第22話 side01 6つの命日

 会長と別れた後、俺は屋上へと向かった。

 ラブレターというものへの返事なのだが、俺は十中八九いたずらだと思っている。


 そもそも、仲良くした人物に心当たりがなければ、そんなような情事に発展するような展開もなかった。


 なので、さほどの機体はしていないが、本当のことだと思うと心苦しくなる。


 本当に付き合うつもりがないので、どの道相手が本気であっても断るしかない。

 相手にとっても苦しいことかもしれないが、そうなると俺も中々に心苦しい話だ。むしろ、前者であってすっと終わるほうが、こちらとしては楽な話だろう。


 そうこうしているうちに俺は屋上の扉の前まで来ていた。


 うちの学校の屋上は解放されてはいない。だが、鍵が緩く、先生たちも黙認している部分があるため、事実上見つからなければ自由出入りが可能な場所だ。


 ガチャ


 扉を開けると、目の前に一人の女子生徒が―――


 6人か……


 屋上の空気を感じた瞬間に、この告白が茶番であることを理解した。

 なんせ、俺の視界の外に男子が数人いる。


 ただ、それだけで判断するのはあれか……まあ、相手の言い分を聞くだけ聞いてみるか。


 「その……零陵君―――私、君のことが好きなの。だから、付き合ってください!」


 勢いよく彼女はそう口にした。なので、俺はただ一言断ろうとしたのだが―――


 「冗談に決まってんだろ?」


 不躾に後ろにいた男たちの一人が俺の方に腕を乗せてきた。


 「美晴がお前のこと好きになるわけないだろ?」

 「美晴……?ああ、そいつのことか」

 「あぁ……?知ってて来たんじゃねえのかよ。おい、どうなってんだよ」

 「え?わ、私は結構やったよ?落とした消しゴムも忘れた教科書も全部助けてあげたし。読んでた本に興味持ったふりもしたし!」

 「―――ああ、お前あれか。俺の隣の席の女か。一応普通の生徒らしく落とし物やら忘れ物をしてみたんだが、むしろダメなことだったみたいだな。お前らみたいな下等種に付け入る隙を与えてしまっていたようだな」

 「「「は……?」」」


 俺の言葉に一気に空気が覚めるのを感じる。だが、俺はそれ以上に続ける。


 「やはり完璧に過ごすのが正解か。こうなれば、もうすぐ行われる中間テストも満点で終わらせたほうが無難か?」


 だが、この発言にその場にいた全員が笑い始める。


 「だはは!こいつ、テストで満点とるってよ!スカしてる割に面白いこと言うじゃねえか!」


 リーダー格らしき男は豪快に笑い飛ばして、俺を小馬鹿にする。肩を組んだまま。


 「薄汚い手をどけろ。臭い息をかけるな。そちらにも言い分があるだろうが、これ以上俺にストレスをかけるな」

 「はあ!?お前、誰に口を―――っ!?」


 ゴタゴタ言ってどかないリーダー格の男に対して、俺は容赦のない一撃を見舞う。

 頭が右肩に近い位置にあったので、左手で相手の髪をむしり取るように投げ飛ばす。一応原理的には背負い投げのようなものであり、冷静に受け身をとればそこまでいたくないようにしている。


 ただ、ここまで手加減をする意味はないかもしれない。


 ドサッと情けない音ともにしりもちをついた男は、患部を押さえながら顔を真っ赤にする。大して俺は、周りにも向けて言葉を紡いだ。


 「おそらくお前らは、女子に告白されて慌てて、そのうえで嘘だったと言われて意気消沈する俺の姿を望んでいたんだろうが―――残念だったな。もとよりこの告白が本気で行われているものではないと気付いていたし―――」

 「な、なによ!」


 俺の視線が告白を行った女子に向く。


 「俺はお前に興味がない。もし本気だったとしても、俺はそれを受けなかった。つまり、あまりない展開に動揺するというお前たちの望んだ光景は生まれないさ」

 「はぁ!?あんたみたいなキモオタクに!」

 「オタクというのはある一定の趣味に傾倒する者たちの総称と認知しているが?俺にそんな趣味はない。それに、それで言うのなら君たちは性行為オタクというものではないのかな?」


 僕の言葉に女は顔を真っ赤にして、本性を現し始める。

 しかし、彼女はそこまで詳しい話を聞いている部類ではなかった。なので、真っ赤になった彼女の表情がどんどん青ざめていくのが面白いものだった。


 と、思ったところに、俺の首筋へ衝撃が走る。


 とはいっても、普通に殴られた程度の衝撃だ。しかし、相手にとってそれは驚愕のことでしかない。


 「なっ!?どうなってる!俺は力を入れて殴ったぞ!どうして首が飛ばない!」


 驚愕の中に見過ごせないような発言もあるが、俺は気にしない。

 だが、女のほうは違かった。


 「そ、そこまでやるなんて聞いてないし!―――ていうかなにそれ!」

 「お前はこのことを知らなかったのか?」


 一応俺は女に確認をとる。それに対して女は当たり前だと、ブンブンと首を縦に振った。


 「やはり、グループ内でもそこそこ上のやつらに横行していると見たほうがいいな。まあ、最後の警告だ。トルーパーども、死にたくなければ変身を解除し、デバイスを破棄しろ。リアクトと違い、トルーパー―――正確にはリアクトルーパーならば、レベル上昇による身体負荷の影響は低い」

 「なに言ってんだお前!」

 「お前らは頭から超常的な力を手に入れられる。超人になれる、と言われているのだろうが、悪魔の誘いだ。進化は死の競争の果てにある。お前たち、死ぬぞ?」


 その言葉に女は表情をだんだんと青くさせる。

 普段なら信じられる言葉ではないが、今目の前の出来事―――その場にいた全員が蟻人間になれば、信じるしかないだろう。


 「な、なあ!あいつらを助ける手段は!」

 「ない。もはや、俺の言葉に応じないのなら殺す以外に手段はない。普通なら自動的に変身が解けて死亡するが、下手に適合するとまずいことになる」

 「まずいことって……」

 「そりゃ、人を殺し始めるよ。ただの一般人のお前もな」


 俺の言葉に虚偽はない。

 力に飲まれるのはそういうこと。意思になくとも、人間を襲い始める。たとえ、相手が恋人であってもだ。


 「どーすんだよ!とにかく、あいつらをとめないと!」

 「お前が止めればいいじゃないか。持ち前の自分の体で、誘惑でもすればいいじゃないか?そうしてお前はグループ内で人として扱われるようになったんじゃないのか?」

 「う、うるさい!」

 「まあいい。ここでどの道止める。殺してでもな」


 俺はそう言って、屋上の柵から一本の鉄の棒をへし折って取り、指でなぞって変形させる。

 刀身を作り出し、剝き身の刃具で俺は相対する。


 「喜べ、今日がお前たちの命日だ」

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