第6話 宗門の任務

  炉陽峰から主峰の山麓へと続く石段がうねるように下っている。徐令(じょれい)の足取りは急かず遅からず、灰色の古びた道袍が山風にひらひらと翻っていた。


  彼の顔には習慣的な無表情と平静さが漂い、視線は低く垂れていた。まるで単に日課のように歩いているかのようだった。ただ、その瞳の奥深くに、かすかに鋭い光が宿っているだけだった。


それが、彼のこの度の目的——外門の功績堂(こうせきどう)へ向かっていることを示していた。


  功績堂は主峰の山麓、比較的开けた場所にある古びた建物で、歳月の重みを感じさせる。堂の扉は開け放たれ、弟子たちが次々と出入りしている。そのほとんどが足早で、焦りや期待、あるいは疲労の色を浮かべていた。


空気には汗の匂い、埃の匂い、そしてほのかな血の匂いが混ざっていた——危険な任務から帰還したばかりの弟子たちの身に残る生臭い気配だ。


  徐令は人混みに紛れ、まったく目立たなかった。堂内に足を踏み入れると、汗、古びた木材、そして微かに鉄錆(さび)の混じった匂いが鼻を衝いた。内部はかなり広く、四方の壁には大小様々な黒い木札がびっしりと掛けられていた。これが宗門の任務を掲示する「功績榜(こうせきぼう)」である。


  榜は三つの区域に分かれている。最も目立ち、一番高い位置にあるのは「甲等榜(こうとうぼう)」だ。掲示されている任務はごく僅かだが、どれも驚くべき功績点が記されており、数百から千点に及ぶものも珍しくない。


  内容も恐ろしい。


  ある危険地帯に巣食う三階(さんかい)の妖獣の掃討、上古の遺跡の外縁部の探索、敵対勢力の支配圏を横断しての重要物資の護送…。


これらの任務は、最低でも築基期(ちくきき)後期の実力が必要で、場合によっては小隊での協力も必要とされ、徐令のような煉気期(れんきき)の弟子が手を出せるものではない。


  徐令は内心でため息をつき、視線と足を次の区域へと移した。


  中央にあるのは「乙等榜(おつとうぼう)」だ。任務の数はかなり多く、功績点も数十から百数十点ほどと様々だ。


  任務内容は多岐にわたる。


  火霊根(かれいこん)を持つ者を条件とする、丹薬師の丹炉(たんろ)の火加減を補助する仕事、特定地域の中級霊草の採集、宗門から脱走した下級弟子の追跡、さらにはある長老の洞府(どうふ)で特定の薬草の世話をするものもあり、霊植術(れいしょくじゅつ)に長けていることが求められた…。


  これらの任務は難易度や危険度にばらつきがあり、一定の実力や専門技能が必要だが、報酬は比較的見合っている。


  徐令は素早く目を通し、リスクとリターンを心の中で評価した。丹炉の火番?炉陽峰にいるのはもう十分だ。それに火霊根も持っていない。脱走者追跡?やめておこう。薬草の世話?経験を積みたいと思っていたが、王二狗(ワン・アルゴウ)に先を越されてしまった。


  彼の視線は最終的に、一番下、最も面積が広く、木札がびっしりと掛けられた「丙等榜(へいとうぼう)」へと落ちた。


  ここの任務こそが、煉気期の底辺弟子たちの主な選択肢だった。功績点も惨めなほど少なく、ほとんどが一点から十点の間だ。


  「符箓堂(ふろくどう)のため、基礎符墨(ふぼく)の原料『青金石(ラピスラズリ)』粉末百斤(きん)を磨(す)る。功績点三」


  「宗門後山の外縁十里(じゅうり)の区域を巡視、連続一ヶ月。功績点十。野獣及び不審者に警戒すること」


  「『凝星草(ぎょうせいそう)』百株を採集。功績点五。場所:山門より東五十里(ごじゅうり)、大花坡(だいかは)」


  …


  徐令は、こうした煩雑で時間がかかり、報酬の乏しい任務を平静な目で流し見ながら、内心驚いていた。功績点の獲得がこんなにも困難だというのに、前世の普通の弟子たちは、どうやってここから築基丹(ちくきたん)を手に入れていたのだろうか。まったくもって大したものだ。


  時間が少しずつ過ぎていく。堂内の人の入れ替わりが何度もあった。徐令はほぼ丙等榜全体を見渡したが、まだ特に適した任務は見つからなかった。功績点が低すぎて時間がかかりすぎるもの、場所が遠すぎて移動中のリスクが管理できないもの、自分がまだ持っていない特殊技能を必要とするもの…。


  一時的に諦めて、また改めて来るつもりでいた時、彼の視線がふと丙等榜の一番右下の隅、他の木札よりずっと古びて埃にまみれかけた札の上を掠めた。そこにはややかすれた筆跡でこう記されていた。


  【『粋晶石(スイショウセキ)』を買い取る】


  【要求:品位良好、損傷なく、霊力に重大な流失がないもの】


  【数量:三塊】


  【功績点:三十】


  【発布者:器堂(きどう)】


  「粋晶石?」徐令の心が動いた。


  彼はこのものを知っていた。稀世の珍宝(ちんぽう)というわけではないが、どこにでもあるような下等品でもない。それは精純な金と土、二つの属性を内包した特殊な鉱石で、非常に硬く、中級法具(ほうぐ)を煉製(れんせい)する際に、その切れ味や堅牢さを高める補助材料としてよく用いられた。


  その特殊な属性と形成の難しさゆえに、通常は築基期以上の修道士か、器堂のような場所でなければ必要とされなかった。普通の煉気期の弟子が手にしても使い道がなく、普通は直接霊石(れいせき)に換えるものだった。


  しかし今、徐令の注目点はその三十功績点にあった。


  この数字は丙等榜において、あまりにも魅力的だった!何しろ築基丹には丸々三百功績点が必要なのだ。糞尿処理や鉱石を磨くような任務では、死に物狂いで数ヶ月働いても二十点に満たないかもしれない。それに対し、粋晶石一塊が、骨の折れる「五点」任務十個分に相当するのだ!


  「なぜこんなに報酬が良いんだ?」


  徐令は小声で呟き、両手を背中に組み、そこに立ってしばし考え込んだ。


  粋晶石の価値は、宗門内での取引では、十顆(か)ほどの下品霊石(げひんれいせき)に相当する。一方、三十功績点は功績堂で霊石に換えると、二十顆ほどの下品霊石に換算できる。


  見た目には妥当、むしろ発布者である器堂が少し損をしているようにさえ見える。功績点自体の価値は霊石よりわずかに高い。なぜなら霊石では交換できない特殊な資源と交換できるからだ。


  しかし、肝心なのは、発布者である器堂が、たかが三塊の粋晶石を欠くことがあるのか?ということだ。それに、これほど目立たない隅に掲示されているのは、人に気づいてほしいのか、それとも気づかれたくないのか?


  長いためらいの後、徐令はついにその任務を指さした。白い光が一瞬光ると、その任務を彼が受領したことが示された。


  『確か、前世に任務で隊を率いていた時、これを見たことがある』


  彼はそのことを思い出した。

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