第16話 新しい、選択肢
俺が呆然としていると、握ったスマホから声が聞こえてくる。
「——山田様、大丈夫ですか?」
俺はハッとして、慌ててスマホを耳に当てる。
「すいません。あの、無職がダメなんだったら、冒険者ならどうですか? 俺、一応資格を持ってるんですけど……」
俺は口に出しながら無茶な事を言っていると思った。しかし、万に一つの可能性に縋れないか、担当者に質問した。
「山田様、冒険者というのは明日の命も分からない仕事という判断になります。収入の継続性が重視される賃貸審査やローンなどでは無職よりも通りにくくなるんです」
「そうなんですか……」
分かってはいた事だが、どうにもならないことにガックリと肩を落とす。
担当者が言うには、冒険者であっても審査を通すために
「山田様、お住まいを買うという選択肢はございませんか?」
諦めて電話を切ろうとしたその時、担当者が別の提案をしてくれた。
「買う?」
「はい。山田様の資産は潤沢ですので一括購入となればローン審査などは不要でご購入できます。家賃は発生しませんし、なにより賃貸とは違って資産になります。その代わり、税金などの維持費がかかるようになってしまいますが」
担当者の提案は、家を買うという提案であった。
それも、家を建てればセキュリティ関係もキッチンも、自分達のしたいように理想を実現できる。という提案である。
「なるほど、建てる、ですか」
これまで賃貸で考えていたのは、来栖さんのお母さんが元気になって退院してくれば、俺はお役御免になる。
そうなった時に後腐れなくフェードアウトできるようにであった。
しかし考えてみると、俺が居なくなれば来栖さん達は元のセキュリティに不安のある家に出戻ることになるだろう。
そんな無責任なことはできない。
(最後に、安全な家をプレゼントするのもいいだろうな)
なにせ、命のお礼なのだから。
少しの間俺も住むから中古になってしまうが、それは勘弁してもらう。
「そうですね。建てようと思います。その場合は引き続きお願いできるんですか?」
「私は賃貸専門の人間ですので、信頼できる人間を紹介することは可能です」
「そうですか。では、紹介をよろしくお願いします——はい。色々と提案してもらってありがとうございます」
俺は最後に担当者にお礼を言って電話を切った。
◇◆
夕方、チャイムと同時にドアが開いて、来栖さんの元気な声が聞こえる。
「ただいま帰りました!」
学校帰りの来栖さんは、買い物をして来たようでレジ袋を持っていた。
「お帰り。買い物いってくれたらやっておくのに」
「ちょっと足りない物を買っただけですよ! でも、冷蔵庫が大きくなったからついつい特売のお肉を買っちゃいましたけど」
袋の中からお肉を取り出して来栖さんはテヘっと舌をだす。
その後、先日届いた冷蔵庫に買って来た物をしまい、キッチンに今日使う物を取り出した。
「ご飯少し待っててくださいね。引っ越したらもう少し手早くできると思うんですけど」
「来栖さん、それなんだけど、審査落ちたみたいなんだ」
俺の言葉を聞いて、来栖さんはピタリと作業する手を止める。
「そっか。うん……それは残念でしたね」
こちらへ振り向いてそう言った来栖さんの表情は、笑顔ではあるが眉が少し下がっており、どこか残念そうに見える。
内覧の帰りに引っ越した後の事を楽しそうに話していたし、ガッカリしたのだろう。
「それでね、来栖さん」
「なんですか?」
「俺無職で借りるのは難しそうだから、家を建てようと思うんだ」
来栖さんが理解が追いつかないといったように目をパチパチと瞬いた後に、一際大きく見開いた。
「ええ⁉︎ そんなの、めちゃくちゃ高いんじゃ……」
「家を建てれば、家賃は掛からないし資産になる。実質お得だよ! だから、どんな家を建てるか来栖さんも一緒に考えてくれないかな?」
俺の説明を聞いて、来栖さんは笑顔でゆっくりと頷いた。
「……はい。せっかくだから、この前のマンションよりも住みやすい家を建てましょう!」
その後、来栖さんは気が逸るのか料理をしながら色々と話してくれる。
それを聞きながら、俺は確かにカウンターキッチンならこんな時でも話しやすいだろうなと思うのであった。
◇◆◇◆
あとがき
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