第17話 王都への船旅

 窓から凛川街が見えなくなるほど船が進んだ時、客室に食事が運ばれた。魚料理が中心に再び贅沢な料理が並んでいる。


「お姉ちゃん、この船すごいね!食事も美味しいよ!」


 船上とは思えないほど、手の込んだ料理の数々にレオは驚いてしまう。オルテリアに入ってから、レオは高級料理ばかり口にしている気がした。こんな生活が出来るほど偉くなった姉が誇らしい。

 

「そうだね、レオ。王都まで行ける良い船だからね。レオは王都に着いたら何がしたい?」


 王都に着いてやりたいことなんて決まっている。レオはずっと夢みていた事を実現したかった。

 

「もちろん、お姉ちゃんと一緒に騎士として働く事だよ!一緒に色んな任務をしたいよ!」

「ふふ、お姉ちゃんもレオと一緒に任務をしたいよ。どんな任務がいいかな?」


 レオは少し考え込み、興奮した声で続ける。

 

「うーん……お姉ちゃんと一緒に戦える任務もしたいし、鍛錬とか、あと冒険とかダンジョンとかも探索したい!けど、何でも良いよ!姉弟で一緒に働ければどんな任務でも嬉しいから!」


 アリシアは彼の言葉に心が温かくなる。彼に正体がバレるリスクはあるが、彼との王都での生活を想像して、希望が膨らむ。


「あぁ……、お姉ちゃんも同じ気持ちだよ。色々な任務をしようね。……時間はいくらでもあるんだから」


 あの秘策……、その準備が出来ればアリシアとレオは永く一緒にいられるだろう。彼女はレオに微笑みながら決意を更に固めた。レオの為にも何をしても成功させる。


「うん!お姉ちゃんといっぱい一緒にいられるね!」


 二人は笑い合い、夢のような未来を語り合う。アリシアは心の中で、秘策が成功し、この関係が末永く続くことを願った。


 食後、アリシアはレオに昼寝を提案する。昨夜は寝るのが遅い時間だったので、彼が時折欠伸をしてるのが見えていた。


「レオ、昨日も遅くまで起きてたし、今日は体力を回復させるようか。お姉ちゃんの膝で寝て?」

「え、でも……」


 アリシアは優しく微笑み、膝を叩いた。

 

「明日から忙しくなるからね。ほら遠慮しないで」


 レオは最初は抵抗したが、少し照れながら、彼女の膝の上に頭を乗せる。アリシアは優しくレオを撫でているとすぐに彼は眠りに落ちた。

 彼女はレオの寝顔を眺めながら静かに紙とペンを取り出す。彼の穏やかな寝顔に愛しさが胸を満たした。


(レオ……、君の側にいるという約束、絶対に離れないという約束……、私は絶対に守るからね)


 彼女は王都での計画を煮詰めながら、手紙を書き始める。レオと一緒に暮らすには、アリシアの住まいである離宮での準備が必要だ。彼女は計画を実現するため、離宮の家臣達への命令を事細かく書き出す。離宮の部屋の変更、レオの部屋の準備、家臣たちへの口止め。設定の共有……。全て詳細に記す。

 レオに正体がバレないよう、姉として振る舞える環境を整える。


(これでレオの心を傷つけず、この子の『姉』として、ずっと側にいられる。)


 アリシアは思った。国王夫妻とその子供達は王宮に住んでいる。唯一、側室から生まれた自分だけは離宮に追いやられていた。彼女はあの冷たい扱いに不満はあるし、様々な思いを感じていたが、今はそれが有り難い。離宮ならアリシアの好きなように調整出来る。レオと一緒に住むことが出来る。これがアリシアも王宮住まいだったらレオと過ごすのは不可能だった。


(ふふ、この私が離宮で暮らしている事の利点を感じる日が来るとはな……。今までは辛かったが、今は感謝している……)


 手紙を書き終えて封をする。日暮れが近づき、遠くに王都の城壁が見えてきた。

 王都の船着き場に着くとアリシアはレオを起こし、 船を降りる。役人が待機しており、アリシアはそっと手紙を託した。


「これを離宮へ、急ぎだ」


 役人は頭を下げ、馬で去っていった。アリシアはレオの手を握り、王都の賑わいを見せる。


「お姉ちゃん、王都はやっぱりすごいね。今までの街とより更に大きいよ!あそこは何の建物?」


 アリシアの少し後に船から降りたレオは王都の光景を見て目を輝かせている。

 オルテリアの王都は北は運河、東は川で挟まれ、水運が発達した大都市だ。人口は20万近くあり、中心部には街の象徴にもなっている王城がそびえ立つ。南西にそびえ立つ二重の城壁は王都の守りの堅さを物語っていた。


「レオ、楽しそうだね。今度、案内するよ。今日はもう遅いから、王都の宿で泊まろう。お姉ちゃんの職場には明日行こうね」


 アリシアは離宮の準備が出来るまで、帰るわけには行かなかった。すぐに向かったら、レオに王女である事がバレてしまう。その為、今日は離宮に帰らず、王都の宿へと向かう。


「うん!わかった!楽しみだよ!」 


 二人は王都の宿に向かった。アリシアの離宮は王都の北側に有り、その近くの宿に入る。部屋はまた豪華で風呂も備わっている。夕食を済ませるとアリシアはレオを引き寄せ、囁く。


「今日も一緒にお風呂に入ろうか。レオも疲れたでしょ? ゆっくり温まろう。今日はお姉ちゃんがレオの髪も洗ってあげるよ」


 レオは頬を赤らめながら頷く。アリシアは今日は酒を飲まなかったが、昨日と同じようにレオの背中を洗ってあげた。


「お姉ちゃん、王都では一緒に暮らせるんだよね?」


 湯船に浸るとレオの心配そうな呟きが響く。アリシアはレオを背中からぎゅっと抱きしめる。


「もちろんだよ。レオ、ずっと一緒だからね。心配しなくても大丈夫」

「うん!」


 風呂を上がり、二人でベッドに横になるとレオは希望に満ちた声で言った。


「お姉ちゃん、明日から一緒に働けるね!楽しみだよ!」


 アリシアは彼を自分の胸に引き寄せ、包み込むように抱き締めながら頷く。


「あぁ……お姉ちゃんも楽しみだよ、レオ」


 二人は王都での新たな生活を夢見ながら眠りに落ちる。レオは姉と働ける希望に満ち、アリシアもレオとの日常を楽しみにしていた。王都の夜は静かに更けていった。 

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