第14話 お部屋の、条件

 病院から帰ってくると、俺は早速スマホで物件を探していた。


「オートロックに宅配ボックス、防犯カメラ。思いつくのはとりあえずそのくらいかなぁ」


 俺が気にしているセキュリティという条件だけでは物件がたくさんありすぎて、正直どこが良いのかなんてよく分からない。


「来栖さんはどんな所がいい?」


 困り果てた俺が質問すると、キッチンで料理をしていた来栖さんがこっちへ振り返った。


「そんな、山田さんの家に住ませてもらうんだからどんな所でも大丈夫ですよ」


 来栖さんは苦笑しながら、調理し終わった料理を器に入れる。


「すいません。今日は簡単な物になっちゃって」


 来栖さんが申し訳なさそうに、出来上がったうどんを俺の前に置いた。


「そんな事ないよ、俺うどん好きだし。うん、すごく美味しそうだ!」


 俺の言葉に来栖さんはなぜか「ありがとうございます」とお礼を言って向かいの席に座る。


 料理を作ってくれるだけでもありがたい事だし、調理中から部屋に漂う出汁の香りで俺のお腹は瀕死状態だ。


 それに、簡単だと言っているがむきエビやほうれん草、かまぼこなど、色とりどりの具材を乗せてくれている。


「こちらこそありがとうだよ。さ、早く食べよ!」


 お腹が空いて急かした俺の言葉にくすりと笑った来栖さんが「はい」と返事をして、2人で「いただきます」の挨拶をして食べ始めた。


 食事の間も、話題は物件の話になる。


「それで、来栖さんはどんな家に住みたいの? ほら、こうやってご飯を作ってくれるし来栖さんの使い勝手とかも大事だからさ」


 俺の質問に少し考えた後、来栖さんは思いついたように口を開いた。


「それなら、コンロが2口欲しいです! そしたら今よりも効率が上がると思うんですよね!」


 思ってもみなかった来栖さんの要望に、俺はキッチンの方を見る。

 この部屋は一人暮らし用なので、コンロは一口しかない。


 一口のコンロでこれまでカツカレーや2品以上の調理をするのは大変だっただろう。


 それなのに、俺の要望を叶えてくれていた来栖さんには頭が上がらない。


「それじゃあキッチンの広いところを選ぼう!」


 条件に広いキッチンが追加されて、多少は選択肢が狭まったと思う。


 食事を終えた後、うどんを食べながら話し合った条件を確認しながらまた物件を探していると、洗い物を終えた来栖さんがやって来て今度は俺の隣に座った。


「いいところありました?」


「うーん、正直これでも沢山ありすぎてよく分からない」


 覗き込んでくる来栖さんの方にスマホを寄せて、2人で色々な物件の間取りと室内の写真を見ていく。


「あ、カウンターキッチン……」


 何枚かの写真を見ている時、来栖さんがぼそりと呟いた。


「ん? どこかいいところあった?」


「ちょっと……いえ、なんでもないです……」


 俺が質問すると、来栖さんはなぜか顔を赤く染める。

 俺は首を傾げながら、ページを少し遡る。


「これかな? たしかにこっちの方が広く使えそうだよね」


 来栖さんが見ていたキッチンはこの部屋のキッチンのように壁に向かっている物ではなく部屋の方に向かってコンロが付いている。

 そのおかげで壁側に収納や冷蔵庫が置けるため、より広々と料理ができそうだ。


「それもそうなんですけど……」


「ん?」


 来栖さんが眉を下げながら何か呟いたので聞き返すと、来栖さんは「なんでもないです。その通りです!」と少し大きな声で返事をしてくれた。


 カウンターキッチンの間取りを条件に加えて物件を探してみるが、それでもまだまだ該当件数は多い。


「やっぱり写真だけじゃよく分からないし実物を見たいかも」


「そうだな。不動産屋に行ったらアドバイスももらえるだろうし、今度2人で見に行ってみようか」


 結局その日に物件は決まらず、後日内覧に行く事を決めて、俺は来栖さんを家まで送り届けたのだった。



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