第2話 甘い日常の始まり

 冷静沈着完璧美少女こと水瀬美乃梨がどうして俺にこんなにも甘えてくるのか…

 その経緯についてお話ししようと思う。


 時は1ヶ月ほど前。

 まだ春風の残り香が残る時期だった。


 今年の春に引っ越したばかりの家や街に丁度馴染んできたところだった。


 いつも通り学校終わり放課後、俺は真っ直ぐに自宅に帰宅し1人家で自室のベットでダラダラ徒然なるままに過ごしていた時だった。


 ピンポーンと家のインターフォンが鳴ったのだった。あれ…宅配屋さんか何かかな…と思いつつ玄関のドアを開けた。


 「えっ…………」


 出てみると驚きだった。女神様が訪ねたのかと錯覚するほどの美少女が目の前にいたのだ。


 数秒後…その女神はなんとあの冷静沈着完璧美少女こと水瀬美乃梨が俺の家に訪ねてきたことに気がついた。

 

 学校では隣の席ではあるが、ここ1ヶ月まともに話した記憶はない。

 そんな彼女がなぜに俺の家を訪ねてきたのだ。


 「あら、こんにちは真田くん…いきなりごめんね」


 水瀬はそう言ってぺこっと礼儀よく頭を下げた。


 「……あっ…い…いや…別にそれは大丈夫だども…どうして水瀬さんが俺の家に?」


 まず、水瀬に俺の家の住所など教えてはいない。それどころか、友達にでさえまだ俺の家の住所など教えていなかったのだ。

 一体…どうして…どうやって俺の家に?

 俺のクエスチョンは尽きず、パニックになった。


 「……どうしてって…真田くんがこの家に入るのが見えたからなんとなく…」


 俺がこの家に入るところを見たからだって?

 なぜ、そんなところを見られた?


 「なんで、俺が入るところを?!」


 もしかして水瀬は俺のことをストー…


 「ん?私の家…そこなんだよね…」


 水瀬が指差す方向には周りの家より一回り大きい高級そうな家が建っていた。

 ああ…その家は引っ越した時からめちゃくちゃ豪邸だと思ってたんだよね…って水瀬の家かよ!!


 驚いたことに水瀬の家は偶然にも運命的にも俺の家の向かいだったのだ。


 「……あっ…あの家…水瀬さんの家…なんだ…」


 開いた方が塞がらなかった。

 どうして今まで気づかなかったのか…

 そういや…家の名札に水瀬って書いてたな…だけどもまさかあの冷静沈着完璧美少女の水瀬美乃梨の家だとは思わないでしょ…

 灯台下暗しとはこのことか。


 「うん…部屋からぼんやり外を眺めてたら偶然にも真田くんがこの家に入って行くのを見てね…で、何となく訪ねてみた…」


 なるほど…わからん!

 第一に俺の家かは定かではないだろ…もしかしたら俺が友達に家に入ったという可能性もあるわけで…でもそれを確認する為だもしても…

 明日、俺に直接聞けばいいし…仮に俺の家だもしてもわざわざなんとなくでも訪ねるメリットはないように思うけれど。

 てか名札を見ればわかるしな…


 「そ…そうなんだ…へぇ」


 俺は辿々しく目を逸らした。

 美少女と話すのは慣れていない。

 故に面と向かって正面から水瀬を見れない。


 「うん…私たちこんなに近くの家に住んでるのに1ヶ月近くも気づかなかったね…」


 「ああ…そうだね…ってか、ここで立ち話も何だし…中に入る?」


 今思えばなぜこんな大胆不敵な言動をしてしまったのかと思う。

 女子…しかも美少女を家に招き入れるなんてよく言えたものだ。

 おそらくこの時はパニックなり慌てすぎて冷静な判断、思考、表現ができなかったのだろう。

 

 「えっ………」


 水瀬は少し驚いたような表情を浮かべた。

 あっ…まずい絶対断れる…内心コイツキモ!とか思われてそう…

 やっちまったか……?

 今すぐに不快な気持ちさせてしまった謝罪を土下座にてするべきか?

 

 「いいの?」


 「へっ?」


 まさかの返答に俺は驚いた。

 

 「家に入って…いいの?」


 水瀬は言う。


 「も…もちろん!どうぞ、どうぞ!」


 てな感じでなぜだか水瀬を家に招き入れることに成功したのだった。

 絶対に断られると思ってはいたのだが…案の定水瀬は家に入った。


 そして、流れるようにとりあえずの自室へ案内した。いや、させていただいた。

 

 「ここが…真田くんの部屋…」


 俺の部屋に入っての水瀬の第一声だった。

 

 「ああ…ごめん…少し汚いけど…」


 その時の俺の内心は「ああ…昨日掃除しといてよかった!」と安堵していた。

 とはいえ、美少女を招き入れるほどのご立派な部屋ではない。

 少し申し訳なくなった。


 「いえ…お構いなく…」

 

 水瀬はそっと俺のベットに座った。

 椅子を用意しようと思ったのだが、必要無くなったようだ。


 「………ねぇ……真田くん……」


 「はい?」


 水瀬は少しの沈黙の後口を開いた。


 「いやだったら断ってもらっていいのだけども…」


 「はい…」


 なんだ?何を言われるんだ…?

 私を不愉快にさせた罪として今すぐ死ねとかだったらどうしよう…


 「ちょっと…私とハグしてくれない?」


 「へっ……?」


 俺は水瀬の言葉を理解するまで時間が掛かった。

 ハグ?バク?白?吐く?掃く?穿く?剝ぐ?

 一体水瀬は私と何をしてくれないと言ったのだろう…ハグ…な訳ないよな…?


 「あの…ごめん…もう一度…」


 「私と、ハグしてくれない?」


 水瀬は少し声量大きめに言った。


 うん…これはハグだ。

 間違いない。

 現に水瀬は俺に両手を広げている。

 まるで抱きしめてといわんばかりに。

 抱っことしてアピールする子供のように。


 俺は今だに現状の状況を理解できなかった。

 水瀬が俺にハグをして…だと?


 「………俺が?」


 「うん…真田くんが…」


 「水瀬さんに…?」


 「うん…私に…」


 「ハ……ハ…ハッ!」


 「グ……をして…って言ったのよ…」


 これは…夢か?

 それとも幻想?俺の馬鹿みたいな妄想?

 現実なのか…痛い…試しにほっぺをつねってみたが痛い…ということは紛れもない現実だ。


 「本当に…いいの?」


 一応確認する。


 「よくなかったら…してって言わないでしょ…」


 「じゃあ…失礼します…」


 俺は恐る恐る水瀬とハグをした。

 こんな美少女とハグをするなんて神に命を授かってから初めてだ。

 クッ…心臓が暴れる。駄目だ…緊張しすぎてヤバい…

 てか…めちゃくちゃいい匂い…

 これが…水瀬の匂い…ってそんな変態みたいなこと考えては駄目だ!

 平常心、平常心!


 「………スン…スンスン」


 うん?水瀬何している……って、水瀬が俺の匂いを嗅いでいる!待て待て…こんな俺の匂いを嗅がれてしまったら…絶対臭いって思われる!ああ…今日体育あったし、絶対汗臭い!

 ああ…この2秒後から起こるだろう未来が見えてきた…

 まず水瀬から「くっさ!今すぐ私から離れなさい!」って、突き放されるでしょ…

 その後、「こんな変態、悪臭野郎が私にハグしたなんて…大罪よ…死を持って罪を償いなさい…いえ、死ぬだけでは事足りないわね…苦しんで死んでその後は地獄に落ちて無限地獄で一生苦しみなさい」って言われるんだろうなぁ…

 

 「……真田くん……」


 「はっ…はい!」


 緊張が走る…俺は静かに固唾を飲み込んだ。

 一体…何と言われるのだろう。

 大丈夫、死ぬ覚悟はできている。


 「真田くん…好き」


 「ハァ!!?」


 えつ…好き?真田くん好きって言ったのか?

 真田くん死ね…じゃなくて!?

 

 「真田くんの匂い…好き…」


 ああ…匂い…か。

 うん…うん…えっ?俺の匂いが好きなのか?

 こんな汗臭いだろう、匂いが?


 「えっ…本当?その…臭く…ない?」


 水瀬の言葉はまことしやかに信じられなかった。


 「うん…臭くないよ…それどころかずっと嗅いでいたいぐらいにいい匂い…なんだか懐かしい匂い…」


 なんかめちゃくちゃ好評のようで…

 とりあえずは臭いって思われなくてよかった…まだ油断はできないが死刑は免れそう。

 

 「それは…よかった…」


 そっと胸を撫で下ろした。


 そう安堵していると…


 スリスリスリスリスリスリ…

 水瀬は俺の胸に頬を擦り付けた。


 「えっ…あっ!…えっ?」


 突然のことで俺はあたふたした。

 それから水瀬は30秒ほど俺の胸に頬を擦り付けた後、顔を上げた。


 「プファ〜」


 その水瀬の顔は何だか満足そうな表情を浮かべていた。

 てか…何だ?この状況?


 「ねぇ…真田くん一つ質問いいかしら?」


 突然の質問。

 こんな至近距離に水瀬の顔がある。 

 近い…俺が少しでも前に動けば顔が触れてしまうだろう。


 「あっ…うん…」

 

 質問はなんだろうか…

 多分「どう死にたい?」とかか?

 う〜んできれば…


 「真田くんって甘えたい派、甘えられたい派?」


 予想とは違う質問だった。

 甘えたい派と甘えられたい派だと?

 う〜ん…俺は…どちらかというと…

 

 「甘えられたい派かなぁ?」


 とりあえず正直に答えた。

 で…この質問が一体何だ?


 「私は甘えたい派なの…」


 そうなんですか…それは有益な情報で…

 

 「もう一つ質問…今みたいに私に甘えられた感想を教えて」


 甘えられた感想…

 さっきの行動は俺は甘えたつもりだったのか…

 感想…そうだな…


 「……正直にいうと…嬉しかった…」


 俺は正直に言った。

 こんな美少女に甘えられて嬉しくない男はいないだろう。


 「私に甘えられたら嬉しいの?迷惑とか嫌ではない?」


 「うん…迷惑でも嫌でもないよ…」

 

 こんな美少女に甘えられて嫌な男がいるのだろうか…


 「じゃあ、もっと甘えさせてって言ったら?」


 !?


 「水瀬さんが俺に甘えたいなら…別に…構わないけど…」


 正直、どちらかというと水瀬に甘えられたいってのが本心であった。

 水瀬みたいな完璧美少女に甘えられるとかもはやご褒美でしょ!


 「じゃ…じゃあさ…その…」


 あの水瀬が頬を赤らめてもじもじとしている…こんな水瀬の表情初めてみる…

 ってか…可愛いすぎだろ!


 「これから…真田くんにこうやって甘えてもいい?」


 …………さて…冷静になろうか俺。

 普段の何も後先考えない俺なら「もちろん!」とか叫んでいただろうが、念の為ちゃんと考えて…答えを出そ…


 「オフコース!!!!!!!」


 それから、俺が水瀬美乃梨に甘えられる日々が始まったのだった。




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