第1話 願掛けをしたら、乙女ゲームに入りました



毎週土曜日は、お参りの日と決めている。


『乙女ゲームにあやかって、大恋愛がしたいです。氏神様、どうぞよろしくお願いします!』


 叶えばいいな~ぐらいの半端な気持ちで手を合わせたのが、大間違いだった。

 願い方が誤解を招いたようだ。

 現実世界での大恋愛を望んだのに、【乙女ゲーム】の中に入れられてしまった。  


 気付いたら、左手の甲に、白いおみくじが乗っていたのだ。

 恐る恐る右手の人差し指と親指で摘まみ上げると、朱色で書かれた『おみくじ』という字が突然消えて、代わりにピンク色の文が、ぱっと浮かび上がった。


    『百円玉の分、叶えます。影のヒロインで、大恋愛して下さい』 


「えっ!?何それ!?」 


  花音は、極度の驚きで気絶した。


  目が覚めると、天蓋付きダブルベッドに寝ていたが、派手やか過ぎるピンク色で、目がチカチカした。

  紅色のシルクのシーツは触ると滑々で、ほっとして心が和んだが、枕もクッションも掛布団でさえ無いのが不自然だ。


   「ベッドの持ち主は、暑がりかな?」


  しかし、部屋は暖かい。

  起き上がって部屋を見渡すと、右手の巨大な壁炉へきろで、炎が赤々と燃えている。おかげで、室内は明るかった。


  窓は、正面の1カ所だけで、正方形の窓枠は1メートルも無い。

  部屋の広さと比べると、だいぶ小さかった。

  まるで、光を拒絶するような造りで、ぴしゃりと真ん中で閉められた遮光カーテンは、濃い緑色だった。


 「ちょっと不気味。多分、御屋敷の一室だと思うけど。あのおみくじ、本当に、乙女ゲームのヒロインになったの?ヒロインって、たいてい平民だよね?貴族でも、爵位は、男爵か子爵あたりだった筈……それにしては、全体として豪華すぎるような……」


 どの調度品も、輝きが国宝級に見える。  


  「中央のシャンデリア、装飾品かな?ダイヤモンドで作られてる。すっごく高そう」


  暖炉の上に飾られた子豚ほどの大きな置物を、じっと見つめた。


  「あの生き物は、ビーバーだよね。小学生の時に教科書で見たから、多分そう。もしかして純金?あの両目、サファイアかも」


   仮に王族の使用する一室だと聞かされても、納得がいく。


  「爵位と調度品の質は、関係ないのかな?お金持ちは、お金持ちだよね。だとしたら、別に可笑しくない。って、あれっ?」 


   室内装飾に気を取られていた花音は、ここにおいて自身の変貌に気付いた。


  「えっ、服装が違う。髪の色も、あおっ!?ヒロインなのに??」


   花音は、片手に持って確かめた。触ると、ウェーブが掛かって、ふわふわだ。 


  「これ、ラメかな?所々キラキラして綺麗」


  よく見れば、銀色がかって完璧な青色とは言えないが、初めて見る色で、鮮麗な色彩だった。  


  「この白いプリンセスドレス、誰の??私のジーンズとTシャツ、どこ??」


  どれだけ熱心に見渡しても、ネイビーブルーと、クリームイエローは、視界に入らない。


  「ドレッサーが無いから、顔立ちは確認できないけど。でも、ヒロインなら、そこそこ可愛いと思う」


  本物は、真ん丸顔で、鼻ぺちゃで若干タレ目、はっきり言って、モブ顔だ。

  長髪が似合わないので、子供の頃から伸ばしたことがない。

  しかし、ヒロインの髪は腰まで届く。


  「ヒロインの髪色は、ずっとピンク系だと思ってたけど、青系もあるの?私が知らないだけ?」


   花音は、首を傾げて呟くと、右手で鼻を触ってみた。


  「あ、割と高め」


   目蓋に、そっと左手を乗せると、まつげが長くて二重だった。

   最後に両手で、むぎゅっと顔を挟むと、思わず笑みがこぼれた。


  「多分、小顔。絶対、可愛い!」


   細身の部分だけ、ヒロインと同じだが、本来の背は145センチと低めだ。

   ヒロインは、手足が長い。絶対に、160センチある。

   ずっと憧れていた身長だ。もの凄く嬉しい。

   花音は、少し気持ちが上向いて、再度、窓際に目を向けた。

   そして、ぎょっとした。


   「誰??」


   金髪の青年が、赤い3人掛けソファに、仰向けになって眠っていた。

   その寝顔が、美し過ぎる。

   もはや疑う余地はない。ここは、乙女ゲームの中だ。

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