第3章 I'm just a human in love.
23話 シャルウィダンス
年の瀬も迫っていた頃、静寂を破ったのは1つのイベントの告知だった。フランスで開催されるドレスによるペアダンスコンテスト「バル・ドゥ・ソワール」。国際的なイベントで、多くの著名人やスポンサーが来場する華やかな祭典である。
その参加要綱を手に、リリア・ドレイクがナツメの元に直接やってきた。
「ナツメ!このコンテスト、僕とペアで出場しよう!」
彼女は目を輝かせ、興奮を隠しきれない様子で言った。
「君と僕なら、きっと優勝できるよ!」
「ダンスは少し自信がないな」
ナツメは、その誘いに乗り気ではなかった。ペアダンスという形式への戸惑いもあったが、何より、リリアと二人きりで海外へ渡航することに、秘密がバレるリスクを強く感じた。
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ナツメが参加を渋ったその日の夜、彼のデバイスにイノベイターの情報部から連絡が入った。
「フランスで大規模なテロが計画されていることを察知しました。詳細は不明ですが、国際的なイベントが狙われる可能性が高いです」
情報部の声は、冷静でありながら、切迫した状況を伝えていた。しかし、同時にこうも告げられた。
「被害を鑑みると、現地で対応できることが望ましいのですが……。現状では自然にフランスにいる状況を作りだすことが困難であることを考慮し、あくまで情報共有にとどめます」
ナツメはデバイスを握りしめた。テロの情報を得たことで、テロの被害を防ぐ責任を感じ、深く悩んだ。リリアを巻き込む危険性も無視できない。明日もう一度話してみる必要があると感じた。
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翌日の放課後、リリアを校舎の隅のベンチに呼び出して2人だけの状況を作る。
「リリア、少し話があるんだ」
ナツメがバル・ドゥ・ソワールの話題を切り出すと、彼女は想定外のことを明かした。
「ああ、ナツメに断られちゃったからね。キャシーなら僕に合わせるくらいはできるし、ペアは組めるかなって思って」
リリアの言葉には、まだコンテストへの純粋な情熱が満ち溢れていた。自身が参加しなくてもリリアが参加することは想定外だったが、それならそれで覚悟は決まった。リリアをこのテロの危険から守りたいという思いが、決意を固めさせた。
ナツメは、深く息を吸い込んだ。
「……リリア。私とペアを組んでくれないか。バル・ドゥ・ソワールに、一緒に出よう」
リリアの瞳が大きく見開かれた。その顔には、驚きと、そして隠しきれない喜びが広がった。彼女は言葉もなく、ただ力強く頷いた。
ナツメは、リリアを守るため、そしてフランスでのテロを阻止するため、共に「バル・ドゥ・ソワール」に参加することを決意した。
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数日後。ナツメとリリアは、パリへと渡航した。
リリアはホテルを同室にしたいとわがままを言ったがナツメは頑なに拒否した。「僕と一緒じゃ嫌なの?」と目を潤ませてきいてくるリリアに、「スポンサーの意向だ、こればかりはわかって欲しい」と嘘をついたのは少しばかり心が痛んだ。それでも、部屋は隣にとってあるし、ほとんどの時間を共に過ごすことに変わりはなかったのでリリアの機嫌も次第に戻っていった。
会場となるグラン・パレは、華やかな装飾と、世界各国から集まった著名人やドレスアクトレスたちの熱気で満ち溢れていた。ドレスが放つ煌びやかな光と、優雅な音楽が響き渡る。その華やかな雰囲気と、ナツメが感じ取るテロの影が、強烈なコントラストをなしていた。
コンテストは、ドレスを着用して優雅に舞うペアダンス。普段の戦闘とは異なる、美しさと協調性が求められる舞台だ。
ナツメは、ペアダンスの経験が全くなかったため、最初は戸惑いを見せた。しかし、リリアから手ほどきを受けると、その天性の身体能力と、数度練習するだけで動きを習得する驚異的な学習能力を発揮した。彼らのパフォーマンスは、見る者を魅了し、会場からは大きな拍手が湧き上がった。
リリアもまた、ナツメとパートナーを組めたことでモチベーションが最高頂に達し、高いパフォーマンスを見せた。二人の息は回を追うごとにぴったりと合い、会場を魅了する。彼らは、息の合った動きで優雅に舞い、優勝を目指してその輝きを増していった。
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