第28話 実技試験(最終ラウンド)


 口から血が溢れ、地面に吐き出す。剣を杖代わりに足を進め。椅子に倒れ込んだ。全身が痛く、ボロボロだ。


「ねぇ、レオ君。次ダウンしたら、止めるよ?これ以上は流石に……」


 フィオナが近づき、再び水筒を渡しながらレオの隣に座った。心配に満ちた言葉。けどレオは頷かない。


「ダメです。俺は絶対に諦めません!」


 諦めるなんて出来るわけがない。せっかくの姉と一緒に働くことが出来るチャンス。ここで諦めて不合格だったら未来のレオは自分を許せないだろう。


(一番嫌なことは、お姉ちゃんがまた泣いてしまう。悲しんでしまう)


 仮に不合格になったら姉は自分の責任だと感じるだろう。再び心を痛め、無力感に包まれるに違いない。


(絶対に合格するんだ!)


 心に喝を入れ、木剣を握る力を強める。


「レオ君……」


 そんな彼の様子をフィオナは複雑そうに眺める。筆記の採点が終わっていない以上、フィオナも彼が合格出来るのかは知り得ない。無責任に現時点で合格出来るとは言えないのだ。


「フィオナさん。俺は最後まで頑張ります!なので、止めないで下さい!」

「……わかった。けど辛くなったら言ってね?」


 そんなフィオナの言葉にレオはゆっくりと首を横に振る。姉を悲しませるより辛い事など無い。


(お姉ちゃんと一緒に過ごす為なら、どんな痛みでも我慢する!)


 たとえダウンし、傷つき、血反吐にまみれても、手が動けば、剣を握れれば、レオは必ず立ち上がる。そして自信を持って姉に合格を報告するのだ。


「ありがとうございます。でも俺は大丈夫です!」

「……レオ君、木剣はまた交換した方が良いよ」

「はい!」


 そこでふとレオは木剣を眺める。さきほどのラウンドではヒビが入ったような音が鳴った。斬撃の衝撃で剣も限界を迎えたのであろう。


(あれ?特にヒビは無いな)


 剣を打ち合った凹みは至る所にあるが、どこにもヒビは入っていない。だが、確実にヒビが入る音がレオの耳に入っていた。


(俺の剣に凹みは無い。という事は……)


 ヒビが入ったのはシルビアの剣だろう。彼女の方を向くとフィールドの中央に立ったままで剣を交換している様子はなかった。


(シルビアさんの剣を折る事が出来れば……、もしかしたら流れを変えられるかも……、それしか道はない……)


 休憩時間が終わると、新しい剣と共にレオはフィールドに足を踏み入れる。


「第3ラウンドを始めます!両者、位置について!」


 フィオナが審判として注目を集めると観衆がざわめく。


「え?嘘でしょ?まだ続くの?」

「ねぇ、見てよ。あの子の目!全然、諦めてないよ」

「すごいよね。私ちょっとだけ、あの子の事を応援しちゃうかも」


 何度も立ち上がるレオに向け、僅かだが応援の声が聞こえ始める。最初はアウェイだった空気が着実に変わっていた。

 

 周囲を眺め口元が緩んでいるシルビアと向き合い、レオは彼女の剣を観察する。


「3ラウンド目まで進むとは驚きだ。素晴らしいよ。レオ殿」

「ありがとうございます。俺は絶対に合格しないといけないので」

「そうか。まぁ実技試験はこのラウンドが最後だろうな」


 話す間にも彼女の剣を見るだが、なかなかヒビが見つからない。


(どこだ、どこにある!)


 目を凝らしてみるが、何も見えない。


「構え!ファイトっ!!」


 ヒビに意識を向けている間に剣が迫る。彼女の動きははとても3ラウンド目とは思えない。疲労が見えず、洗練された動き、シルビアの剣は容易にレオの腹部に叩き込まれる。


「ぐっ!」


 レオが倒れ込む。先ほどまでの打撃が蓄積しており、一気に意識が飛びそうになってしまう。


「あ、ガっ……」

「ワァァァーーーン!トゥーーーーッ!」


 カウントが響く中、希望が見えた。倒れ込んだ地面から彼女の剣のヒビが見えた。


(そこか!そこに隠れてたのか!!)


 剣の中央部、フラーの溝、その場所に希望の光は隠れていた。

 必死に吐き気を抑え、口元の血を拭いなんとか立ち上がる。だが、フィオナはカウントを続けながら、レオの顔を心配そうに見ていた。


「エェェイトッ!!ナァァァイン!大丈夫?やっぱり辞めようよ。限界でしょ?」

「大丈夫です!続けてください!」


 折角見えた光、それを目の前にして絶対に逃げる事はしない。レオは再びシルビアに向き合い剣を向ける。


「……、ファイトっ!」


 迫る剣に剣を合わせ、斬撃を防いでいく。


(折れろ!折れてくれ!!)


 ヒビが広がるように剣を動かすが、なかなか思った場所に当たらない。剣を折ることに意識を集中してるせいか、防ぎ切れなかった彼女の剣が体中に当たる。


(痛い!くそ!!)


 防御に徹し、ひたすら彼女の剣を受け続ける。その時、レオの肩に彼女の剣が当たり、ピシリと剣が悲鳴を上げた。


(今だ!!)


 痛いのを堪え、必死に彼女の剣に向け、打撃を繰り出す。渾身の力、全体重をかけ、彼女の剣にトドメを刺す。


「うおおおおおおお!!」


 その瞬間、鈍い音と共に、彼女の木剣は真ん中から真っ二つに両断された。剣の半分は宙を舞い、彼女の手元にあるのは残りの半分だけになっていた。

 

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亡姉の面影を宿す姫騎士との絆〜孤独な少年騎士は敵国の姫騎士から愛を注がれる 泉岩代守 @izumiiwashironokami0730

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