31話 淑女協定

ナツメの危機的な状況を再確認して、みんなに協力を仰いだんだ。報酬はナツメ自身」


リリアは、茶目っ気たっぷりにそう言いながら、ナツメに視線を向けた。

だが、最愛の人がその言葉の裏に隠している悲しみを察し、ナツメはぐっと歯を食いしばる。


「そういうわけでよろしくな!まあ、嫌だといっても諦めないけどな!」


カオリは、ワハハと声を出して笑った。それは、ナツメが抱える重い空気を打ち破ろうとする、彼女なりの気遣いであることは明らかだ。


「わたしも、ナツメさんの力になりたいです。どうか、そばにいることを許してください」


エリは、真剣な眼差しで、懇願するように言った。


ナツメは、二人からの想い自体は嬉しく思った。しかし、そばにいるリリアのことを思うと、言葉が出なかった。自分の秘密が、彼女らをこんな状況に巻き込むことになる。その責任の重さに、心が押しつぶされそうだった。


「シェリー、君は?」


かろうじて出てきたのは、沈黙を保つシェリーに対する言葉だった。

シェリーは、腕を組んで答える。


「わ、我はチームメイトとして汝を守護する。文句があるか?」


「いや、心強いよ」


ナツメが心底安心したように答えると、シェリーは少し心外そうな様子で、眉をひそめた。


「なぜ少しほっとしているのだ!?」


それを見たリリアは、十分脈アリだなと思った。


「というか、この中で一番危機感が薄いのはナツメだよ。僕たちは君のことを守るけど、君も僕たちのこと守ってよね」


リリアが覚悟を問うと、ナツメは迷わず、力強く答えた。


「ああ、もちろんだ」


ただ、彼女たちを不安にさせてはならないと思う一方で、自身の不安を拭うことは難しかった。


「すきあり!」


そんなナツメの隙を見逃さず、リリアは弾けるように飛びつき、ナツメを抱きしめた。ナツメは、自身の不安な気持ちが表情に出ていたことを察して申し訳なく思いつつも、人前で恋人に抱き着かれる恥じらいが勝った。


「む、乗っかっておくか」


カオリは、面白がって便乗するように、ナツメに抱きついた。


「えっと、じゃあ、わたしも」


エリは、少し遠慮がちに、しかし確かな意志をもって、その輪に加わった。

絵面で言えば、まるでおしくらまんじゅうのようであり、ロマンスというよりは、学園コメディのような賑やかな図になっていた。それを見て、シェリーはくすりと笑った。


三方向から抱きしめられながら、ナツメは温かさに包まれた。もう、一人だけの人生ではない。その喜びと、彼女らを守る責任を、ナツメは噛み締めた。

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