エピソード2.5 かつてのクラスメイトの罵倒

〈エピソード2.5 かつてのクラスメイトの罵倒〉


「やっぱり、クライスター社の流すゲームの映像は凄いな! 全部、CGで作っているらしいが、現実の世界の映像と見分けがつかないぞ」


 駅のホームで電車を待っているサラリーマンの男がスマホを片手に興奮していた。


「ドラゴンを倒したシュウイチもめちゃくちゃ格好良かったし、俺もこんな強い男になりたかった!」


 男は熱い思いを込めるようにギュッと握り拳を作る。


「でも、この映像に出て来るシュウイチの顔はどっかで見たことがあるんだよなー」


 男は自らの記憶を手繰り寄せながら小首を傾げる。


「まさかとは思うが、高校の時のクラスメイトだった桂木修一がモデルになってるんじゃないよな?」


 そう言うと、男は嫌な人物に思い当たったような顔をする。


「でも、あいつの親友だった杉浦康太はクライスター社のシステム・エンジニアをしてるって言うからな」


 男は画面に映るシュウイチの顔をじっと見詰めながら言葉を続ける。


「この映像を見る限り、あながち偶然じゃないかもしれない」


 ちなみに、杉浦康太とは二年くらい前に開かれた高校の同窓会で顔を合わせた。


 そこで、康太からやり甲斐のあるシステム・エンジニアの仕事をしながら良い暮らしをしていることを聞いたのだ。


 一方、修一はと言うと、不参加の連絡すらせず、一度たりとも同窓会の会場に姿を見せることはなかった。


 そのことを思い出すと、男の心にも沸々と怒りが込み上げてくる。


「あのクズ、俺が幹事をやっていた同窓会の誘いを蹴りやがってっ!」


 男はスマホを叩きつけたくなるような衝動に駆られながら更に口を開く。


「俺は五回も誘いのメールを送ってやったんだぞ。なのに、それを全部無視するなんて、一体、何様のつもりだっ!」


 爽やかだった男の声に抑えきれない悪意が滲む。


「ま、あいつみたいな無職でニートのクズ男に来られても、場の空気が悪くなるだけだから良かったけどなっ!」


 噴き出す悪意の言葉は止まらないし、男の脳裏には写真で見たことがある、まるで浮浪者のように汚らしい修一の姿が浮かんでいた。


「あんなクズはどこかで野たれ死ねば良いんだっ! 杉浦もあんなクズの友達は止めろっつーの! ホント、あいつはゴミクズだっ! 死ね、死ね、死ねっ!」


 男は腸が煮えくり返っているような声で悪意ある言葉を出しきると、また心の穏やかさを取り戻す。


「とにかく、ゲーム映像の再生回数が十億回を超えるなんて、とんでもないとしか言いようがない」


 平静になった男は、再びスマホの画面に視線を落とす。


「この映像が使われてるゲームが発売されたら絶対、買うぞ」


 男はホームに電車がやって来たのを見ると、スマホをポケットに閉まって、ストレスの溜る仕事をしなければならない会社へと向かった。

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