急展開

「寝れた?」


「寝てた」


ストーカー騒動から次の日。

休憩室で仮眠をとっていたらいつの間にかぐっすり眠っていた。

シャワーもあって、エアコンもあって意外と普通に寝ることが

できた、自身が意外と肝が据わっていたことに驚く。


休憩室のドアが閉まり、外の喧騒が遠ざかった。

星凪は椅子に腰を落とし、息を整える。

美桜は水の入った紙コップを手渡し、自分は窓のカーテンを引いた。


「……あんたは、なんで俺を女にしたんだ」


やっと出た。喉にずっと詰まっていた疑問だ。

美桜はその質問を待っていたかのように、ゆっくり息を吐いた。


「端的に言う。あなたは“素材”として最適だったからよ」


「‥‥…はい?」


「人間だけど、普通の人間じゃない。

一度死んで蘇った、心当たりはあるんでしょ?」


なんでそれを知っている?

それを言う前に、美桜は淡々と続ける。


「魂が一度抜けて、また定着する。

定着した肉体には“癖”が付くの。使い込んだ靴みたいにね。

その癖が人間が死んで蘇る過程を安定させる触媒として、

極めて都合がいい。学術的に説明すると複雑だけど、

簡単に言えば君の体は『復元の土台』になりうるってこと」


「ちょっと待て、それって……つまり、あんたは俺の体を使って

誰かを生き返らせようとしてるってのか?」


美桜は首を横に振り否定する。


「私では無いわ、あなたの体を欲しがってる相手は組織よ。」


「君の体が条件を満たしていた。彼が装置と君のデータを照合した時、

該当した──それで事態が動き始めたの。この顔に覚えはない?」


美桜は一枚の写真を俺にわたす

その顔に見覚えのある顔だ、うちのアパート大家が写っていた


「大家じゃん...うん?まって【彼】って」


「しっているようね、まあえーとその、

彼が彼女になったのは端折らせて。」


「話を続けるは組織の連中は、ある装置を再稼働させようとしてる。

その装置が転生者の肉体を必要とする。

偶然にも、該当した君が事態を加速させた。」


「ちょっと待ってそれがどうして女になった理由になる

てかこの体、誰の!?」


「理由は今から話すは」


水をぐびっとのみ一息ついてから話し出す。


「理由は二つある」


美桜は指を二本立てた。


「一つは、計画を遅らせるため。二つ目は、連中に近づくため」


「わけわからん。遅らせるって、どうやって?」


「女心。男としての癖が深く刻まれている君の肉体に、

女としての習慣や感情が入ると、元の“癖”が変化する。

癖が変われば、装置が要求する『完全再生の条件』が崩れる。

つまり、計画が失敗する可能性が生まれる。時間を稼げば、

私たちに援軍が来る。」


「お前……それが正当化になるのか?

人の体を勝手にいじって、女にして!」


美桜の掌は微動だにしない。声は冷たいが一言一言に重みがあった。


「計画が動き出し、時間を作る手段が必要だった。

性転換または入れ替わりをすることで君に“女”を意識させることが、

遅延の鍵になる。」


「じゃあお前は俺を元から、壊すつもりだったのか!

お前の言う、援軍ってやつが来るまで!」


胸の中で何かが詰まる。怒りだけじゃない、

裏切られた悲しみが波のように押し寄せる。

美桜は一瞬だけ目を閉じた。そこに、かすかな疲労が見える。


「壊すつもりはなかった。だが、そう見えるのは当然だわ。

君の気持ちは全部分かる。だから必要最低限しか言ってない」


「何が“必要最低限”だよ! 全部言え!」


叫びが空気を震わせる。休憩室の壁に反響して、

自分の声が小さくなって戻ってくる。


「全部言うと……世界が終わるなんて言わない。だけど、そうなれば作戦は終わり。私はそれを避ける。」


美桜の言葉が止まる。指先でテーブルの縁を弾き

瞳が一瞬だけ遠くを見た。


「避ける?ふざけんな!、なんで最初に話さなかった!」


「さっきと同じことを繰り返すが、君がそれを知ると、

君は恐怖で身動きできなくなる。」


美桜の声に、かすかな怒りが混じる。


「君を道具として使うつもりだった連中と同じだと私を責めるの?」


「同じだろうが!、人の身体を勝手に使って

見知らぬ誰かの体に入れやがって!」


星凪は立ち上がり、拳を握りしめ、目の前の女を睨む。

美桜はそれをじっと見つめ、やがて立ち上がった。


「どこへ、行くつもりだ?」


「お前がいないとこ」


人の体を勝手に女にして、事情をほとんど話さないやつを

信じることはできない。


「全部教えろって? そうしたら君は動けなくなる。あるいは、連中にすべてが伝わる。作戦が終わる前に君が標的になるかもしれない。正直に言えば、全部を知ることで君はもう戦えなくなる。私はそれを避けたい」


「避けたいって…それなら最初から話せよ。

勝手に決めて。俺の意志はどこにあるんだ?」


その怒りは痛いほど真っ直ぐで、自分でも驚くほど声が大きい。

拳が汗で滑る。美桜はじっと俺の顔を見つめ、

決して目をそらさなかった。


「私は元々、そういう“世界”にいた人間よ。だから、

君の体のことや装置の存在を知っていた。だが、

それがどう転ぶかを全部言うと、君はただの哀れな被害者になる。」


「元々そういう世界にいた……って、

要するにあんたは工作員だって言いたいのかよ?」


「呼び方はどうでもいい。重要なのは、


その時、外から金属がひしゃげる轟音が響いた。


ガラス窓の外、灰色の巨体が現れる。

ダンプカーだ。エンジンが唸り、荷台が突き破るように

正面の壁へ突進してくる。

タイヤが悲鳴を上げ、コンクリートが粉砕され、

休憩室の外壁が崩れ、室内に土煙と破片が吹き込む。


荷台から複数の人物がゾロゾロと降りてくる


『Den Mann! Schnell! Mitnehmen!

(そいつだ!急げ!連れて行け!)』


「MP40⁉ってナチスかよ!」


全員がバラバラの服装ではあるが、

全員MP40で武装した謎の集団は俺に指を指して何かを言うと

こちらに走り出してくる。


「逃げろ!」


「どこに⁉、イデデ!」


美桜が俺に逃げろといいそのまま背を向けて

走り出そうとするも、髪を掴まれ動けなくなった瞬間

何かを首筋に当てられ、俺は意識を失った。

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