俺が魔法少女!?中二病でも世界は救えるらしい

瞬遥

第1章 異界より来たる白き運命 ①選ばれし者の日常-1


1.1.1 目覚めよ、堕天の使徒


──目を覚ました瞬間、俺はまず、横に置いたノートに目を向ける。


「……ふっ。」


心の中でうなずきながら、手を伸ばす。

そのノートには、俺が一番愛してやまない、そして誰にも見せられない自作の設定がぎっしりと詰まっている。

『白焔の堕天光使(ルシフェリア・セラフコード)』。


ノートを手に取ると、俺は布団から身を起こし、鏡の前に立つ。

そして、その顔に自然と笑みが浮かんでしまう自分に少しだけ驚く。

鏡の中で、ぼんやりとした自分の顔を見つめながら、全身の血が、まるで役に立つわけでもないのにじわじわと熱くなるのがわかる。


「我が名は白焔の堕天光使……今宵もまた、世界の均衡を護る者なり。」


キメ顔で、低く、力強く呟く。

内心では、「よし、完璧だ!」と思うが、実際のところ、誰にも聞かれていないのが少し残念だ。


だが、この瞬間だけは俺の世界が、他の誰にも理解されないほどの強さと輝きを持っているような気がするんだ。


──闇系、な。


俺は心の中で、そんな選民思想に酔いしれる。

「光系=真の選ばれし者」という俺の確固たる信念を胸に、鏡の中の自分に語りかける。

だがそれは、あくまで俺の中だけで成り立つ、完璧な論理。


「闇系の奴らは、中二病の初心者だって気づいてないんだよな。ほんと、目覚めが遅すぎる。」


鏡に映る自分の顔をじっと見つめながら、心の中で決意する。

──俺は選ばれし者だ、誰にもわかってもらえないとしても、それが運命だ。


そんな風に自己満足している俺は、ただの14歳の中二病男子、黒川天馬だ。

その証拠に、今も変わらず俺はこうして、ひとりで「堕天の使徒」を名乗って、無駄にキメ顔を作っているのだ。


──俺の世界はまだ、誰にも理解されていない。


だが、それでいいんだ。


──登校準備中、いよいよ俺の中二ノートの内容が本気を出す。


さっき鏡で決めたポーズを引きずりつつ、俺は机の前に座り、ノートを開いた。

手のひらにノートの表紙を押し付け、改めて深呼吸してからページをめくる。


「──光より堕ちし天罰の鍵、そして救世の巫女、彼女たちに囲まれし私は──」


鼻で笑うように呟きながらも、心の中でふつふつと湧き上がる興奮を隠しきれない。

ここには俺の「世界」が広がっている。


「……よし、ちょっと今日は新たな巫女を加筆しておこう。」


ああ、また妄想が爆発しそうだ。

俺は早速、ノートに新しい設定を追加し始める。


「堕天の巫女・アリスフェル・クラリティア。光の世界に堕ちた、最強の者。」


すると、想像の中で、アリスフェルが俺の前に現れ、膝をついて俺に告げるのだ。

「お前が選ばれし者、天馬。」と。


そんなことを描きながら、俺はにやける自分を必死に隠した。


──だが、決して誰にも見せることはない。

これは、俺だけの秘密。


──だが、現実の俺は、どこにでもいる中二病男子に過ぎない。


「ねえ、天馬。鏡の前でポーズとってたでしょ?」


不意に、母さんの声が聞こえてきた。

振り向けば、母が眉をひそめて立っている。


「いや、別に、そんなことは……」


言い訳する暇もなく、俺は思わず顔を真っ赤にした。

──まったく、母さんにはわかってもらえないんだよな。


「わかっていない……この世界に危機が迫っていることを。」


俺は心の中で呟く。

だって、今日も続く穏やか現実を俺が護っているんだから。

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