EP.23 私が信じた動機。
約束の時間だ……彼と再び戦う事になるのは何日振りだろう……ネスト1での戦闘以来彼の戦い方は分析してきた。それ以来いつの間にかだが俺は彼を特別な敵として見ていたのは言うまでも無い。
目的の場所を辿ると周りには味方ADの残骸が多く転がっていた、全てバルトン・シミラスがやったのだろう。建物の殆どは倒壊しており火の海と化している、そんな中で黒い機体が一機大人しく立っていた。
『待っていたぞ、貴様を。』
バルトンは両腰に付いたヒートナタを取り出し準備を始める。
「一つ聞きたい。俺に何を託そうとしている。」
『言ったはずだ、私を倒してからだと。』
耀き星の時代……S.E……Steller Eraという新しい世紀に変わったがそれでも尚争いは無くならない、宇宙ゴミから始まった戦争はなんの意味があって戦っているのか。それを少なくとも俺は知りたい……。
「なら、お前の託したい証拠を俺は力尽くで取るまでだ。」
『それでこそ、私の見込んだ男だ。』
これも運命か、ネスト3奪還時に対峙したのもこの男だ。彼は知らないだろうが、俺達はずっと前に会っているんだ。
左手に帯電ナイフ、右手に速射砲のシンプルな装備。バルトンの高機動を考えればこっちも動きやすいようにするのがマストだろう。
「ローラ、全ての補助システムにアクセスするな。お前はただ見ていろ。」
『はい。』
その時、ニューラル・インターフェイス・システムの負荷が大きく掛かる。
なんだこれは……いつもと違う……頭痛がする……。
だが、これで彼と対等な立場になったと言っても過言ではない。
フィールドは案外開けている、倒壊した建物を利用して追い詰めるか……だが、バルトンは近接武器しか持っていない。飛び道具がある分こちらが有利だろうか……。
『では、行くぞ!』
初手はバルトンからの攻撃だった、足のタイヤを滑らせてこちらに急接近してくる。
速射砲で威嚇し進行に水を刺してみる。
『お見通しだぞ!』
右手からワイヤーが発射される、この時を待っていた。
そのワイヤーを掴み引っ張ると、バルトンは機体を小ジャンプし浮かす。引力と共に右前足を突き出した。
「しまった。」
バルトンはキックをする瞬間タイヤを回し始める。
その反動を生かし今度は左足で回し蹴りのようなアクロバティックな動きをする、旧型のADでこんな芸当が出来るのはバルトンしかいない。
その蹴りはコクピットと頭に入り、体制こそ崩すが倒れる事はなかった。
左手の帯電ナイフを突き出すと右手のナタを振り下ろしいなされてしまう。
『そんなもので私は倒せんぞ!』
左手のナタが襲うコクピットに突き刺す気だ、体制は前に若干屈んでいる感じだ。
ナタはコクピットの右横に突き刺ささるが深くはない、俺自身に怪我もない。
「食らえ!」
速射砲をバルトンの機体の首に捩じ込もうとすると距離を取られてしまう。
ナタを手放したようで刺さったままだ。熱がじわじわと浸透する、右に謎の圧迫感というべきだろうか。何かを感じる。
『どうした!押されているぞ!もっと来い!』
脳に何かがフラッシュバックするがそれどころではない、死んでいった先輩方の幻影が脳裏をよぎる。最後に逃してくれたあの先輩の影がちらつく。『さぁ、来い!月人間!俺を楽しませてくれ!』あの言葉を最後にただひたすら逃げたあの頃とは違う。
『エイジさん!メンタルに異常が……PTSDの初期症状が……』
「うるさい!俺は……」
だめだ、呼吸がおかしい。いよいよ殺されると自覚させてくる。視界も変な影が多く見える、薬は服用し続けた……問題ないと信じたい……。
少しずつだが自信が消えていく、なんなんだこれは……。
バルトンの機体は左手のナタを投げる、危機感が過ってしまい体を左にずらすと左肩関節に突き刺さる。
このまま熱で関節は動かなくなる。
『左関節完全に動きません!エイジさん!』
「分かってる……分かってるんだ……」
バルトンは追撃を許さない、再び右手ワイヤーを発射すると首に捩じ込まれタイヤを滑らし一気に接近。ヒットアンドアウェイの熟練者であることを再認識させられる。
首を右手で掴まれ押し倒されるギリギリと音を立て今にも千切れそうだ。
『私が怖いか?皆、私に挑んでは死んで行ったさ。お前の仲間達をこの手でな。』
義手だからか、皮肉な感じの言い方をする。
『大体は戦意を喪失し死を待つもの、それか逃げるかの二択だ。初めから戦いを望まず逃げる者は見逃すさ。それらは私にとってはつまらん人間に等しい、歓迎できるのは自ら戦う戦士のみだ。お前はその類だと思ったが……。』
俺が心的外傷になった原因はほぼバルトン・シミラス本人だ……彼の圧倒的強さに恐怖したのが全ての始まりだった。
『悪いが決闘だ、その命を頂く。』
肩とコクピット横に入ったナタを抜き両手に装備する、右手のナタを突き出しコクピットに狙いを定めている。
『エイジさん!早く、回避行動を!』
「俺なんて、ただの捨て駒さ。政府のクソに利用された負け組……シュミレーションの訓練だけが得意なイキリなんだよ……ここまで生き残ってこれたのは優秀な後輩と仲間、そして……」
『バカ言ってないで動いて!私とあなたの出会いは何だったんですか?!』
AIもバカとか言うのか……おもしれー。そもそも俺がカッコつけて新型なんかに乗らなきゃ良かったんだ。人の死を見たくないからという偽善の正義は正に滑稽だな……現に俺は敵を多く殺してる。この矛盾をカッコつける以外に説明はなだろう、生憎機体越しで人の死なんか見られずに済むし相手の悲鳴が聞こえればミュートにすれば良い。
「お……俺は……バルトン程の覚悟もなければ敬意もない!なんでこんな自分勝手な人間なんだよおおおおおお!!」
こんな自分に涙が出る、一般人の俺がこんな選択をするべきではなかった。点数欲しさにネスト3奪還作戦で学徒兵として出撃したのが全ての始まりだ。他にも理由があるけど、俺は死んで行った先輩そして仲間、何よりバルトン本人に申し訳なさが溢れてくる。
映像がボヤける、全部涙だが……それが汚く見える。
『エイジさん、私が初めて会った時の言葉をお忘れですか?』
「……忘れちゃいない……俺はローラに申し訳ない事をした。カッコつけてお前の補助を外した。お前が信じてくれたのに最後まで足掻かないで諦めた事に俺は……」
『エイジさんは私をまだ信じてますか?』
「もちろんだ、いつだってお前が側にいる。俺の願いに応えてくれる。」
『思い出してください。貴方が私を信じるならば私も貴方を信じると約束しました。貴方の願いを聞かせてください。』
「俺は、バルトンに勝って……真実を知りたい!」
『貴方の願いは私も同じです。』
右手を起動しバルトンの腕を掴む。
『ほう……やる気になったか……』
「ローラ、俺に力を貸してくれ!」
その瞬間、再び幻覚が現れる。
今度はポッドじゃない……人がはっきりと見える。
「私は貴方を信じたい……見つけてくれるのを待ってる……」
女性だ、十代半ばか……俺はお前とあった事も無いのに。なぜこんなにもハッキリと見えるのだろうか……。
幻覚が一瞬映るとバルトンの機体に戻る。
『エイジさん、私は貴方の恐怖する戦いを一緒に乗り越えます。貴方が恐怖に屈した時は私が立ち上がらせます。そう言ったじゃありませんか。』
「ああ……そうだったな!」
『リミッター解除……『O.B.M』起動……』
その時、ジェネレーター部分がフル稼働する。
バルトンの右腕をギリギリと離す。
「これは……」
『『オーバー・バースト・モード』です。ジェネレーターをフル活動させます、代わりにバッテリーの消費が激しいのと機体の力が強すぎて本体を壊す危険があります。』
「今、このシステムを作ったのか?」
『貴方の願いを私は叶えたい……そのためなら何だって出来ます。』
「ありがとう。」
不思議と不安がなくなる、今までの脳の負荷もない……今度は俺がローラに俺自身の願いを見せる番だ。
『なんだ?!何が起こっている?!』
バルトンは唐突な出来事に驚く。
エイジの機体は少しずつ体を起こすと背部のバッテリー部分の装甲が開く、そこは排熱用の開閉式装甲だが、熱ではなく稲妻が放出される。行き場のない電気が出口を彷徨う、排熱口全てから稲妻が走り挙句には刺された場所からも稲妻が走る。
『面白くなってきた!』
バルトンは再び距離を置く。
左肩は使えない、右手で左腕を引きちぎり軽くする。体制は何とかするさ……。
バルトンの攻撃が来る、シンプルに飛び込みだった。両手のナタを使い振り回す。
攻撃を回避して隙を伺う、機動性が段違いだった。急回避は体に感じた事ないGを感じる。
このような急負荷を毎回受けるのだから強化人間という存在がいるのだと改めて思う。
『どうした!来い!』
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
一瞬の隙も逃さなかった、思いっきり右トリガーを引き千切った左腕を振り下ろすと右肩に食い込み、引きちぎった左腕は完全崩壊する、バルトンの機体はあまりの衝撃に左膝を地面に着けてしまう。
まだ、終わらない。そのまま右拳を首に潜り込ませて突き上げると頭部パーツが吹き飛ぶ。
『まだ終わらん!』
バルトンは左足のタイヤを前に滑らせてエイジの機体に激突、背後の建物にぶつかる。
カメラが見えないからか、ナタで正確な所を突くため建物で押さえつけた。
バルトン機の右腕が動く、左腕でエイジの機体を固定したままナタで刺そうとするが右手で何とか止める。
『右手指関節に異常発生。』
「どうにでもなれ!」
右手で思いっきり握るとバルトン機の右腕が崩壊すると同時にエイジ機の右手も崩壊する。
「バルトン!」
『エイジ!』
エイジの手の無い右腕とバルトンのナタを装備した左手が交差する。
早かったのはエイジの機体だった、コクピットに右腕がめり込こんだ。
バルトンの左手はエイジの機体を掠り背後の建物にナタが刺さっていた。
『見事だ……私のコクピットの中にデータがある。それに全てが……。』
バルトンは息を切らしている、死んでいなかった。
『私もこれで仲間の元へ行けそうだ……。』
「待ってくれ!俺は!」
右腕をコクピットから離しハッチを開けると丁度バルトンの姿が見えた。体中に破片が刺さっており血だらけだった。無惨にも両足の義足が崩壊しており弱々しかった。
「どうした?お前は勝ったのだ。勝利者である以上誇れ、そして……」
咳き込むと吐血し始める、腹部に破片が深く刺さっている。内臓をやられているに違いない。
「俺は自分の力で勝てたんじゃない!この機体のお陰と、ローラ……」
「機体のガイア・システムに名前をつけたのか……結構……自分の愛機を育てるのは重要な事だ……。第一そのOSは少々特殊だがな……」
「それを知ってて……」
「この決闘は私が提案した事だ……私は私の機体で戦った……お前はお前の機体で戦った……それが重要なのだ。ありのままの自分を出す事が大切であり、自然体を体現した証拠なのだから……」
「バルトン……」
「一つ心残りなのは罠を知っててキッカー達に新型を乗らせてしまった事か……どこまでも自分勝手だな私は……エイジ……正解という証拠は存在しない……己の信じた道を進むが良い……。」
バルトンはスマホのような端末を出しコクピットのケーブルハブに接続する。
「今からデータをこの端末に残す……私の最後を見届けるが良い。」
中の情報を抜き取ろうとしている、一つ気がかりなのが『私の最後』という言葉……だが、この光景を見るのは初めてじゃない。
「やめろおおおおおおバルトン!」
二年前だ、黒いADのパイロットがコクピット内の情報を抜き取られて泡を吹いて死んだ。それと同じ事を彼はしている。
『データインストール完了……ナイトS-22の処分を認可……開始……。』
バルトンはゆっくりと目を閉じる、その顔に悔いはなかったように見えたが、すぐに目を開けた。
「何故だ……何故システムが発動しない……」
バルトンは焦っていた、一体何が……。
すると上空にヘリが現れる。
『あーあー聞こえますか?』
ノア艦長か……。だが、何故ここに……。
『バルトンさん……『ナイトシリーズ』のデータを開かせて頂きました。情報が外部に漏れると死ぬそのシステムはこちらで対処しました。』
「マルヒトか……私の顔に泥を……。」
彼は涙を流した、不思議とこちらも悲しくなる。今なら分かる、これは彼の覚悟を裏切り騎士としてのプライドをへし折られたのだ。
『エイジさん。』
「ありがとう、ローラのおかげで勝てたよ……」
『ですが、スッキリしませんね。なぜでしょう、バルトンを見ているとやるせ無い気持ちになります。死ぬより生きる方が良いに決まっているのに。』
「ああ、そうだな……。」
EP.24へ続く……。
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