第1話 狂った世界と化け物

白河高等学校。

それは、日本が誇る最高峰の高校であり、主に………


………『怪盗ゲーム』に関することを学ぶ学び舎である。


朝のホームルーム前。

登校してきた学生たちの賑やかに話し声が響く教室。


話題はもちろんのことである。


「ねえねえ。昨日のゲーム見てた?」

「当り前じゃないの。が出るゲームなのよ?必見中の必見だわ」

「ね!昨日のも何が起きたのかわからなかったもの!いつの間にか宝を盗んで!私のハートも盗んでくれないかしら」

「ハハ!あんたじゃ無理だって!」

「なんでよ!」


女子生徒が黄色い声をあげ、について話す。


「おいおい。お前見たかよ?昨日のやつ」

「当り前だろ?あんな美人の出るゲーム。見ない奴いないって」

「だよな!昨日のも、おとりになって一人足止めしてたもんな」

「ああ。あれは凄かったよな。他のチームにも吸血鬼はいたけど。そいつは殺されてたし、あの『巡査長』もそれなりに腕の立つ奴だってのに」

「あの美人エルフの『怪盗』が殺される時の顔!最高だったわ。まじで」

「お前……やばいな………。まあ、ちょっとわかるけど」


男子生徒は死者を嘲り、について話す。


これが、この世界の日常である。


デスゲームが娯楽となった世界。

子供も大人も、誰もがショーとして死を笑う世界。


なんでかって?


だって『怪盗ゲーム』は…………


なのだから。


それぞれが当たり前に笑い合う教室のドアが開き。銀髪の少年があらわれた。


短めの銀色の髪。黒と赤のオッドアイ。身長は高くやや細身。それでもどっしりとした風格であり、決して頼りなく感じない。


指定の制服を少し気崩した格好は、もともと整っている容姿も含め、まるで俳優のようであった。


瞬間、生徒の視線が一斉にそっちを向く。


そして、皆がそのスーパースターに声を掛けだした。


「よう!あまね!昨日のゲーム凄かったな!!」

「よ!見ててくれたんだな!ありがとよ!」

「周君おはよう!昨日のゲーム見てたよ!」

「おはよう。そうか。そいつは嬉しいな」

「おい、周!なあなあ!あれ、どうやってやったんだよ!瞬間移動か?」

「さあね?マジックの種を明かすのはご法度だろ?」

「26連勝目なんだってね!おめでとう!」

「ああ。でも、まだまだだよ」


声を掛けられ、一人一人にすぐに返答を返す少年………佐藤さとう 周。

彼こそが世界最高の『怪盗』にして、26連勝という圧倒的な記録を打ち立て、昨日のゲームも当然のように勝利した『怪盗』である。


金メダリストをイメージしてくれればいいだろうか?それか、有名な動画投稿者とイメージしてもらってもよい。

もし、あなたのクラスメイトに同じような立場の人がいるとしよう。それはもう人気になる。世界が注目するような立場の人間に、彼らは光を追う蛾と同じように群がることとなる。それが当たり前。それが必然なのだ。


「今日もかっこいいね。周君」

「ね。強くてかっこいいとか、憧れちゃう」


だからと言って、普通ならば『怪盗』でここまで人気が出ることはない。『怪盗』は悪であり、化け物であるのが普通なのだから。


いや、だからこそなのかもしれない。の『怪盗』であるからこそ。彼の人気はすさまじいともいえる。


「ちょっと退いてくれない?邪魔なんだけど」


皆に笑顔を振りまく周。その後ろから、一人の少女が姿を現した。


外側は漆黒、内側は桃色に近い赤色のインナーカラーの髪は、ボブカットでさっぱりとしている。紅の瞳が鋭く光る、恐ろしいほど整った顔立ち。驚くほど白い肌。


それはまるで、一生で一度も太陽の光を受けていないかのようだ。


そして、彼女は制服を着ていない。黒いフリルのついた長袖のワンピースを着ており、足も黒のストッキングが覆っている。肌の露出を極限まで抑えた衣装。


扉の前でたむろしていた生徒たちがすごすごと引き下がっていく。


それだけの圧がその少女にはあった。


「やべー。水宮みなみやさんまじで怖え」

「な。いい意味でも悪い意味でも、ゲームのイメージそのまんまって感じ」


男子生徒が騒ぎ出す。しかし、それに少女は………水宮 しずくが興味を示すことはない。


雫はそのまま空いた道を歩き出し、自分の座席に座った。


周りを凍てつかせるような雰囲気。彼女の周りだけが切り取られ、冬でも訪れたかのようだ。


そんな真冬の空気に、向日葵が顔を出す。


「雫。どうしたんだい?機嫌が悪いようだが………なにかあったのかい?なあに。君と俺の仲だ。そこまで、ありがたがられる筋合いはないさ」


声を掛ける周に向けて冷めた視線を送る雫。


「別に。普段と変わらない」


そう、そっけなく返すものの。周は全く堪えた様子がない


「いいや。嘘だね。俺のデータによれば、普段と比べて14%ほどの苛立ちが見える。理由は皆目見当もつかないが……いや……もしかして、嫉妬かい?」

「は?きも」

「ハハハ!辛辣だね。だが、薔薇の花には棘があるもの。そこも含めて美しいというものさ」


そんな二人の様子は、もはやこのクラスでは定番のやり取りである。


「ひゅー。やっぱイメージ通りだわ。あの二人。ゲームも私生活も、仲悪そうだ」

「あれで、無敗ってのがすげえよな。世界一の『怪盗』は異次元だよ」

「そうだよな。俺が周なら、絶対『怪盗』なんかやりたくねえもん。だって、だぜ?」

「そうだよな。だって水宮はさ………」


男子生徒が噂する。間違った世界で。


最高峰の『怪盗』である周。そして、その助手である雫。タッグを組んでいる二人だが、仲がいいという噂はあまり耳にしない。互いに戦場で背中を預ける仲だというのに、不仲であるのは致命的に思える。だが、彼らの快進撃を止められた『警察』いない。


「なんか、いつもおんなじ感じだよね。ゲームでの連携は凄いのにさ」

「あれは、周君が合わせてるんだよ。一流の『怪盗』としてさ。まあ、中二病っぽいのは難点だけど」

「ねえ、やっぱりあの二人って付き合ってたりするのかな?」

「えー。そんなわけないじゃん。だって、だよ」

「そうだよね。だって水宮さんはさ………」


女子生徒が蔑む。狂った世界で。


「「吸血鬼化け物なんだからさ」」



おかしな世界では、水宮 雫は化け物である。



―怪盗ファイル―

佐藤 周

それは、世界最高の『怪盗』であり、人類唯一の『怪盗』。化け物と行動することに躊躇うことのない異常者である。

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