第34話 お弁当、練習会
「ねえ、山田さんも一緒に住んでるの?」
碧が出かけていった後、ルナが質問する。先程まで緊張で口数が少なかったのに、今は学校と同じように話しているのを見て、澪は気を遣ってくれた碧に感謝した。
「でも、ワンルームだよね。3人で暮らすには狭くない?」
ジュリが部屋を見回して疑問に思った事を口にする。
「ここは山田さんの部屋。私は隣の部屋で寝てるんだけど、食事とか生活のほとんどはこの部屋だから」
澪の説明を聞いてさらに混乱したルナ達は頭の上にハテナが浮かんでいる。
「どういうこと? お母さんは?」
ノアの質問に、澪は隣の部屋に住むことになった経緯をザックリとはなした。
お母さんの病気を碧が助けてくれた事、高校生の一人暮らしは大変だからと面倒を見てもらっている事、そのお礼に澪が家事をしている事。
「つまり同棲ってこと?」
話を聞いてルナが発した言葉に、澪は苦笑する。
「ち、違うよ! 今は保護者みたいな感じで——」
「へー、
言葉の揚げ足をとってニヤニヤする3人に、澪は顔を赤くして咳払いをすると「ほら、お弁当作るよ!」と言って料理の準備を始める。
ワンルームのキッチンは狭いので、火を使う以外の工程はテーブルですることにした。
「それで、2人でどんな生活を送ってるんですか?」
料理を始めても、ルナはレポーターのような口調で質問してくる。
「包丁使う時は真剣に!」
澪が話をかわすために注意すると、ルナはニヤニヤしながら「はーい」と返事をした。
「教えてもらうんだから真剣に覚えよう。澪の話はその後でもゆっくり聞けるだろ?」
「そう。今はオムライスのほうが大事」
ジュリとノアにも言われてしまい、ルナはバツが悪そうな顔をする。
その後は、澪に教えてもらいながら3人は真剣にお弁当を作った。
お弁当が完成した後は、調理実習のように自分達の作ったお弁当をそのまま食べる。
「私が作った卵焼き中がカチカチ。澪みたいに半熟にするのは難しいね」
「慣れだよ。フライパンを火から外して巻くタイミングかな?」
それぞれのお弁当を食べながら、初めて作ったお弁当について感想を言い合っている。
「まさかお弁当でこんな本格的なオムライスを作るとは思ってなかった。澪は天才!」
黙々とお弁当を食べていたノアが、ホッペにご飯粒をつけて言った。
お弁当にもかかわらず、オムライスにかかっているのはケチャップではなくデミグラスソースだ。
「今日はすぐ食べるからで、お弁当だと2段弁当じゃないとおかずと混ざっちゃうけどね」
デミグラスソースといっても、ビーフシチューのルーをお湯で濃いめに溶かしただけのもの。
常備していたものがあったので、澪が料理上手に見える裏技として紹介したものであった。
「でも、料理慣れしてるって感じがする。さすが主婦!」
「もう、また」
ルナの質問に、澪は苦笑する。
「料理も終わったし私も聞きたいな。同棲ってどんな感じ?」
「澪が1番進んでる可能性もあり?」
先ほどとは違い、今度はジュリとノアも澪の話に興味津々であった。
「もう、だからまだただの保護者だってば〜」
3人の質問にタジタジになりながらも、澪は潔白を証明するように今までの生活を説明する。
しかし、それを聞いたルナ達は、送り迎えからの同棲、さらには家を建てる話など、想像以上に夫婦をしている話に驚き、さらに質問が増えるのであった。
◇◆
ルナ達が帰宅した後、澪は自分の部屋に何もないので、1人で碧の部屋に居た。
ぼんやりと見ていたテレビを消して、天井を見上げながらため息を吐く。
楽しい時間が長いほど、1人の時間は寂しく感じる。澪はスマホをいじりかけ、途中でやめてテーブルの上に置いた。
いつもならこの時間は碧と食事をして、その後テレビを見ながらなんでもないような話で盛り上がったりする。
「山田さん楽しんでるかな? なんか1人だと、することないな……」
碧に出会う前、1人で生活していた時は平気だったはずなのに、妙に寂しく感じる。
そんなことを考えていると、ガチャっと音がしてサムターンが回った。
「ただいま!」
ドアを開けて入ってきたのは、いつもより少しテンションが高い碧であった。
「山田さん、早くないですか?」
澪が時計を確認すると時刻は8時過ぎ。
飲み会というのは、もっと遅くに帰ってくるイメージがある。
「だって来栖さんが心配だから」
碧の返答に、澪は思わず笑みが溢れた。
「なんですかそれ」
「それよりさ、ご飯残ってる? 〆にお茶漬け食べたくてさ」
「冷凍のがありますよ。温めますからちょっと待ってくださいね!」
澪は先ほどまでとは違う明るい声でそう言うと、席を立ってお茶漬けの用意を始める。
「……あの、来栖さん、食べにくいんだけど何か変?」
お茶漬けの素で作ったお茶漬けを美味しそうに食べる碧を向かいの席でじっと見て、ニコニコする澪に、碧が箸を止めて言った。
「いいえ、なんでもないです。飲み会は楽しかったですか?」
「まあ、久々だったし楽しかったよ。来栖さんは友達と楽しかった?」
先ほどまで静かだった部屋は2人の会話で明るくなり、澪の気持ちも温かくなったのだった。
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あとがき
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