第8話 買い物の、続き

 2人で相談した通り、たこ焼きを2人で分けるくらいでちょうど良かった。


 たこ焼きも食べ終わり、一緒に頼んだコーラを飲んでいると、向かいに座っている来栖さんが急に姿勢を正した。


「あの、ちょっと買いに行きたいものがあるんですよ」


「いいよ、買いに行こうか。あ、ちょっと待ってね飲んじゃうから」


 俺はそう返事をすると、コーラを吸う勢いをさっきより強める。


「そうじゃなくて、えっと、1人で買いに行きたいものがあるんです!」


 顔を赤らめて話す来栖さんの様子に、俺は首を傾げた。


(いや、さっきは一緒に見ないと意味ないって言ってたじゃん?)


 言葉にはしないが、女心……いや、若い子の考えることはおっさんには分からないという事なんだろう。

 俺はそう納得して財布を取り出すと、札束からお札を5枚取り出した。


「それじゃ、これで買っておいで」


「多過ぎます!」


 俺が渡そうとした金額を見て、来栖さんは目をまん丸にして悲鳴に近い声を上げる。


「いや、もし足りなかったら取りにくるのは二度手間だしさ。それに、生活費の面倒を見るならお小遣いも渡さないとでしょ?」


 俺の言う事に納得していなそうではあるものの、来栖さんは周りをチラチラ見て「……分かりました、ありがとうございます」と言ってお金を受け取った。


 その後、買い物に行く来栖さんを見送って、コーラを飲み干した俺はトレイを片付けるために席を立った。


 そして、ゴミ箱の方へ向かう時に周りを見て気づいたが、土曜日の昼時はフードコートに結構人がいる。


 そんな中、剥き出しのお金をおっさんが女子高生に渡すのは外面がかなり悪かったであろう。


「今度からお金を渡すときは封筒に入れたほうがいいか」


 俺はゴミを捨てながら先ほどは配慮が足りなかったと苦笑したのであった。


 ◇◆


 食事も終えて手持ち無沙汰になった俺は1人でショッピングモールをうろついていた。


「あ、そういえば鍋一つで結構パンパンだったよな」


 家電量販店の前に来たときに今日の朝鍋を取り出した時のことを思い出した。


「ちょっと見て行こう」


 家電量販店に入って冷蔵庫コーナーに向かう途中で、俺は足を止める。


「炊飯器もなぁ、これから毎日炊いてもらうならあんなオンボロよりもちゃんとしたやつの方がいいよなぁ。いいやつだと同じお米でも美味しいって聞くし」


 炊飯器コーナーには自分の家にあるのとは違う、スタイリッシュな炊飯器が並び、羽釜、炎舞、土鍋、真空、圧力、御膳などなんかカッコいい文字が達筆な文字で書かれている。


「よく分からんけどどれも凄そうだ。メーカーとかどれが良いんだろう? お?」


 ずらりと並ぶ炊飯器を見ていると、少し離れた場所に面白いものを見つけた。


「へぇ、こんな風に洗ってるんだ」


 外側が透明な素材で作られた食洗機である。


「確かに毎日食器を洗うのは大変だよなぁ。昔は俺もシンクに貯めまくって怒られたし」


 一人暮らしを始めた若い頃、様子を見に来た母親に呆れながら怒られた事を思い出す。


 あの時は母親が全部洗ってくれたんだっけ。


 洗い物が面倒で、全てお惣菜や弁当にしたのだ。


「食洗機があったら、来栖さんも楽かな?」


 色々と考えていると、目の前の食洗機が止まった。


「おっと、ちゃんと冷蔵庫も見ないとな」


 家電量販店の奥の冷蔵庫コーナーに辿り着くと、俺の家にあるような小さい一人暮らし用の物から、実家にあったような大きなサイズのものまである。


「自動製氷、真空保存。え、今の冷蔵庫ってAIで中身の管理までしてくれんの?」


「そうなんですよ。それに中に入ってるものでレシピまで考えてくれますよ!」


 俺が冷蔵庫を見ていると、いつの間にか店員がやって来てそう説明してくれた。


 家電については分からないことばかりなので、店員に色々と説明をしてもらう。


 炊飯器同様、メーカーによって色々と特徴があるみたいだ。


「あ、ちょっと待ってください」


 説明を受けていると、スマホが震えた。どうやら来栖さんが買い物を終えたみたいである。


 家電量販店にいることを伝えると、ここまで来てくれるみたいだ。


 店員の説明が終わる頃に、来栖さんはやって来た。


「お待たせしました」


「大丈夫。色々聞いてたから全然待ってないよ」


 俺の返事に来栖さんは首を傾げる。


「冷蔵庫ですか?」


うちの冷蔵庫って小さいじゃん? 今日鍋でいっぱいだったし。だから大きい方がこれから良いのかなと思って」


 俺は考えている事を来栖さんへ伝えた。


「確かに小さいですけどこまめに買い物すればなんとかなりますよ。昨日は張り切って作り過ぎましたけど、ちゃんと計算して食べ切る分だけ作れば良いだけですし」


 俺の考えを来栖さんは苦笑しながら否定するが、その言葉は小さいから大変だと言っているようなものであった。


「色々やってもらうんだから、必要なものは俺が揃えないとね! それと、炊飯器も見たんだけど良い奴の方が美味しいお米が食べれるんだよ!」


「もう、買う気まんまんなんじゃないですか!」


 俺の力説に、来栖さんはクスリと笑う。


「あとさ、食洗機があれば来栖さんが楽できると思うんだよね!」


「そんなのいりませんよ! 2人分くらい私が洗うから食洗機はいらないです!」


 どんどん俺の口から出てくる提案に、来栖さんはストップをかけた。


 結局、冷蔵庫と炊飯器を買う事になり、俺と来栖さんは店員の説明を受けながらどれを買うか一緒に選んだ。


「あ、最後に100均によっていい?」


 家電量販店を出た後、俺は来栖さんにそう尋ねた。


 あそこまで家電量販店に時間を取られると思っていなかったので、まだ封筒を買っていないのだ。


「100均ですか?」


「そう。これからお金を渡すときはちゃんと封筒に入れようと思って」


「なるほど。確かに、その方がいいかもですね」


 来栖さんも何かを感じていたようで苦笑しながら俺の意見に賛成してくれた。


 そうして2人で100均へ寄った後、俺達は家へ帰るのであった。










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