ギムナーは唇を噛み締める。

「お困りですか、ボス?」

 続いて現れたのは『バイアー・エイト』この専属AD部隊ラッドマーカーズのリーダーであり頭が切れる。だが、ナルシストなのが鼻に付く。

「ああ、バイアーか。今しがたネスト2から不審な動きがあったらしい。呼び出しを喰らうかもしれないから、準備してくれ。」

「了解です。私に任せてくれれば全て上手く行きますよ。」

 彼は一番機である『ブレインラッド』まで歩みを進める。

「もう一機用意しろ、『リリン・シェル』はどうした?」

「部屋から出てきません……。」

「あの、ヤリマンが……。」

 彼女は4番機である『ポイントラッド』のパイロット。その名の通りポイントマンとして先行して戦う事が多い。とにかく、男漁りが酷い……ここの整備兵が何人食われたか……私の知ったことではないが……股が緩い女に違いはない。

「サム・リードは準備できてます。既にコクピットに……。」

「そうか……クセのある連中でも彼とバイアーは融通が利くな……特殊ではあるが……。」

 サムは二番機である『スナイプラッド』のコクピットで自慰行為に勤しむ、彼の性癖は機械姦だった。

「アア……良いですよぉ……手術を経て二年……私は変わってしまった……彼らに変態にされてからこの金属の温もりでヌケることしか許されない……ウッ……。」

 

「うわ……気持ちわる……。」

「マジでもう、コクピットに入って整備とかしたくないぞ。」

 整備兵のほとんどは彼の機体コクピットには近づきたくはなかった。

 

「はぁ……戦力は申し分ないんだがね……なんでこんな奴らばかりなんだ……ウチの傭兵部隊は……。」

 ギムナーは頭を抱え始めた……。

 

 EP.26へ続く……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る