冒険者生活初日、宝くじが当たったので冒険者を辞めることにした。
シュガースプーン。
第1話 宝くじ、当たる
「これからどうしよう」
俺は部屋で寝転びながら、通帳を見てため息を吐いた。
残高、三桁。三桁万円ではなくただの三桁。百の桁から始まる笑えない数字。これが今の現実であった。
数ヶ月前までは、俺は普通の会社員であった。
安定した給料をもらい、贅沢はできないまでも普通の一人暮らしができる。
そんな普通の30代
しかしそんな日常は、上司が笑顔で言った一言で終わりを迎える事になった。
「今月いっぱいでお願いね」
お願い。という仮面を被った通告だった。
それから、再就職は上手くいかず、退職金も家賃や光熱費などの生活費に消えて、今に至る。
「やっぱり、冒険者しかないのかねぇ」
この数ヶ月面接に落ち続けた俺の口から漏れたのは、元手0で始められる個人事業の名前だった。
◇◆
翌日、俺は早速冒険者になるために冒険者ギルドへやって来た。
個人事業と格好はつけたが、冒険者は届出も要らず、屋号もない。言うなれば日雇いのバイトである。
「元手0って、結構かかるじゃないか」
ダンジョンの入り口で、俺は文句を言った。
ダンジョンへは、冒険者ギルドに簡単な登録をすれば無料で入れる。
しかし、丸腰でダンジョンへ入るのは無謀なため、武具をレンタルしなければならない。
それに加えて初めてダンジョンに入るには初心者講習を受ける必要があった。
そのせいで、1番高いお札が一枚飛んでいってしまう。
「これで財布の中のお札は無くなった。元は取らないと、赤字では笑えない!」
俺は気合いを入れて、初心者講習引率の冒険者が来るのを待った。
「なんだおっさんかよ。今日は俺が引率するからよろしく〜」
指定された時間から10分ほど遅れてやって来たのは、俺よりも随分若い冒険者であった。
俺を見てあからさまにガッカリした顔をすると、やる気のなさげな挨拶をしてくる。
とはいえ俺は大人。それに教えてもらう立場である。
「今日はよろしくお願いします」
俺がそう言って頭を下げると、冒険者は興味なさげに「はいはい」と相槌を打った。
「まずはダンジョンに入ってスキルを取ろっか」
「スキルですか?」
「はぁ、それくらい勉強してこいよ」
冒険者は面倒臭そうにしながらも、ちゃんと説明してくれる。
冒険者は初めてダンジョンへ入った時に、一つスキルを授かるのだそうだ。
そのスキルによって冒険者としての適性が測れるらしい。
「俺は1000人に1人って言われる剛剣スキルの持ち主で期待の新人なわけ。ランクアップのためじゃなかったらおっさんなんか話す機会もないんだぜ? だから、俺に教えてもらえる幸運を感謝しろよな!」
指導してくれる冒険者は、説明の間に脱線して自慢話に変わり、機嫌を良くしたようである。
「は、はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、行くか!」
説明が終わるといよいよダンジョンへと入る。
先にスタスタと進んでいく冒険者の後を、俺はおっかなびっくりとついて行く。
「それじゃ、どんなスキルを覚えたか教えてくれ。後で受付に報告すんのも忘れんなよ、俺の審査に響くから」
「分かりました」
「ま、一般的な何ちゃら使いだろうけどな。あ! 剣以外ならレンタル交換に行かないといけないじゃん、面倒くさ! 勝手に武器借りてんなよな」
俺がスキルを確認している横で、冒険者がブツブツとはなしている。
先ほどの説明の時に教えてもらった通りにスキルを確認する。ダンジョン内では自分のステータスが確認できるようになるというのも不思議なものだ。
俺のスキルの項目には《
「えっと、神剣ですね——」
「ハァ?」
俺がスキルを伝えると、冒険者は大声を上げた。
「神様の神に剣って書いて神剣です」
わかりにくかったかと思い、俺はもう一度分かりやすく自分のスキルを説明する。
しかし、どうやらそう言う事ではなかったらしい。
「嘘つくなよ! 神剣って、
「え、ええ。」
「ありえない! 神の付くスキルなんて歴史上2人目だぞ?」
冒険者はそう言いながら俺の方を睨んだ。
「そ、そう言われましても、ステータスは他人に見せられないんですか?」
「受付でないと無理だよ……ああ、まあいいや。初心者講習が終わったら確認すれば」
冒険者はそう言ってニヤリと笑うと、腰から剣を抜いた。
「ついて来な。まずは魔物との戦い方を教えてやる」
冒険者に連れられて、俺はダンジョンのだいぶ遠くまでやって来たように思う。
「お、あったあった。それじゃ、おっさん……」
冒険者の声に、俺はいよいよかと気合いを入れる。
「運が悪かったな」
そう言って、冒険者はダンジョンに生えている木の実を潰した。
「どう言うことですか?」
訳が分からず尋ねる俺に、冒険者はニヤリと笑う。
「神剣なんてスキルを手に入れたばっかりになぁ、受付で報告しなけりゃ居なかったのとおなじだから。だからおっさんは、ここで死んでくれよな」
そう言うと、冒険者は一目散にこの場所から去って行った。
「な、どういうことだよ?」
俺が混乱する中、ダンジョンの床が揺れた気がした。
そして次の瞬間、この部屋に繋がる通路の至る場所から体に鱗があるネズミが向かってくる。
「あれが魔物! た、戦わないと!」
剣を構えるが、俺は剣道も習った事がない。
「うわぁ! ダメだ! こっちに来るな!」
迫り来る魔物の群れに、俺は剣を振り回しながらそう叫んだ。
「助けるわ!」
俺の横を人影が風のように駆け抜け、飛びかかってくる魔物を真っ二つに切り裂いた。
そして俺を守るように、迫り来る魔物の群れを次々に倒していく。
「た、助かった……」
俺は目の前に立つジャージ姿の少女を見てそう呟いた。
「あなた、グエの実を潰したでしょ? あれは触っちゃダメだって初心者講習で習わなかった?」
魔物を倒し終わった少女は、そう言って俺の方へ振り向いた。その表情からは、呆れが伺える。
「俺じゃないんだ。初心者講習を受けていたら引率の冒険者が実を潰してどこか行っちまったんだよ!」
「そんな馬鹿な事……」
少女は絶句しながら剣を鞘にしまった。その動きで、ジャージの上から付けている防具がカシャリと音を立てる。
「でも、助かったよ。ありがとう」
俺がお礼を言うと、少女は難しい顔をして俺を見ている。
「いいわ、私が初心者講習をしてあげる」
「え、いいんですか?」
「いきなり敬語ね。いいわよ、一応経験はあるし初心者講習くらいなら帰り道でできるしね」
少女は俺が落ち着いて敬語に戻った事にくすりと笑った。
「よろしくお願いします」
「敬語じゃなくてもいいわよ。私は
「えっと、俺は
その後、出口へ送ってもらいながら俺は来栖さんから初心者講習を受けた。
触ってはいけないグエの実は既に体験していたので、魔物との戦闘やダンジョンでのマナーなど。
そして最後に、受付で魔石や素材の換金方法。
「ありがとう。助かったよ」
「受付の人引率が変わってた事に驚いてたね」
来栖さんがそう言ってクスリと笑った。
「それにしても神剣か、山田さんは成長すればすごい冒険者になるかもね」
スキルは取得しただけでは一般人と変わらないのだそう。
ダンジョンで経験をつんで成長して初めて力になる。その成長率もスキルによって違うのだとか。
先の長い話である。
「しかし、冒険者って言ってもそんなに稼げないんだな」
今日は1日ダンジョンにいたが、4000円と普通のバイトより少なかった。
「まあ、今日は初心者講習だしね。もう少し魔物を倒したり素材を取ったりすれば普通のバイトよりも稼げるよ」
有名な冒険者は月何百万、それ以上に稼ぐとか聞くが、初めからそういうわけではないのだ。
最後に来栖さんにお礼を言って、俺は冒険者ギルドを出た。
家に帰る途中でスーパーに寄り道して、今日の報酬で半額弁当と発泡酒を買ってから家へと帰る。
部屋に入ると、そのままテーブルに弁当と発泡酒を置いて、適当にテレビをつけた。
「しかし、今日は来栖さんがいなけりゃ死んでたよな。命の危険のある仕事か。これからやってけんのかな?」
弁当と発泡酒で一杯やりながら、俺は1人でそう呟いた。
明日からは1人でダンジョン探索をするのだ。
来栖さんに教えてもらって今日は魔物を倒せたものの、最初に死の恐怖を体験した事から不安が募る。
『本日は、宝くじの当選発表でしたね!』
今後の事を考えていると、テレビからそんな話題が聞こえてくる。
「あー、そういや俺も買ったっけか」
俺は机に缶を置いて、財布を取りに立ち上がる。
会社をクビになった日、帰り道にヤケになって財布の中身を全部使って宝くじを買っていたのだ。
「一万円でも当たってねえかな」
俺は財布の中からクジを取り出して、スマホで当選結果を調べる。
一枚、二枚と、外れクジをめくって机に置いていく途中で、俺は手を止めた。
「ん?」
一桁目、一致、二桁目も一致している。
三桁、四桁、五桁……組番まで、全てが一致した?
「は、はぁ、はぁ」
クジを持つ手が震えて、呼吸が荒くなる。
「あ、当たってる! 一等、30億!」
連番だから前後賞も当たってるはずだ。
嘘みたいな出来事に、自然と笑いが込み上げてくる。
「これってもう、冒険者やめていいよな?」
俺は誰もいない部屋で、そう呟いたのであった。
◆◇
あとがき
新作『異世界勇車ブレイブカイザー』
スキルをもらえなかった男と勇者になった愛車が織りなす異世界冒険ファンタジー!
ぜひ読んでね!
https://kakuyomu.jp/works/822139841839485227/episodes/822139841894029082
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