第3話 笑い話
「今度は、僕から質問しても良いかな」
「は、はい。勿論です」
「君は……ソロで活動するタイプの冒険者なのかな」
当然の認識ではあるが、セイルから視てヴァニスは非常に弱い。
雰囲気からして、まだ冒険者として活動を始めたばかりとも思えない。
だが……それが余計に、ヴァニスが弱いという証明になる。
特に特殊な力を持っているタイプにも思えず、ソロで活動するには向いていない。
「っ……その、実は」
おそらく全てを見抜かれていると思い、ヴァニスは仲間に裏切られ、囮にされたことを素直に話した。
「まぁ、今思えば一宝級の俺は正真正銘のお荷物ですから、あぁなるのも……仕方なかったのかなって、思いますけど」
「……確かに、冒険者の世界は弱肉強食という風潮がある。僕は、その全てを否定するつもりはない」
「っ……」
「しかし、それとパーティーメンバーをそういった扱いをするのは、話は別だと思っている」
「っっっ!!!」
セイルの言葉に、ヴァニスは堪えようと思った涙を堪えられなかった。
「勿論、パーティーを組む際に、利害の一致という理由で組む場合もある。それも否定するところではない。けど、ヴァニス君の場合は、そういった例ではないのだろう」
「……っ……はい」
少し前まで共に行動していたメンバーは、冒険者として活動を始めて、初めて組んだメンバー……ではない。
一宝級と実力は最底辺ではあるが、それでも冒険者として数年以上活動し続けている。
固定パーティーを組んだのは一度や二度ではない。
今回のパーティーに関しては気が合い、共に頑張って今よりも良い生活を目指そうぜ!!!! と、確かな目標を決めたパーティーだった。
「仮に君以外のメンバーが、ヴァニス君をそういった要員として引き入れたのであれば、彼らの人間性が終わっているという話だよ。勿論、冒険者は時には非情な判断を下さなければならない。でも、最初からそういった目的でパーティーを組むのは、良い意味での非情な判断ではない」
「…………」
「だから、そう自分を卑下する必要はないよ」
「っ、あ、ありがとう、ございます」
涙が、抑えきれなかった。
あまり歳が変わらない同性に慰めてもらい、涙をボロボロと零す。
酔って泣き上戸になっているわけではないことを考えれば、やはり恥ずかしい。
それでも少しの間……ヴァニスは涙を流し続けた。
そして涙が止まった後も、二人は会話を続けた。
というよりも、殆どヴァニスがセイルに質問する形が続いた。
冒険者として活動し続けておおよそ四年。
彼にとっては冒険と言える戦いも経験はしているが、それでも他の同業者たちからすれば大きな冒険ではなく、特に面白味もない。
だが、セイルがこれまで体験してきた冒険は、全てが英雄譚と言っても過言ではない。
セイルはこれまで瞬殺したリザードマンウォーリアー以上の力を持つモンスターと何度も戦い、勝利してきている。
そして彼自身が貴族出身ということもあり、貴族同士や騎士同士の争いに巻き込まれたり、次元の扉という異空間へ続くダンジョンの探索。
討伐した魔王は絶鬼・ルインオーガだけではなく、他の魔王も討伐している。
加えて……セイルは恥ずかしそうにしながら答えたのだが、彼に関わる恋愛話。
現代の英雄と呼ばれるだけあって、彼に言いよる女性、本気で恋をする女性は多い。
「えっ……そ、そうだったんですか」
「意外かい?」
「は、はい。セイルさんなら、失恋なんて経験しないと思ってて」
意外にも失恋の経験があると聞き、リザードマンウォーリアーが瞬殺された光景よりも驚きを零すヴァニス。
「な~~に、よくある話だよ。僕がその人に恋をしたとき、僕はまだ若くて、その人は少し歳上だった。あの人にとって……僕は、手の掛かる弟だった」
その話は、セイルの当時を知る人物しか知らない貴重な話だった。
貴族の令息時代から勤勉であり、研磨を休まず続ける光り輝く原石だったセイルは、冒険者として英雄の道を歩み始めてからあっという間に頭角を現し始めた。
その時点で彼に恋心を持つ女性冒険者、受付嬢がそれなりにいたが、セイルが気になっていた受付嬢は彼がやや自慢するように功績を告げても、ふふっと笑みを浮かべながら……それこそ弟と接するような優しい態度で褒めた。
それはセイルにとって求めているのと違った態度でありつつも、なんだかんだでそんなやり取りが嫌いではなかった。
ある時、種族の違うモンスターが群れで行動するようになり、冒険者だけではなく村にも被害が出るようになり、大規模の討伐作戦が行われた。
セイルはルーキーながら、その討伐作戦のメンバーに選ばれた。
「あの時のことは良く覚えてるよ。絶対に活躍してやるって気持ちで満ち溢れてた。活躍して、功績を上げて……あの人に、告白しようと決めてた」
「そ、そうなんですね」
赤裸々に話してくれることは、正直嬉しい。
しかし、今のセイルを見て……あまり恋を成就させようと燃え上がる英雄の姿がイメージ出来なかった。
「目標は、半分達成出来た」
「半分、ですか」
「うん。冒険者として活動を始めてから一番ボロボロになった。それでも、群れの長だったモンスターに止めを刺すことが出来た」
セイル一人で討伐したわけではなかったが、最初から最後までその長モンスターと戦っていたため、彼がラストアタックを決めたことに文句を口にすることはなく、それは紛れもなくセイルの功績だった。
「ただ、その大規模討伐で、俺に目を掛けて……よく声を掛けてくれてた先輩冒険者が、後輩を庇う為に左腕を犠牲にしたんだ」
「それは……その……」
「後から知った話なんだけど、その先輩と僕が想ってた人はこっそり付き合ってたらしくてね。でも、片腕を失うというハンデを背負って、先輩は引退と……あの人と別れることを選んだんだ」
片腕を失っては、戦力は半減。
冒険者として死んだも同然とはならず、上げた宝級が下がることもないが、それでも大きな不安要素となる。
「その時、僕は思ってしまったんだ。自分にもチャンスが転がってきたんじゃないかって」
「…………」
「軽蔑するかい?」
「い、いえ。そんな事はないです。正直、俺もセイルさんの立場なら、同じ事を考えたと思ったんで」
ただ、一般的な人間らしい考えが浮かぶこともあるんだと、少しだけ意外に思った。
「そうか……ありがとう。まぁ、結局今の僕に伴侶がいないってことは、そういう事なんだけどね」
「その、フラれてしまったと」
「……結局、告白は出来なかったんだ。あの人が、片腕を失った事を理由に別れを告げる先輩に対し、変わらずあなたの事が好きだって、愛してるって……片腕を失ってしまったのなら、私があなたを支えるって……泣きながら伝えてるところを見てしまったんだ」
「…………」
ヴァニスは、話を聞くだけでも色んな意味で胸が締め付けられる。
「その光景を見て、僕が入り込む隙間は全くなかったんだって思い知らされたよ」
最後まで笑いながら語ったセイル。
彼にとってはもう過去の笑い話ではあるが、まだ多くの面で未熟であるヴァニスにとっては、なんとも同情してしまう話だった。
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