32 山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり




山川(やまがは)に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉(もみぢ)なりけり

春道列樹(はるみちのつらき) (平安時代の歌人)。



若者訳

山の中を流れる川にさ、

風がまるでインテリアみたいに“しがらみ”をかけたのかと思ったら――

それ、ただ紅葉がつまってるだけじゃん!?

でもその色がきれいすぎて、

流れが止まるのも納得……って感じ。

美しくてなんかズルい。


現代語訳

山あいの川(谷川)に、風がかけたような堰(しがらみ)があるが、よく見れば、それは流れきれずにたまっている紅葉の塊だったのだなあ。


作者の春道列樹が、都から近江(おうみ=現在の滋賀県)へ向かう途中の「志賀の山越え」の道で詠んだ歌。

山あいを流れる川に、風がまるで堰をかけたように紅葉を集めている。

――そんな光景を描いている。

「しがらみ」とは、川の流れをせき止めるための柵のこと。

ここでは紅葉が流れをふさいでいる様子を、その柵に見立てている。

「流れもあへぬ」は「流れきれない」という意味で、川の水が紅葉にせき止められているさま。

「紅葉なりけり」で、「ああ、これは紅葉だったのだなあ」と気づいた感動を伝える。

自然の美しさを、見立てと擬人化によって生き生きと表現した歌で、秋の風情と作者の感性が見事に調和している。


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