花に手を伸ばす

「元気にしているようでなによりよ」



島村しまむらとばったり会った後、昼は一緒に食べることにした。



それを聞いた茂は「一緒に食べる!」と押してきて聞かなかった。



「当然でしょう?僕がすぐ近くに居るからだ!」



と茂がテンション高くして島村に返した。



無論、三門も仲間入りになってしまう。



「元気もなければお前について行けねぇからな。どこでそんなギャーギャーする元気湧くんだよ、分けてほしいわ」



笑いながら購買で買ってきたパンをかじる三門。



はぁ…ゆっくりするつもりの昼休みがにぎやかになったなぁ…



茂と三門の言葉に島村はクスッと笑った。



……ん?いや、なんか俺を見て笑ったのか?気のせいか…



「相変わらずの三人ね。少し寂しく感じるぐらいだわ。」



「ああ、まあ、同じクラスなのはこの二人だけなんで、別に俺はいつも一緒ってわけじゃないんだ。」



島村の寂しそうな言葉を聞いた三門は慰めるように言った。



それには、俺は引っ張られたようにうなずいた。



「クラス分けが結局違ったんだよな。偶然でも寂しいけど、仕方ないさ。」



俺はそういうと、三門は意地悪な顔を茂に向けて、茶化す。



「救いと言えば、茂に絡まれなくて助かるけどな。」



「またそうやっていじわるする!もう話し聞かない!」



そっぽ向いて茂は拗ねる。そして何もなかったように全員そろって笑った。



平和な昼休みだ。



会話が落ち着くと、茂はまたごはんを口に含みながら話題を割り出す。



「そういえば、芝目さんと話で来た?」



危うく弁当を喉に詰まらせるところだった。むせているところ、三門はまたにやりとなった。



静けさは強い風と入れ替わったようだった。



「まーだ何もねぇのか、このチキンめ。」



「げほっ!ごほっ!う、うるさいな…!別にそうじゃないし…」



咽ながら慌ててペットボトルを開けてお茶を飲むと、興味がわいたか、島村が話に食いつく。



「なに、まだ芝目さんのこと気になっているの?」



もうほっとけ!



俺は話題をやめさせるように必死に手を前に振ったが、二人は頑固して弄ってくる。三人が1年のころ、最も親しい友達だったからか、俺は芝目さんの背中を目で追うようになったことに気づいていた。



たぶんそれは、去年の夏のころだった。体育で男子は陸上科目をすることになっていたに対して、女子の方は水泳。俺の目はその時芝目さんの方へと吸い込まれたように感じた。竦めている肩がどこかもろさを感じさせていた。



女子の方をじろりと見ていたことを気づいた茂は授業後にしつこくつついてきた。あの子か、その子か、どれも違う、そうじゃないと答えた。茂が芝目さんの名前を出した途端、俺は一瞬だけフリーズしてしまって否定するタイミングを逃した。



以降、茂は口が減らないせいで島村と三門にもバレるようになった。



本当にこいつは…!



弄りを受けながら二人に返しをするけど、気づけば島村は黙ったまま、ただ俺を見ていた。



何かあるわけではなく、口元も特に動いていなく。ただ俺を見ていた。



視線が重なったことに気づいたのか、島村はハッと視線を自分の弁当に戻した。



「二人ともそこまでにしてあげて。もう坂田くんが困ってるじゃない。昼休みもそろそろ終わるし。」



そうと優しく三門と茂に声をかけてくれた。まるで親の言葉を聞いてるように二人して「はーい」と言って残ってる弁当を食べ始める。



沈黙の食事がしばらく続く、そして仲良く完食した。三門と茂は先に弁当を洗いに校舎へ戻ったが、俺もそれに続くように立ち上がろうとすると島村が呼び止めた。



「ねえ、坂田くん、少しだけお話聞かせてもらえるかしら?」



「え?どうかしたのか?」



島村はどこか言葉と葛藤しているように見えた。それを見て俺は黙った島村の言葉を待った。



なんだか、らしくないな、島村。



「その…さっきの話…芝目さんことだけれど」



意識せずとも顔が苦い表情になっていくのを感じる。君も弄って来るのかよ…



などと脳内で構えたが次の優しい言葉で俺は足元をすくわれたように感じた。



「……結局諦めてないのよね?」



表情は柔らかいけど、それ以上は何も読み取れていない。ただの好奇心で聞いてきたのか、それとも別の何かがあるのか。



だけど俺はなぜか悪いことをしているように感じた。



「い、いや、その…気になっているって、そんなんじゃないし…」



芝目さんのことは見ていた。けど、俺は彼女を守りたいと思っているだけだと、そう自分で考えていた。



それだけだと…思っていた。



俺の返事を聞いた島村さんはため息をして立ち上がった。



「まったく、手の焼く男の子だわ…」



数歩校舎へ歩き出したが、俺の隣につくと一度立ち止まる。俺にだけ聞こえられるように。



「話掛けたいのよね?」



眉を寄せて唾をのんだ。心臓も少し荒くなったのを感じた。



島村の言葉に俺は芝目のことを頭の中に浮かべた。小さく、可愛く、どこか切なく、いつも一人でいるあの子。



何だか寂しそうな姿だった。



手に汗がにじみ、鼓動も速くなるのを耳で聞こえるぐらいだった。



俺はためらいながらもうなずいた。



「ま、まあ、そうだな。」



島村はその返事に、呆れたように鼻で笑った。



「素直になればいいのに…」



言葉とは別で口元がかすかに動いているように見えた。



違和感を覚えた俺は島村に問いかけるつもりだったが、その隙も与えず島村は続いた。



「実は資料室の整理を先生が手伝ってくれる生徒を探してるらしい。二人係の仕事だから、あなたと芝目さんがやったら?」



ーーえ?



「あ、でも、芝目さんを連れて行くのに抵抗があるなら、私からも一言言っておくよ。あの子、クラスメイトと交流してもらった方が為になるでしょうし。」



そうと言って、島村は小さく、優しい笑みを見せてきた。



きょとんとそのことばを聞いた俺は立ち尽くしてしまった。こんな俺にもクスッと島村が笑った。なんだか、弄ばれてるような気もしなくもないが、それ以上に応援されているような気がした。



どのみち、次に俺の頭の中の気分は自分でもはっきりと分かった。



「…ありがとうな、島村」



口は笑っているけど、なぜか目は違うように感じた。



「ふふ…いいのよ、坂田くん」



島村と一緒に校舎へ歩いたが、彼女はどこか上の空のように感じた。



でも理由まではよくわからなかった。



俺はあえて何も聞かず、そのまま歩き続けた

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