第30話 週末の、予定
ホテルから帰ってきて部屋でくつろいでいると、部屋のチャイムが鳴った。
「はーい!」
どうやらベッドの再配達が来たようである。
配達業者から受け取って、「組み立てるのは来栖さんが帰って来てからだな」などと呟きながら玄関に置かれた大きな荷物を眺めていた時、スマホが震えた。
『先輩、今週末飲みにいきませんか?』
先日偶然会った元職場の後輩からのメッセージ。
「社交辞令じゃなくて本気だったんだ……」
以前ならなにも考えることなく飲み会に参加していたが、今は来栖さんにご飯を作ってもらっているし、どうしようか考えてしまう。
「ん?」
俺が返事を迷っていると、タイミングよく来栖さんから連絡がきた。
『今週末なんですけど、友達を家に呼んでもいいですか?』
来栖さんに家に呼ぶくらい仲のいい友達ができたことに、嬉しくなって自然と笑顔になってしまう。
(芦田さん達かな?)
先日見た来栖さんの友達を思い浮かべて、俺はあることに気づいた。
「この連絡が来るってことはまさか俺の部屋に呼ぶの?」
まさかとは思うが、一応メッセージで確認を取ると、どうやらそうらしい。
(確かに来栖さんの部屋にはなにもないもんな)
今度友達を呼べるくらいには、来栖さんの部屋に家具を用意することを提案しよう。などと考えながら了承のメッセージを返す。
(そうすると、お邪魔虫はいない方がいいよな)
そう思った俺は、ちょうどいいので後輩にも了承のメッセージを送るのであった。
◇◆
時間は少し遡り、学校に着いた澪はルナ達と話をしていた。
「で、いつにする?」
「テスト明けだし週末とかは?」
メイクを教えてもらう代わりに料理を教える。その日程をいつにしようかと言う話になる。
「ちょっと待ってね、聞いてみるから」
澪はスマホを取り出して、碧にメッセージを打った。
『俺の部屋でするの?』碧からの返信に『道具や冷蔵庫は山田さんの部屋にありますから』と返事をしてお伺いをたてる。
すると、すぐに碧から了承のメッセージが届いた。
「週末大丈夫だって」
返信を見てそう言った澪を見るルナ達の顔が、妙にニヤニヤしているように澪は感じる。
「なに?」
「なんでもない。それで、なにを教えてくれるの?」
澪ははぐらかされたように感じながらも、顎に人差し指を当てながらなにがいいかを考える。
「んー、逆になにがいい?」
「はい! オムライス!」
澪の質問にノアが即答した。
「私は彼氏にお弁当を作りたいからさ、お弁当のおかずになるものがいいな」
ジュリも少し考えた後にそう返事をする。
「えっと、私は、私はね……迷う!」
ルナは両手で頬を包みながら唸っている。料理を教えるのも一回で終わりではないので、ルナは次回までに考えてくることになった。
話し合った結果、第一回はオムライスメインのお弁当を作るという事になる。
「そしたら週末、学校帰りに買い出しをして、澪の家でお弁当作りね!」
「楽しみだね〜」
澪達が盛り上がっていると、パンを齧りながら玲音が寄ってくる。
「来栖さんのお弁当? 俺も食べたい! 味見役いらない?」
急に口を挟んだ玲音に、4人は苦笑する。
「家で作る料理の話だから」
澪がやんわりと断ると、玲音は「そっか。来栖さんのお弁当美味しそうだから残念」と言ってあっさり引き下がった。
「澪には作る相手は他にいるもんね〜?」
ルナが口元を隠して、ニヤニヤしながら澪を揶揄うと、玲音は少しムッとした顔になる。
「やっぱり、俺どうしても来栖さんのお弁当食べたいかも!」
先ほどと意見をひっくり返した玲音に、澪は苦笑する。
「それじゃあ、ノートのお礼に一回だけ作ってくるね。明日でいい?」
「ほんとに! 約束ね! やり〜!」
澪の提案を聞いて嬉しそうに笑うと、玲音は鼻歌を歌いながら席へ帰っていく。
「あんたが余計なこと言うから」
玲音が去った後、ジュリがルナをチョップした。
「大丈夫だよ。ノートのお礼はしないとと思ってたし。五十嵐君のおかげでちゃんとテストが受けれるんだから」
実際お礼をしようと思っていたので、澪はそう言って微笑んだ。
玲音が部屋に来るのは遠慮願いたいが、お弁当を作ってくるくらいなら2人分も3人分も大して変わらない。
その後、すぐにチャイムがなり、ホームルームのためにルナ達も自分の席へ戻っていくのであった。
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